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フェドリック・ランスター

ブックマーク&感想&評価ありがとうございます!

とても励みになっておりますので、これからも頑張らせていただきます(ง •̀ω•́)ง

フェドリックはランスター子爵家の三男としてこの世に生を受けた。

力のない子爵家の三男など誰も気にかけない。

そんな彼の楽しみは剣を振っていることと、伯爵令嬢の幼なじみに会うことだった。

幼い恋心は身分差によって叶うはずもなく、彼はその気持ちを心の奥底に隠す。

そんな時に訪れた転機は、幼なじみが社交界デビューを果たして少ししてからだった。


幼い姫様が彼女を気に入ったこと。

彼女の父親は野心家で、侯爵家との婚約を先延ばしにしてまで娘を姫付きの侍女にした。

それを機にフェドリックも騎士団に入団試験を申し込み、何故かいきなり近衛兵へと配属される。

実力が認められたのかもしれないと内心嬉しく思いつつ、姫様や王妃様の護衛として控える日々。

そこには幼なじみの姿もある。


それから半年ほど経った頃、王妃様が倒れられた。

何者かに毒を盛られたらしい。

王妃様は命は取りとめたものの、身篭られていたお子様は亡くなってしまった。

すぐに犯人探しがされたものの結局見つからず、しばらくの間王城には悲しみが立ち込める。


「フェドリック、話があるの」


そう言って幼なじみに呼び出されたフェドリックは、衝撃的なことを知ってしまう。

姫様が好むお茶が堕胎作用のあるものだと彼女は知らなかったらしいのだ。

それが原因だと父親に教えられ、幼なじみはその罪の意識に耐えられないと泣きじゃくる。

フェドリックは困惑した。

彼女は心優しい人で勿論わざとでは無い。


「決定的な証拠はないし、君の父親も隠すことを決めたんだろう?だったら、これからを姫様に心身を捧げよう。罪は俺も背負うから」


そう言って2人は隠し通すことにした。

それから1ヶ月も経たないうちに、今度は何者かに姫様が襲われる。

たまたまフェドリックが護衛を務めている時で、姫様は事なきを得た。

そんな事が度々起きて数年後。

フェドリックの評価はどんどん上がっていき、気づけば最年少記録で近衛兵団の副団長にまでなっていた。


「あの日の後悔は忘れてはいけない。でも、君にも幸せになる権利はある」


そう言ってフェドリックはずっと秘めていた想いを告げ、幼なじみに結婚を申し込んだ。

彼女は数日悩んだものの、侍女を続けるという条件で承諾する。

フェドリックはそれでも幸せだった。


「どんな気持ち?」


ある日、誰もいない執務室で10歳になったばかりの姫様に突然問われた質問。

質問の意味が分からず首を傾げた。

彼女は優雅にカップを傾けながら微笑んだ。


「結ばれるはずのなかった幼なじみと結婚して、出世街道まっしぐら。たかが子爵家の三男の分際で、そんな幸福に満ち溢れた人生ってどんな気持ち?」


クスクス、と10歳とは思えない少女は笑う。

ドクンと心臓が引きつった。

その後の彼女から紡がれる言葉は衝撃的で、フェドリックはただただ青ざめる。

書類に少し手を加えて近衛兵団に所属させたことも、伯爵令嬢を侍女にして婚約を阻止したことも彼女が仕組んだことなのだと。

さらに堕胎作用があることを知っていてそのお茶を好むふりをして王妃に飲ませて弟を死産にしたことも、それを幼なじみにやらせたことも、フェドリックがいる時ばかり何者かに襲われたことも全部。


「わたし、だよ?」


ニコリと天使のように微笑む悪魔がそこにいた。

フェドリックは姫に逆らえない。

何故なら、自分を守るため。

何故なら、家族を守るため。

何故なら、愛した人を守るため。

兵長になった頃には子爵位や男爵位の若者がたくさん入団してきた。

フェドリックに憧れている者が多かった。


「…すまない」


謝って済むことではない。

見知らぬ村の罪なき少女を殺し、困惑と恐怖に顔を歪ませる部下を殺した。

皆、配属されたばかりの優秀な次男や三男だった。

姫は満足そうに笑い、フェドリックは何日も悪夢に魘されることになる。

全ては大切な人たちのため…そう言い聞かせて。


『なかなか面白い人生だな。やはり人間が如何に醜悪な生き物かがよく分かる』


途切れる意識の遠くの方でそんな声が聞こえた。

妻に会いたい。

ぼんやりとそんなことを思いながら、フェドリックは死を受け入れる。

やっと地獄のような日々から開放されると安堵しながら、眠りにつこうとしていた。


『安らかな眠りを与えられて良い命ではないようだ。やはりこの世界は穢らわしい』


燃え尽きかけていた命が再び燃え盛る。

砕け散ってしまいそうな激痛と焼け溶けるような熱さに包まれて、フェドリックは為す術なくドラゴンの核へとその身を変えた。

永遠に続くだろう灼熱の中で、安らかには眠れない己の人生を恨み、そんな道へ引き込んだ姫を恨む。

自分が悪いと分かっていながら、こんな苦しみを味わうくらいならこんな人生じゃなければと後悔した。


「フェドリック兵長」


熱に泣き叫ぶ力すら失われ、ただひたすら意識だけが揺蕩うフェドリックの耳に1つの声が響いた。

向ける目すらないが、フェドリックは声の主を探すように意識を彷徨わせる。


「私は貴方が好きじゃない。だけど、貴方も私と同じあの人の被害者でもあります」


それはあの村の少女の声。

4人の部下を彼女と共に葬ったあとに彼女だけが魔王に助けられたらしい、と知った。


「だからどうかもう、眠ってください」


青紫の髪と瞳を持った美しい少女は、初めて会った時と変わらず少しだけ怯えた瞳をこちらへ向けている。

少女がそっとこちらへ手を伸ばした。

フェドリックは零す涙すらないが、泣き縋るような気持ちでその手を取ってその温かさに触れる。


「本当に、ほんとうに、申し訳ない…ごめんなさい」


姫様にとってこの少女がどういう存在かすら、フェドリックは知らない。

部下を殺したことばかりに意識を取られて、少女が何者であるかも知らなかった。

それでもその優しくて温かな手に触れて、深い深い眠りにつく前に彼は思う。

まるで、聖女のような人だと。

だいぶ終わりが近づいてきました。

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