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エルフと白虎 後編

のぼせそうだった私は先に上がって、用意されたテントの中へ。

大きめのテントの中には毛皮で用意された大きなベッドが1つと、テントの中を温めるための焚き火。

そしてちょっとしたソファが置いてある。

1日2日ここにいるだけならソファは設置しないはずだけど、1年も一緒にいれば私の好みを分かってくれているらしい。


「あ、シチューまで火にかけてある」


人気のない天然温泉は早々見つかるものでもなく、安全が確認できるのなら1週間くらい滞在しちゃいたくなるのが私だ。

それを見越して色々設置してくれているディガーには感謝しかない。

ゆったり過ごせる服に着替えて私は食料の在庫を確認する。

うん、1週間くらいは余裕で過ごせるわね。


「シチュー、大丈夫そうか?焦げてねぇ?」


「よくあの短時間で作ったわね。大丈夫そうよ」


「ま、手際もあがるよな」


布に包まって戻ってきたディガーは、焚き火の前で髪の毛をわしゃわしゃとテキトーに拭いている。

全然濡れているのにさっさとタオルを放り投げてしまった。

もう!1度人型になると数時間はそのままで居るくせにそんなに雑だと風邪を引いてしまう。


「またちゃんと乾かさないんだから!ほら座りなさい」


「えー、別に良くねぇかぁ」


「駄目」


しぶしぶといった様子でソファに座るディガーの髪をタオルで拭き始める。

普段の虎顔ではそんなに表情筋は動かないのだが、人型の時の表情は割と豊か。

気持ちよさそうに目を細めているのが、ソファの前に置かれたコップに反射して見えている。

あんなに雄々しい顔の虎のくせに、人になった瞬間少しだけ幼い顔立ちなのは反則よ。


「あとでホットミルク作ろうぜ」


「いいわね!」


丁度二日前に買ったばかりのミルクはシチューだけじゃ余っているようだ。

寒いとはいえ、早めに消費するに越したことはない。

私はホットミルク大好きなので、食後のそれが楽しみになった。


「リーシャ」


「なに…ひゃあっ!?」


拭いてあげていた手を掴まれて何事かと思えば、突然引っ張られてソファの後ろからディガーの膝の上へと移動している。

人型で少し細身になるとはいえ、筋力はそのままらしいので私なんて軽々と抱えられるらしい。

だとしても驚いたからムカつく。


「人型の俺ってそんな慣れねぇの?」


「え、な、なんで?」


「いやぁ、あんまり目が合わなくなるからよ」


うぐっ、変なところ鋭い。

慣れないというか恥ずかしいというか、正面から見るのはイケメンの暴力だと思うの。


「さみしぃなーって」


「アンタ、そんな可愛いこと言うような性格してないでしょうがっ」


「えー、それは偏見がすぎねぇか?」


私はディガーの上でじたばたと藻掻く。

だけど体を起こそうとしても、横に転がって逃れようとしてもディガーの腕からは逃げられない。

私が藻掻く様を見て楽しそうに見下ろしてくるその顔が好みすぎて、虎の顔だったらぶっ飛ばしているところだ。


「もう!降ろして!離して!!」


「なんで?」


「なんでって、し、シチュー食べたいし」


「まだそんな腹減ってねぇだろ?」


今はもう夕方ではあるけれど、お昼ご飯を食べたのが遅かったから確かにそんなにお腹は空いていない。

このバカ虎!

察してよ!

アンタの顔が近いのが落ち着かないのよ!バカ!


「なんていうかなぁ、俺の方がオナカスイタ」


「…は、へ」


よいしょ、と言って難なくソファから私を横抱きにしたまま立ち上がるディガー。

その足が向かう先はベッドがある。

まだ夕方である。


「お、お腹空いたなら、シチューを食べましょう?」


「うん?」


「ディガー?」


「うん」


「ディガー??なんで私ベッドに……」


ま、2人きりの旅とはそういう関係になるのもそう時間はかからないわけで。

エルフとワータイガーなんて異種族もいいところだ。

暗黒の地というか仲間のいる土地でそんな関係になれるわけもなく、私が飛び出した理由はそれも含まれている。

秘密基地のようなあの場所で2人きりで話してから、私の中のディガーの存在は大きかった。


「あとで絶対殴る」


「じゃあ殴る元気もなくなるくらい抱くか」


「は!?ちょ、やめっ、っ!〜〜〜!!」


どちらから告白したとかはなかった。

そういう雰囲気で、勇気のない私を前にディガーが動いてくれただけ。

恋人だとお互い言い合っているわけじゃない。

口に出したら、なんとなく違う気がした。

でも心では繋がっていると信じている。


「ディガー…」


「うん?」


「……ディガー」


言葉にできない想いは名前を呼んで伝える。

伝え合う。

優しく振ってきた口付けは徐々に深いものになって、私は愛しい気持ちを涙にして零した。


「リーシャは何してても可愛いな」


不意に零された一言にただでさえ熱い顔が、さらに熱を持つのを感じる。

こういう時にこういう事をその顔で言うのは、狡い。

好きって、愛してるって、返したくなる。

誰にも許されないだろうこの関係に、いつか終わるかもしれない関係だから言いたくないのに。


「リーシャは可愛いよ。すげー可愛い」


「うる、さい…っ、んん」


涙がこぼれるのは嬉しいからか、虚しいからか。

私は愛してるの代わりに名前を呼んで、ディガーは可愛いと微笑んでくれて。

不満がないと言えば嘘になるけれど満足はしている。

大好きだった人とこうしていられるだけで私は幸せだと思えるのだ。

だから、できる限り一緒に。

これからもずっと…。




「 「愛してる」 」


ありがとうございました!(*^^*)

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