金狼と白虎と銀髪のエルフ
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魔王城に来て1週間が経った。
あれから魔王に吸血行為はされていないし、そもそも部屋から出ていない。
身の回りの事は全てフェルがやってくれ、用があれば魔王の方から赴いてくれる。
そんな私はフェルに使用人とはなんたるかをやんわりと教えつつ、それにも少し飽きてきた。
「ねぇフェル。お庭を散歩するか、本なんかあると助かるのだけど…」
朝から晩まで何もすることがない。
食事と窓の景色を眺めているだけの日々。
そんな私の質問にフェルの耳がピクピクと反応して、珍しく困り顔になる。
「うむむぅ…。マオーさまに聞いてみますです!」
水が入った桶を持ったままフェルが扉の向こうへと消えていく。
走ったら危ないと何度か教えたけれど、カーンという何かがぶつかる音と水の広がる音がしたのは気のせいだと思いたい。
しばらくして戻ってきた彼女の服装が、先程と変わっていたことで気のせいじゃなかったよなぁ、と思う。
「マオーさまから許可をいただきたました!こっちこっちですよ!」
ニコニコとしているフェルは今日も可愛らしい。
ここでは人間のお城のように侍女やメイドといった、給仕を生業としている者はどうやらいないようだ。
初日も給仕服とは程遠いただの白いワンピースを着ていたフェル。
だから今は簡素な膝丈ドレスに、私流のアレンジを加えたメイド服を作り上げて着せている。
可愛い尻尾とよく動く耳と、私の作ったメイド服の最高の組み合わせが目の前で動いていて眼福だ。
「フェル、前見て歩かないと危ないでしょ」
「むむっ、平気なんですよ!」
「そんなこと言ってさっきもコケてなかった?」
「んぬぬっ!?気づかれておった」
フェルの言葉遣いは、こう、むずむずする。
指摘したくてもどう矯正したらいいものか。
子どもらしさと魔王っぽいのと、頑張って使おうという敬語らしきもの。
ま、可愛いから許せちゃうのだけど。
「ん、おや、これはまずいです、かも知れぬか?」
不意にフェルが廊下の先を見つめて立ち止まった。
獣人であるフェルの耳だけじゃなく、私にも聞こえてきた足音。
人間には大きすぎる長い廊下のその先から、数人の足音が響いてくる。
真横でフェルはオロオロとし始め、あまり良くない人物が来ているようだ。
「あれは」
「おぉ?」
「あら?」
廊下を曲がってきた3つの影の声が重なる。
金色の長い髪を膝まで伸ばし、それを馬の尻尾のように結んでいる美丈夫。
真っ白な髪がたてがみのように広がった、体躯の立派な白虎の獣人。
そしてその虎さんより輝くような銀髪の、モノクルをつけた線の細い美しい女性。
ぱっと見るだけならば虎さんが1番強そうではある。
だが、近づいてくるにつれてその3人の威圧感は、差がないほど強いものだと感じた。
「これが王のお気に入りか。なんともひ弱そうな娘だ」
「はぁ、これだから脳筋の馬鹿虎は。この子が普通に見えるってんならアンタの目は節穴よ!」
虎の獣人と言えば、魔族の中で最も強い筋力を誇っているワータイガーの一族だ。
そして気の強そうな女性は、銀色に輝く木製の弓を持っている。
魔族で武器を主に使う種族は限られているからすぐに分かった。
それはエルフの象徴であり、魔族屈指の魔力量と操作力を誇る一族だったはず。
「全くお前たちはいつもいつも…、痴話喧嘩なら他所でやってくれないか」
「「痴話喧嘩じゃない!!」」
金の髪に翡翠の瞳。
頭に耳はついていないし、顔も体も人間のそれと変わらないけれど恐らく彼はフェンリル。
魔族の中で最も多くの数を統率して、軍勢として戦う厄介な一族。
前世では最も苦労した覚えがある。
個々の力も強く、統率力があって、なにより命尽ききるその時まで諦めない根性。
首を落として、その頭部を破壊するまで死なないとまで言われていた。
「して、人間。ここで何してるんだ?」
「まさか王の元から逃げる気だったか?」
「あらあら?よく見たら人間のそばに居るの、子犬ちゃんじゃない?」
3人が近づくにつれて、私の後ろへと隠れていたフェル。
そのフェルに気づいたのがエルフの女性。
フェルを見る目から光が消えて、口元に微笑を称える彼女だが、その美貌が僅かに歪んで見えるのは気のせいだろうか?
フェルが怯えている。
ここで私の味方は魔王とフェルだけだ。
私はかつて、あの姫が私の魔力を奪ってそうしていたように、私とフェルの周りに半透明の魔力の障壁を展開。
「!?」
バチッと僅かな電流が走って、エルフさんの手を少しだけ弾いた。
銀色の髪に良く似合うアイスブルーの瞳が私へ向いて、ニヤッと口端が上がる。
睨まれているような、見下されているような顔でこちらを見下ろす彼女を、私は真っ直ぐに見つめ返した。
内心、牙を向かれたらどうしようかと不安だったが、それを悟られてはいけないと必死に取り繕う。
「ふっ、フフフッ、ねぇーえ?アナタはその力でこの3人に同時に襲われても対抗出来ると思っているのかしら?」
ニッコリと妖艶に微笑むエルフさん。
今の私では勝率など無いに等しい。
だが勝つか負けるかならばの話であって、戦わなければ生存率はある。
「そ・れ・と・も」
口元に人差し指を添えて、彼女は鋭い犬歯を見せるように笑った。
美しさが消え、美しかった彼女が例外なく魔族なのだと思い知らされる。
「王のお気に入りだからと、私たちが何も出来ないと思っているのかしら?だとしたら、それは大きな勘違いだわ!人間風情があまり調子に乗るもんじゃないわよ!!」
彼女の指先に5色の炎が灯る。
それは5属性の魔力が同時にそこに存在している証で、彼女が魔法の超越者であることを意味していた。
歪んだ笑顔でその手を振り上げ、炎が燃え盛ったと思えば私の薄い防御など容易く破壊される。
「あらあら?なんのつもり?」
私の知識ならば、彼女の攻撃はギリギリ躱せるはず。
だから防御が壊れたその直後、強い力で後ろに引っ張られたのことには冷や汗をかいた。
彼女の真横に立っていたはずの虎さんが、私を担いで助けてくれたらしい。
もう片手にはフェルもいる。
「なぁに、ちょいとした嫌がらせだ」
ニカッと笑う虎さんと、青筋を立てるエルフさん。
そして、これ以上ないほど冷ややかな目でフェルを睨みつける狼さんの三つ巴となった。




