第12話「新たな転校生と吹奏楽部の波紋」
秋の風が涼しく校舎の窓を揺らすある日の朝。
佐倉梨奈は、部室の窓から外を眺めていた。文化祭の成功と姉や両親の応援が胸に残り、全国大会への意気込みが日に日に増している。しかし、同時に心のどこかに小さな不安もあった。
「梨奈、ちょっといい?」
扉がノックされ、顧問の箕輪菜々緒先生が入ってきた。
「新しい転校生が来ることになったわ。吹奏楽部に入部希望よ」
「新しい転校生……?」
「霧島颯太。かなりの実力者らしいわよ」
数時間後。
颯太は、整った顔立ちと落ち着いた佇まいで部室に現れた。
「霧島颯太です。よろしくお願いします」
その第一声は低く澄んでいて、まるでプロの音楽家のようだった。
部員たちは一瞬で彼の存在に圧倒され、ざわめきが広がった。
颯太は早速、練習に取りかかると自分の理論やスタイルを示し始めた。
「俺はこういう吹き方で音楽を作る。みんなも俺に合わせてくれ」
それは既存の練習方法や部の雰囲気と大きく異なり、部内に緊張感が走った。
「俺のやり方を認めてもらえなければ、俺はやめる」とも言い放つ。
佐倉梨奈は焦りを感じた。
「せっかくみんなで努力してきたのに……でも、颯太さんの技術は確かだし」
葛藤に苦しみながらも、梨奈はある決意をする。
その日の夜、梨奈は姉・梨乃茅に電話をかけた。
「お姉ちゃん、転校生が来て、吹奏楽部が揺れてる。どうしたらいいかわからない」
梨乃茅は穏やかに答えた。
「大事なのは“自分を見失わないこと”よ。颯太くんは才能あるかもしれないけど、あなたにはあなたの色がある。ぶつかり合いながらも、尊重し合える関係を作るのがチームの強さになる」
その言葉は梨奈の心に深く響いた。
「ありがとう。私、諦めない。私たちの音楽を守りたい」
翌日の練習で梨奈は颯太と話し合いの場を設けた。
「あなたの意見も大事。だけど、私たちのやり方もある。お互いに歩み寄らない?」
颯太はしばらく黙っていたが、やがて静かにうなずいた。
「わかった。やってみよう」
そこから少しずつ、部内の空気は変わっていった。
新しい風は確かに吹き込んだが、それは壊すための風ではなく、磨き上げるための風だった。
梨奈は自分の成長を感じながらも、まだまだ道のりは長いと実感していた。
だが、家族と仲間、そして新しい仲間とともに、彼女は前を向いて歩き続ける。
秋の夜空に響く練習の音は、次第にひとつの調和を帯びていった。