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ある聖女の話

ブックマーク&感想&評価ありがとうございます!

とても励みになっておりますので、これからも頑張らせていただきます(ง •̀ω•́)ง


「はぁ……」


私は大きなため息を吐いた。

今現在私はシュミール王国の王城にいて、聖女として崇められている。

迷惑以外の何ものでもないが、国中を騒がせた第一王女の代わりを務められるのが私しか居なかったのだ。

よって、未だに病床から起き上がれない国王に代わって私が国の指揮を執っている。


「お疲れ様です聖女様。こちらが本日までの案件で、こちらが1週間以内、こちらが確認の書類にございます」


姫の手足として働いていた大臣たち。

薬物に犯されることなく、まともな思考をしている者がいたからこそこの国は保っていたようだ。

残っていたのは表立った活躍のない貴族たちで、才能は優秀でも権力の薄い彼らはあの姫に薬を盛られなかったのだろう。


「今この国はとても不安定です!このままでは責め滅ぼされてしまう。自業自得なのは百も承知ですが、どうか我らにご慈悲を」


顔も名前も知らない伯爵家の当主が、有能な大臣たちを連れて私に頭を下げてきた。

薬物に犯された国王夫妻、処刑された唯一の後継者の代わりに聖女として間を取り持って欲しいと。

お飾りでいい、貴女の望みはできる範囲で叶えると必死に頼み込まれた。

だから私はある条件を出してそれを引き受けることにして、現在に至る。


「今日中の、多すぎじゃないですか?」


「申し訳ありません」


持ってきた人に文句を言っても仕方ない。

私はいま1度大きなため息を吐いて、パラパラと書類をめくっていく。

引き受けたは良いものの、執務室に軟禁状態にされて体がおかしくなりそうだ。

そんな毎日を過ごしてそろそろ1ヶ月。

用意された寝室にまで仕事を持ち帰って、私は窓から空を見上げた。


「メルフィ様、いつものご用意できましたよ」


小さなノックの音と共に顔を出したのはシルディア。

人間の王城なのでフェルは連れてこなかったけれど、シルディアは今でも私の侍女をしてくれている。

声を掛けられて私はシルディアに付き添ってもらいながら、あの思い出の場所へと階段を昇った。


「今日は雲一つない星空ね」


「はい、とても美しいです。メルフィ様、こちらを」


そう言ってシルディアが私の肩にかけてきたのは赤いケープだった。

私のクローゼットにこんな可愛らしいものがあったかな?

献上された服が多すぎて全部を把握しているわけじゃないけれど、私好みのデザインは目につきそうなものだけれど。


「お、お気に召さなければ、直ぐに違うものとお取替え致しますよ!」


ケープをじっと眺めていたらシルディアが慌てた様子で手や視線をさ迷わせる。

そこで私は気づいた。


「気に入らないなんてとんでもない。こんな私好みの物を用意してくれるなんて、さすがシルディアね。ありがとう、宝物にする」


「あ、え、うぅ…」


顔を真っ赤にして俯いてしまう。

手作りにしてはしっかりと編まれていて、お店に出しても普通に売れるんじゃないだろうか。

お礼の代わりに軽く抱きしめて、私はシルディアが用意してくれた席につく。

恥ずかしそうにしながらも嬉しそうに微笑んで、シルディアは一礼して去っていった。


「シルディアが淹れるミルクティーはいつも最高ね」


「あぁ、それは俺も同感だ」


前世の私が終わった場所に用意されているのは、小さなテーブルと2つの椅子。

テーブルの上には軽いお菓子とお酒のおつまみが用意してあって、肌寒くなってきたせいかミルクティーは少し熱め。

そんな私の横に設置された椅子にはいつの間にかラスティが座っていた。


「こんばんわ、ラスティ」


「あぁ。メルフィは少しやつれたか?」


「最近仕事が忙しいんですよ、聖女使いが荒すぎます」


そんな軽口を叩いて2人で笑い合う。

3日に1度、こうして月が天上に来る頃にこの場所でラスティと過ごすのが今の私の唯一の楽しみ。

私はミルクティーとお菓子をつまんで、ラスティは上等なワインとツマミを嗜む。

それで近況を報告し合うのだ。


「その後の皆さんの様子はどうですか?」


「鉱山の人間たちのおかげで特に苦労もなく生活出来ているよ。寝る場所にも困らないし、仕事を手伝う代わりに賃金や食料もくれている」


「それはよかった」


聖女として表立つ条件として私が提示したのは、荒れ果てた暗黒の地の魔族たちをこの国に受け入れて貰うことだった。

学園の地下層だけでもある程度生活出来るが、やはり限度というものがある。

その条件を提示して真っ先に手を上げてくれたのは、ラインバル侯爵だった。

彼はオルトラの町を含めた鉱山地帯の領主で、あの時のお礼も兼ねてできる限り魔族たちを受け入れてくれると言ってくれた。


「メルフィの負担が大きすぎる。手伝いたいのは山々だが人間の国に来てしまえば俺はただの脅威で、迷惑にしかならん…」


「そんな落ち込まないでください。こうして話すだけでも私は随分助かってるから」


「ここに来て聖女をするようになって、敬語の割合が増えたことも気に食わん」


「それは、ごめんなさい」


何故敬語にそこまでこだわるのか分からないけれど、どうしても嫌らしい。

元々この話し方が板についていたせいで、なかなか癖が抜けないのだ。

とはいえ、2人きりの時はできる限り心掛けないと。

また気絶するまで噛まれては仕事に支障をきたす。


「それはそうと、海の方は随分賑やかになっているそうだぞ」


ラインバル侯爵の次に手を上げたのは、輸出や輸入が盛んな漁港のエルトメラ伯爵。

旦那さんを海難事故で亡くしてから女手一つで息子3人を育て、さらには自領を管理する凄腕の女性。

水で生きる魔族たちを引き受ける代わりに仕事を手伝ってくれるなら、と。

おかげで漁の効率が上がって、海難事故等の被害も減って、売上は伸びる一方らしいのだ。


「お互いにいい思いが出来ているみたいで良かった」


他にもいくつか魔族の能力に見合った協力関係で上手くいっている土地が増えているそうだ。

むしろ魔族を受け入れたところは、負担が大きくなったはずなのに潤った報告の方が多い。

それは私としてもラスティとしてもほっとする出来事で、未だに魔族を化け物だと罵る者たちの悔しさに歪む顔でご飯が美味しくなる。


「ラスティ、そろそろ1ヶ月経ちま…経つけど、今日辺りだったら私は助かるなぁ」


「…お前、仕事のせいで寝れてないんだろう。人を安眠剤のように使うとはいい度胸じゃないか」


おっと、バレていた。

ジト目でこちらを見るラスティに誤魔化すように笑いかけて、私はミルクティーに口を飲み干す。

最近、仕事が忙しくて寝付けないのは本当だ。

朝起こしに来るシルディアにも毎度毎度休んだ方がいいと口酸っぱく言われている。

少し無理をしてでもラスティと会うのを止めないのは、私の唯一の楽しみだとシルディアは分かっているからだ。


「はぁ、全く。仕方の無いやつだと言うには、俺も欲しくてたまらないんだが」


「きゃっ!?」


ため息を吐きながら立ち上がったラスティは、そのまま私を横抱きにしてくる。

そうして私のベッドルームまで連れていかれて、僅かな抵抗も虚しく首筋を噛まれてしまった。

吸われた血の量は大したことないはずなのに疲れていたせいか、私はすぐに意識を手放して、ラスティが優しく「おやすみ」と囁いたのが最後の記憶だった。

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