処刑
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その日私は魔王と行動を共にしていた。
いつものドレスの上から認識阻害の魔法がかけられたマントを羽織って、今日処刑される姫を乗せた馬車を遠くから見守る。
シュミール王国の王都の中心にはギロチンが設置され、たくさんの人々が集まっていた。
「付き合ってくれなくてもいいのに」
「ここまで色々としておいて、今更他人事だとでも?」
「ラスティと約束をした私はもういないのに?」
「それでも俺にとってメルフィはメルフィだ」
護送用の馬車は王都に入る直前で止まった。
何やら騒いでいる姫を女性の獣人が無理矢理引きずり降ろし、彼女の手枷に少し長めの鎖をつける。
何が起きたのか分からず青ざめる姫。
私がもう1人の私のために用意した復讐は、国民をその目で見させることだった。
「正直、私は笑っちゃうような気がしてるので、あまりそばにいて欲しくはないんですよ?」
今から起きることを考えたら、私はきっと清々しくなってしまうだろう。
なんて性格が悪いのかと自分でも思うから、ラスティに見られたくないのに。
マントがあれば別に傍にいてくれなくても大丈夫だ。
「俺はメルフィの傍にいたい。それに、あの小娘がちゃんと死ぬのか見届けないとな」
ラスティにはラスティの思惑があるのかもしれない。
1つため息を吐いてから気にしないことにした。
姫の周りにはフェンリルたちと人間の兵士が数人ついている。
何かあっても対処できるようにお願いしたのだ。
「まずは1つ目ですね」
それは街のあちこちに設置されている蝋燭に火をつけさせるという作業。
本来は1年の最後の日の行事なのだが、私はこれをやらせた方がいいと思ったのだ。
本来ならば姫には国中を見せたかったけれど、さすがにそんな暇も手間をかける余裕もない。
復興しなければいけないのは、暗黒の地だけじゃないのだ。
「この悪魔!!」
姫が1つ目の蝋燭を点けようとした時、人混みから石が飛んできて姫の肩にぶつけられた。
投げたのは平民の少年。
目尻に涙を溜めて、殺意の籠った瞳で姫を睨む。
「俺のとーちゃんは立派な兵士になる予定だったんだ!!お前のせいだ!返せ!」
もう1つ石が投げられて、今度は足に当たった。
姫は何やら怒った様子で横にいるフェンリルに口をパクパクさせているが、フェンリルはそれを無視する。
申し訳ないが声は封じさせてもらった。
どうせ汚く罵るだけなのだから、必要ないだろうと思っての処置である。
「お前が贅沢をするせいで国は貧困に見舞われたんだぞ!そのせいで俺は職を失って、妻も子どもも死んじまった!!」
「アンタが私の夫を左遷させたんだってね!おかげで主人は寒い中1人て惨めに死んだのよ!」
そう言って次々に石は投げられ、それを見守る兵士たちは一切止めに入らない。
彼らを配置させたのは国民たちの安全を守る為であって、決して姫を守らせる為ではないのだ。
これが国民の声。
貴女が蔑ろにしたモブとやらの声よ。
「人間の兵士にもたまに流れ弾というか、投石が当たっているがいいのか」
「フェンリルたちはフェリックスにお願いして鍛えている方を選抜してもらいましたが、あの人たちは志願者だから多分大丈夫だと思いますよ」
私は今世で初めてこの王都に来たのだけれど、記憶と違いすぎて驚いた。
活気溢れる素敵な街だったはずなのに、今は浮浪者なのか死体なのか分からない人たちがそこら中にいる。
そのほとんどがどうやら元貴族や兵士で、あの姫のせいで職を失い、帰る場所も無くした人々らしい。
そりゃあ石も投げられるだろう。
「次は王城前か」
蝋燭は全部で13箇所。
城壁に沿うように12箇所あって、処刑を行う予定の中心に最後の1つがある。
そして7箇所目は王城の前。
そこには予定していない兵士たちが剣を胸の前で構えて待機していた。
蝋燭に向かうまでの道を両脇に兵士たちが1列に並んでいる様子は、まるで王を称えているようにも見える。
だけどその目はどこまでも冷酷で、真ん中を通る姫は下を向いてその視線から逃げようとしていた。
「ラスティ、もしも誰かが姫に危害を加えようとしたら止めてください。こんな所で死なせては意味がない」
「そんなことは起きないと思うが、気をつけるておこう」
殺意と憎しみに満ちた花道を通り、姫は残りの5箇所を
同じように罵声と投擲に晒されてようやく中心へと辿り着いた。
最後の1箇所を灯せば王都の上空に大きな炎が点って、本来ならそれが新年の象徴になる。
ドラゴンの息吹を模して作られているらしい。
「昨日ぶりですね、姫様」
私は断頭台の上で彼女を迎えた。
横にはラスティが寄り添ってくれている。
体中を擦り傷まみれにした姫は、虚ろな表情で私を見上げた。
「どうでしたか?貴女が不幸にしてきた国民の声を聞いた感想は…あぁ、声を出せなくしていましたね」
私は姫にかけた魔法を解く。
これで喋れるようになった。
さぁ聞かせてもらおう、モブと蔑む人たちの嘆きと怒りを聞いた感想を。
ごめんなさいと悔い改めるならば、彼女の遺体はキチンと埋葬しようと心に決めていた。
そうでないならば…。
「…ごめんなさい」
小さく微かに呟かれた一言。
私は少しだけ報われたような気分になる。
と、思ったのも束の間、姫の口元が歪に笑った。
「なんて、言うわけないでしょう?」
伝わらないのか。
あれだけのことを言われて、されて。
これでも被害者の一部でしかないのに。
「私が悪かった!そうかもね、だけど仕方ないじゃない?王族に生まれたんだもの。使えるものを使って何が悪いのよ!」
「……そう、それが貴女の答えですか」
姫の言葉を聞いてから野次馬から非難轟々だ。
これだけのことをして何も分からないのは、少し悲しいけれど仕方ない。
そういう人、と思うしかないのだ。
「貴女は変わらないのですね。とても残念です」
「メリィの癖に私を哀れむな!!」
今にも噛み付いてきそうな勢いに私は一歩下がってそっと目を背けた。
それが合図で、彼女は断頭台へと送られる。
石や紙くずなどが飛び交う中、姫は鬼の形相のまま首を固定された。
あとは刃が落とされるだけ。
「姫様、最後に1つだけ教えてあげますね。この世界が戻ることはもうないと思います。私が暴走した力と魔王が協力しなければ世界は巻戻りませんから」
姫にだけ聞こえるように呟いた。
姫様は少し驚いた顔をして、意味がわからないと眉根を寄せる。
そうして私はラスティたちの待つ少し離れた場所まで行き、その瞬間を見届けた。
刃を固定するロープが切られ、美しかった金色の髪が空へ舞う。
もう1人の私、貴女にもこの光景が見えてますか?
私たちの、いえ貴女が始めた復讐に私は協力出来たでしょうか?
ようやく私は私の人生を歩めます。
貴女自身にも、安らかに眠れる日が訪れますように。
変わらない人は変わらない。




