聖女でも魔女でもない彼女
本日で本編最終回です。
ご拝読頂きありがとうございました。
感想、ブックマーク、評価、いいねのおかげでここまで書けました!
感謝致します!
「あ…」
それは不意に訪れたお告げのような感覚。
「どうした?」
「もう1人姪っ子が生まれたかな」
「そうか、なら祝いに行かなければな」
その言葉が可笑しくて私は思わず声を漏らした。
その事が気に入らなかったのか、少し不機嫌そうな顔でこちらを見るラスティ。
上裸でベッドに横になる彼が不貞腐れた顔をしていると、少しだけ子どもみたいで嫌いじゃない。
「何が可笑しいんだ」
「だって、あの国から私を攫った貴方が帰してくれるってことでしょう?」
5年くらい前だろうか、シューベル王太子…今はもう陛下になったんだっけ。
その陛下が婚約者にしたいと連れてきたのが、子爵家のご令嬢。
血筋としては別に問題は無かったのだが、子爵という身分に眉を顰める大人が多かった。
そして白羽の矢が立ったのが聖女として国を預かっていた私である。
正直ふざけるな、て思ったよね。
「あれは国が悪い。滅ぼしてやろうかと思った」
「ラスティが言うと冗談に聞こえないから…」
ドラゴン程じゃないとはいえ、国1つくらいならラスティでも消せるだろう。
だからこその魔王という称号なんだろうし。
生まれる前にあの姫によって殺された王子が、王族の血統の中で生まれていたことには驚いた。
まるでねじ曲げられた運命が戻されているような偶然に少しだけ血の気が引いたくらいである。
前世でも彼はすぐに殺されていたから、私もしっかりと顔を覚えている訳ではない。
「陛下と王妃様にも立后のお祝いをしないとね」
何をしようかな、なんて思って髪の毛を整えていると突然腕を引かれてベッドへと沈められた。
背中にはラスティの体温を感じて、私はモゾモゾと腕の中をもがく。
急に倒れたせいで姿勢が悪い。
「なに?」
「どうせすぐには帰れないし、それなりにプレゼントは用意しているだろう?今は……いい」
ギュッと力の込められた腕を軽く握って、私は堪えきらない笑いで体を震わせる。
最初の印象は強そうで、次の印象は優しくて厳格な人だった。
今は大きな犬のようで、フェルと時々被るような仕草を可愛いと思わずにはいられない。
「もう少し寝れるだろう。散々働いたんだから寝ろ」
「もう!ふ、ふふ、いつの話してるの?」
「俺が暗黒の地に保護してから俺がもう1回攫うまでの話だ!あと30年は何もするな」
魔王の感覚で話されても困る。
そんな発言に苦笑いをしながら、そっとその胸に顔をくっつけた。
想っていても叶わないと思って、自分自身にも気づかない振りをし続けて…。
この体温が誰よりも心地いいことを知っていたのに、随分と遠回りをした気がする。
「ラスティ、私を何度も助けてくれてありがとう」
「改まってどうした?」
「なんだか言いたくなっただけ」
「そうか」
ギュッと優しく抱きしめられる。
前髪を手のひらで持ち上げられて、額に柔らかなキスが落とされた。
私はお返しにその頬に口付けを落として微笑み合う。
聖女としてドラゴンに荒らされた土地を浄化して、今もラスティと共に旅をしながら清めていた。
姫に壊された人々も少しずつ良くなって、人と魔族も手を取りあって、平和な未来が続いている。
「そういえばディガーとリーシャもお祝いに帰ると言っていたから、会えるといいなぁ」
実はあの2人も何処かへ旅をしている。
私たちが旅立つよりも前に2人で何処かへ消えてしまったらしい。
そんな2人とは時々だが手紙のやり取りをしていた。
お互い何処にいるかは知らないので、隣国の信用出来るとある場所に手紙を置いて時々確認している。
「メルフィは俺だけじゃ不満か?」
「ラスティは意外と嫉妬深くてめんどくさい」
「うっ…」
「今はラスティが1番大好き。でも、だからってほかの人たちが嫌いになるわけじゃないんだから」
ペシペシとおでこを叩くと、嫌そうに眉根が寄った。
その少し不細工な顔が好きでたまにやって、やりすぎて怒られる。
ペチペチといい音がしている。
「メルフィ、いい加減に、しろ!」
「ひゃ!?…んっ!」
両手を捕まえられてベッドに縫い付けられると、悲鳴をそのまま口付けで呑まれた。
怒っている風のくせに口付けはどこまでも優しく甘くて、私はすぐに溶かされてしまう。
22歳。
前世では全てを知って絶望して世界を呪った。
あれ以来二度と彼女を感じることもない。
「ふ、本当にキスが好きだな?」
「っ………ラスティのせいです」
「敬語は禁止と言っているのに、まだ治らないようだな。されともお仕置されたくてわざとか?」
「さぁ、どうですかね」
穏やかな時間が流れる。
濁流のようだった人生の先にこんな日々が待ち受けているなんて、今世で最初に目が覚めた時には思いもしなかった。
大好きなお兄ちゃんは生きていて、大切なシルディアとフェルと共に生きてくれている。
私は愛した人と共に過ごせて幸せだ。
聖女でも魔女でもなくなった私を愛して、大切にしてくれるラスティと共にこれからも私は歩んでいく。
これからも皆が幸せでいられるように、ラスティに怒られながらも私は好きなことをしていくんだ。
みんなの笑顔が、私は1番好きだから。
ここまで読んでくださりありがとうございました!
楽しんで頂けたのなら幸いです。
あと数話番外編を載っけようと思っております。
明日は少し時間を遡ってフェルの話を書きます!




