終わらない世界の話
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ドラゴンの卵が破滅の性質を持っていると伝わってしまった理由はもう分からない。
「創世のドラゴンは奇跡と破滅を残して世界を去りました、どちらがどちらかなんて言っていないんですよ。この腐った世界を終わらすための破滅を、なかなか見つからないあんな場所になんて隠すわけないじゃないですか」
私は可笑しくなる。
天才だと思っていたガルイム様が、ここまで言っても理解出来ていない。
あのドラゴンがメルフィの額に口付けを落として、本来行使できた力をメルフィに譲渡した時、眠りについていた今の私は目を覚ました。
「ドラゴンが人間に与えた力は、癒しの力そのもの。だけどそれは諸刃の剣でもあったんです。この力を受け継ぐ資格は他人を思いやる心が強い人」
昔の私が周りを信じて疑わなかったように。
逆行した私が復讐を誓いながらも、人を救けることを優先してしまっていたように。
「でも、姫様みたいに聖女を利用しようと考える人はたくさんいました。姫様だけでなく、今までもたくさん」
ガルイム様が蔑むようにはっ、と口元だけ笑った。
私のような人間が騙されるのは当然だと思っているんだろう。
私もその意見には同感だ。
お兄ちゃんが殺されるまで、そしてそれまで違和感に気付こうともしなかったのだから。
「きっと今までの人達は私が悪いんだ、と己を呪って死んでいったのでしょう。だけど私は違いました。お兄ちゃんを守れなかった自分も、裏切った貴方たちも、聖女や勇者であることも、世界そのものを呪った」
自分で言って胸の奥が熱くなる。
そんな私の心に反応するように周りに黒霧が集まってきて、ガルイム様の後ろでルルフが脅えた顔をした。
私の復讐はようやく始まる。
「癒しの力を建前にドラゴンが生み出したのは、世界を滅ぼすための『聖女』という引き金だったんですよ。そしてこの世界の私はそれを引いた」
人の役に立ちたいという希いは殺意に変わった。
癒しの力は破滅の力へと変わり、私はこうして世界の魔力を操る力を持ったのだ。
ドラゴンの言う通り人間は愚かである。
私もその人間の1部に過ぎないのだけど、こうして引き金を引いた世界を見て少しだけ清々しい。
「そん、ぁに、憎い、ぁら、さっあと、殺せ、ぃぃ」
とっても憎いに決まっている。
さっさと殺したいと思ってもいるけれど、簡単に殺してしまっては物足りないじゃない?
死の世界に逃げるなんて許したくないのよ。
「ふふ、すぐに殺してしまったらつまらないでしょう?貴方には私やお兄ちゃんが味わった何十倍もの苦しみを受けてもらわないと割に合わないのです」
それに、姫様への復讐はもう1人に譲ってしまったからその分も引き受けてくれないと。
この黒猫のお嬢さんはどう利用してあげましょうか。
もう私は利用される側じゃない。
「お願いします!私はいくらでも苦しんでいいです!だから、だからガルイム様だけは助けてください」
ガルイム様へ手を伸ばすと、その手を遮るようにルルフが滑り込んできた。
今の私は邪魔をされるのがとても面白くない。
我慢することがどれだけ馬鹿らしいか気づいてしまったから、もういい子なんかには戻れない。
もう善良な私はもういないのだ。
「私が貴女のお願いを聞くとして。それで私にどんな良いことがあるの?」
「そ、それは…」
「私の邪魔をする悪い子は死んで欲しいところだけど、それより面白いものを見せてあげる」
私は人差し指でルルフの額を軽く小突いた。
そうして糸の切れた人形のようにその場に崩れ落ちたルルフは、目と口を開けたまま宙を向いている。
私が私になるまでの人生の追体験。
貴女はどんな風に感じるかしら?
「さて、まだまだやりたいことは沢山あるのですが、何からしてあげましょうか」
ガルイム様は私の隙を伺おうと睨みつけている。
目の前で倒れている彼女には見向きもしない。
少しくらい他人を気にかけてもいいのに、この人はどこまでいったらそういった感情を宿すのだろうか。
長い付き合いになるのだからこれから観察していこう。
「ガルイム様、私の気が済むことがあればその時はちゃんと殺してあげますね。絶対に死ねないその呪いは私にしか解けませんから、永い永い時をこれからもどうぞ宜しくお願い致します」
手始めに貴方が殺してきたこの世界の人々の追体験でもしてもらいましょう。
ルルフと仲良くそこで記憶の檻にいればいい。
お兄ちゃんの死ぬ瞬間、この世界の姫様が死ぬ瞬間、魔王が死ぬ瞬間、それだけじゃないでしょう?
ガルイム様もルルフと同じく宙を向いた。
「そろそろ私も受け止めないといけませんね…」
ふわっと軽く空を飛んで私は最期にいたお城の塔の上へと舞い降りる。
そこは私が世界を呪って、魔王と共に世界をやり直した場所。
そこには未だに時空の歪みがあって、触れればきっとあちらへ帰れるだろう。
帰る、は間違いか。
帰ってきたのだもの。
「さようなら、お兄ちゃん。さようなら、そちらの世界の私。そしてありがとう、魔王」
歪みの真下にある幾何学な魔法陣を破壊する。
そうすれば歪みは消え去り、世界には吹き荒れる風の音だけが残った。
私は受け止めなければいけない。
私は、認めないといけない。
「ごめんなさいお兄ちゃん、助けられなくて。だけどもう私は我慢しない、やりたいことをやり遂げる」
今でもお兄ちゃんのことは大好きで、救えなかったことは後悔している。
だけど、もうその事がそんなに気にならない。
罪悪感はあるけれど、私の中に満ち始めているのは充実感に近かった。
「…は、はは、あはは。やっっとガルイム様を手に入れたわ!もう誰にも邪魔させない、あの黒猫だっていつかちゃんと惨たらしく殺してやる」
姫様のために我慢した想い。
だけど蓋を開けてみたらガルイム様は始めから姫様を愛してなどいなかった!
私を傷つけるために姫様に近づいただけで、始めから私の方が向かれていたのよ!
あの美しい姫様に私は勝っていた。
こんなに嬉しいこと他にない!
もう誰に遠慮することも無く、我慢なんてしなくていい好きにしたい、好きにしていいのだ。
「あの人は永遠に私のもの!お兄ちゃんお兄ちゃんごめんね、ごめんなさい、こんな妹で。お兄ちゃんが死んだ以上の苦しみを与え続けてあげるから、それで許してちょうだい!」
復讐を遂げる達成感。
それとも、欲しかったものを手に入れる力をもった優越感?
あの天才すら私の意のままに操ることが出来る現状が嬉しくて嬉しくて嬉しくてたまらない。
あちらの世界にはガルイム様はいないのだから、本当に完全に私だけのものよ。
「あぁこれからどうやって愛しましょう」
切り落とした足さえも愛おしい。
もっと苦しんで、私を憎んで、私だけを見て。
私を堕とした責任はキチンととってもらおう。
大好きなお兄ちゃんを奪ったんだから、その責任をとってもらおう。
「はやく起きないかなぁ、ガルイム様。ふふっ」
彼女の物語はこれでおしまいです。
理性が壊れた人間は怖いけれど、狂った世界は本人にとっては楽園でしょう。




