混ざり者
3人の間にピリピリとした空気が流れる。
私とフェルを抱える虎さんは煽るようににこやかで、エルフさんは指先の炎を消す気はないようだ。
だけど遊んでいるような2人と比べて、静かに殺気を放っている狼さんが1番恐い。
「私が邪魔されるのが1番嫌いって、知っててやってるわけね?」
「まあなー」
「このクソどらァァァ!!」
「おっとっと!はっはー!お前さんが怒ると単調な攻撃しかできないことも知ってるんだぜ」
虎さんは両脇に小娘2人を抱えていながら、軽やかにエルフさんの攻撃を避ける。
さすが筋力最強。
そしてエルフさんの攻撃は5属性の複合魔法を連発するという、これまた奇想天外な攻撃だ。
さすが魔力操作に長けた一族。
弓は使わないのかな…?
「ディガー」
そんな2人に割って入るように声をかけたのは冷徹な目をした狼さんだ。
相変わらずその視線はフェルへと向けられている。
「なんだぁ?」
「そんなものに触れていると穢れるぞ」
視界の端でフェルがビクリと体を震わせた。
フェルは恐らく、フェンリルと人間のハーフだ。
だからこそ狼さんの言う"穢れ"が何を指すのか、向けられる視線の冷たさの意味を理解してしまった。
狼さんからしたら、フェルは一族の恥とでも思っているんだろう。
「はっはー!こんなので穢されてちゃあワータイガーの名に恥じるってもんよ!はっはっはー!」
そうして笑い飛ばした虎さんは、そのまま廊下の端までひょいひょいと跳んで行く。
狼さんが穢れの発言をしてからエルフさんも攻撃をしてこなくなった。
指先の炎も消えている。
彼女も何か思うところがあるらしい。
「王のとこへは俺様は後から行くって伝えといてくれ!じゃあな!」
そうして、襲い来る浮遊感。
虎さんが廊下にあった大きな窓を開けて、そこから軽々と飛び降りたのだ。
普通の人間なら余裕で死ぬ高さを、なんの躊躇いもなく飛ぶ。
悲鳴をあげる暇もなく着地の衝撃が襲ってきて、だけど考慮されていたらしくどこかが痛くなることは無かった。
「ここまで来りゃアイツらも来んだろ」
地面に降ろされて私は膝から崩れ落ちそうになる。
最後の落下が内蔵にきた。
足に力が入らず震えている。
横では同じく降ろされたフェルが、膝から崩れ落ちて俯いてしまった。
やっぱり怖かったよね。
「なんか知らんけどお前さんらも大変だな。あーあフェリックスの野郎、ありゃぁしばらく不機嫌のままだろぉなぁ」
「お、遅くなりましたけど、助けてくださりありがとうございます」
「ん?あぁ、まぁ。俺様は弱いものいじめが好きじゃねぇんだ。フェリックスの気持ちも分からんでもないが…」
「フェリックスとは、先程の狼さんですか?」
「狼、さん!?はっはー!はっはっはー!」
強面の白虎がお腹を押さえて大爆笑し始めた。
そんなにおかしなことを言ったつもりはないのだが、まぁ不機嫌になって襲われるよりマシなので落ち着くまで待とう。
横で座り込んでいるフェルも目の前の光景に驚いたように見つめていた。
「あっはっははは、あー、はー、悪ぃな。ちょいとあまりにも聞き慣れねぇもんでツボに入っちまった」
「…いえ、大丈夫です」
「俺様の名はディガー。その狼さんがフェンリルのフェリックスだ。本人の前で狼なんて呼んだら発狂しそうだからやめとけぇ。それから、あともう1人が変態だ」
「へん、たい?」
ぶっふふ、と自分の発言に笑いが漏れるディガー。
モノクルをつけた銀髪の女性は、変態というより理知的なイメージだった。
あぁでも、途中からは感情的に暴走していたな…。
変態とは欲望に忠実に生きて、人様に迷惑をかけることを厭わない自己中的な存在のことを指すと思うのだが、彼女がそうらしい。
「あれはリーシャ、見つけたら逃げろ。何されるか分かったもんじゃないからな!」
「ご、ご忠告感謝します…」
イマイチ偏った意見を刷り込まれている気がするが、親切心かもしれないので一応受け取る。
用心に越したことはないだろうし。
次にディガーの視線はフェルに注がれる。
正直人間から見て、先程のフェリックスとフェルの大きな違いは分からない。
どちらも人の姿をしていて、フェルは耳と尻尾が生えているだけなのだから。
「なぁ、お前さんは俺様を見てどう思う?」
フェルに向けられたらしいその言葉を私は黙って見守ることにした。
フェルは恐る恐ると言った調子でディガーを見上げ、すぐさま下を向く。
「り、立派だと思う、でございます」
「俺らワータイガーが本来は黄金の毛並みをしていると知っててか?」
「え、と…?白は珍しい、と思われています?」
「ん?あぁうん。そうだ。俺は一族の中でも馬鹿にされてたくらい変色なんだ」
それが今は長だと言うのだから凄いことだ。
実力主義だと思われるワータイガーの一族の中で虐げられた彼が、どれほど努力したのか私には計り知れない。
きっと今のディガーに聞いても、「ちょうどいい修行だったな!」と言って笑い飛ばしてしまいそうだけれど。
大勢の中で孤立することが、どれほど辛いかは私も知っている。
「親無し」 「孤児」 「厄介者」 「穀潰し」
直接でも、そうでなくても、そう言われていることは知っていた。
優しくしてくれている人たちも、同情心の中に正義感や優越感が滲み出ていたことだって、気づかない振りをしていただけだ。
「メルフィ様?」
声をかけられて、いつの間にか心配そうなフェルが私の目の前に座り込んでいる。
落ち込んでる子に心配させてしまった。
小首を傾げるその仕草が可愛らしくて頭を撫でる。
心地よさそうに目を閉じて擦り寄ってくるフェルは、大きな犬みたいで無意識に頬が緩んだ。
「ま、人間でも獣人でもなんでも、頑張りゃなんとかなるさ。そろそろ行かねぇと、王を待たせてるからな」
「ディガー様、改めて助けていただきありがとうございました」
「様なんて呼ばれるような柄じゃぁねェ。ディガーと呼んでくれ」
片手をあげて立ち去るディガー。
軽く会釈をして、私は本来の目的だったお庭の散策を始めることにした。




