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少女と金の狼と魔王

フェルと母親と魔王に出会うまでの話。

少女は孤独だった。

険しい山道を1人で登り、祀られている神に捧げものをするのが少女の仕事。

幼い頃から毎日毎日山を登って降りるだけの日々。

そんなある日、少女は怪我をした美しい金色の狼を見つけた。


「なんて酷い怪我!手当してあげるわ」


少女は服を破り、薬草を集めて狼を癒した。

それから山へ登る旅、祭壇のそばに獲物が転がるようになった。

少女は狼の恩返しだと嬉しく思う。

少女の持ち帰る獲物を見て、人々は神様と少女に強い繋がりを感じ少女を称えた。

少女は1人では無くなったが、少女にとっては狼だけが大切な存在だった。


「ありがとう」


ある日、いつものように山に登った少女の前に、美しい金髪の青年が現れた。

男子禁制の山にいるはずの無い人がいて少女は脅えたが、すぐにそれがあの狼だと悟る。

それから何度か少女と青年は話していたが、ある日少女は山へ登らなくなった。

人々が母親になった少女を奇跡だと閉じ込めてしまったのだ。

青年は再び狼になって少女を捜し求めた。


「巫女様を狙っている!殺せ!!」


狼は再び大怪我を負い、その後二度と現れることはなかった。

少女は大きくなったお腹を抱えその姿を消した。

人々は神様が少女を連れて行ってしまったと項垂れ、それから新しい少女が山へ登り続ける。


「いつかきっと迎えに来てくれる」


少女は孤独ではなくなった。

苦労は増えたけれど愛する娘と共に狼を待ち続ける。

愛する娘は狼によく似ていた。

人間とは違う娘に戸惑いつつも、彼女は愛情を注いで注いで死んでいく。

死ぬ間際まで娘は幼いままで、心配でたまらないまま彼女は眠りについた。


「ママ?ママ起きて?ママァ?」


「お前の母親はもう眠りについたんだ。名前は?」


「ママおねんねなの?フェルの名前はフェル!」


「フェルか。フェル、おいで。お前のあるべき場所へ連れていこう」


黒くて綺麗な赤い瞳をした男の手を、一人ぼっちになった小さな少女は握り返した。

二度と目覚めない彼女の意味を、少女は10年以上経ってから理解する。

親や兄弟、仲間を見て成長するフェンリル族。

50年以上もフェルが成長を止めていたのは、色々な要因があったのだと思われる。

家族のような、友人のような愛情を与え合う存在がいなかったこと。

フェル自身が母親の死を受け止めたくないと思っていることもあったのだろう。


「魔王さま?」


「お前と2人きりで話すのは久しいな」


「確かに。魔王さまのそんな顔、初めて見るですよ」


「体調は大丈夫なのか?」


「はいです!シルディ姉さまもメイベルさまも、すっごく心配してくれますですから」


周りのことを何も理解出来ず、魔王もフェルにだけ構っている暇はなかった。

フェリックスが愛人の存在を父親から聞かされて、魔王に尋ねて来た時に探してみようと思ったのはただの気まぐれ。

フェンリルと人間の亜人は、見た目に分かりやすいだろうから少し気になった。

案外それは簡単に見つけることが出来たが、人間の方は既に息を引き取ったあとだった。


「お前の母もきっと喜ぶと思うぞ」


「…そう、だといいな」


少なくとも40年は経過しているはずの亜人の子は、5歳程度で止まっていた時は驚いた。

母親が何もしなかった訳では無いようだが、成長に必要な魔力が足りないせいもあったのだろう。

暗黒の地に来たあとも遅すぎる成長に心配していたが、メルフィやシルディアと出会ってからは瞬く間に成長した。

そんなフェルが結婚すると言って、1年も経たないうちに子を身ごもったことには驚きしかない。


「フェル、お母さんの記憶あんまりないです。だから、ちょっとだけ怖い」


子育てをしている所を見たこともないだろう。

それは最もな不安だ。


「でも、メルフィさまがフェルにしてくれたように、シルディ姉さまが気にかけてくれたように、好きって気持ちを伝えていけばいいかなって」


そう言ってお腹を撫でるフェルは、立派な母親の顔をしていた。

まだまだ子どもだと思っていた者たちが、いつの間にかこんなにも大きくなっている。

その事実に感動を覚えると共に、魔王は静かに自分も歳をとったとしみじみした。


「メイベルさまも優しいから、きっと大丈夫だって思えるんですよ!あと魔王さま!」


ニコッと笑うフェルはまだ幼い気がする。

それは幼くいて欲しいと思っている自分のせいかもしれないと思った。


「フェルを助けてくれてありがとうございます。魔王さまのおかげでフェルは色んな人に会えたし、まだちょっと苦手だけどフェリックスお兄ちゃんともお話出来て、フェルは今すっごい幸せでごわす!」


大事なところで昔の可笑しな口調が戻ってきて思わず笑ってしまった。

悔しそうな恥ずかしそうなフェルの頭を撫でて、もうこの子は子どもじゃないんだと思い直す。

艶々の毛並みと柔らかな表情はメルフィやメイベルの賜物で、2人には改めて感謝したい。


「実はこの子の名前を考えたんですけど、魔王さまに最初に教えてあげまするね!」


「そうなのか?まだ男か女かも分かってないのに」


「いいんです!最初は絶対この名前がいいって決めていまして、聞いてくれです!」


「分かった分かった。そう興奮するな」


えへへ、と尻尾が揺れてフェルは再びお腹を撫でる。

そうして自信たっぷりにフェルが言い放つ。


「メフィベルにしようと思って!本当はメルフィさまそのものが良かったんですけどー」


「待て待て待て!まんま!まんますぎるぞ!」


決して悪くは無いが、メルフィとメイベルがそのままいすきだ。

2人の子どもが生まれてしまいそうだ!!

フェルが兄妹を大好きなのは百も承知だが、さすがに止めた方がいい気がする。

俺はグルグルと頭を回した。


「メフィベルはあまりにもそのまますぎる。女の子ならフィオナ、男の子ならフィオルというのはどうだ?」


「うーん。確かに、そっちの方が可愛いかも知れませんでます!」


そうして生まれた男の子にはフィオルと名付けられ、両親ともう1人の母親からこれでもかと愛情を注がれ、さらに親戚や知り合いからも溢れるほど愛された。

妹たちが産まれてからもそれは変わらず、人々が羨むような幸せな家族になった。

孤独な少女から始まった繋がりはこうして後世に続いていくのであった。

メルフィ大好き3人組は健在です。

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