共闘
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名前を呼んだあの瞬間からラスティと繋がっている感覚がする。
何処にいるのか分かる気がするのだ。
だから、立ち上がったその足で私はラスティの元へと転移する。
「ラスティ! お兄ちゃん!」
目の前に2人がいた。
2人とも息が上がっていて、なんだか辛そう。
そうして気づいた。
2人がヘドロのような者たちに囲まれている。
「なにこれ…なに、人…?」
それが人の形をしていて、そして死人だと気づいた瞬間、私は全身が重くなった。
「助けて」
「苦しい」
「痛い」
「辛い」
「どうしてこんな目に…」
「平穏を返して」
「家族の元に帰りたい」
「「「「誰でもいい」」」」
「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」「助けて」
沢山の人々の想いに押しつぶされる。
私の中でたくさんの悲鳴が木霊した。
ごめんなさい。
守れなかった、助けられなかった、ごめんなさい。
「メルフィ!!」
重たくて苦しい泥沼に沈んだみたいだった。
そこから引き上げられたみたいに、ラスティの腕の中は息ができる。
本当に沈んでいたように私は震える体でラスティにしがみついて、荒い呼吸を繰り返した。
怖いとかじゃない、ただただ辛い感情の渦。
「メルフィ!魔王!一旦退きましょう!?」
「ダメだ!早急に対処しなければ、この者たちが増え続けてしまう」
ラスティの腕の中で心を落ち着かせて、流れていた涙を拭い去る。
沢山の人々の中にはぼんやりと知っている魔力も感じて、ここへ向かった魔族たちだと思った。
前世でも今世でも死なせてしまった。
ギリッと奥歯を噛み締めて、これ以上の犠牲は出したくないと心を決める。
「ラスティ、ドラゴンはどうしたら倒せますか」
見上げるラスティの顔に焦りが見える。
見当もつかないのだろうか…。
これほどまで大きな脅威をどうしたらいい?
深紅の瞳が私とお兄ちゃんを見比べる。
「首を切り落とせば活路になるかもしれん。だが、確証はないし、それだけでもかなりの労力を使うだろう…」
「「やってみなければ分からないですよ」」
私とお兄ちゃんの声が重なった。
こんな状況で少しだけ笑みをこぼす。
さぁ、目指すは頭部。
大好きなお兄ちゃんと心強い魔王様が一緒にいてくれるのなら百人力、いや万人力だ!
「2人とも掴まれ、跳ぶぞ」
私とお兄ちゃんを両方に抱えて、ラスティの脚に魔力がみなぎった。
助けを求めてくる死人たちの上を飛び越えて、一気に首近くまで跳んでいく。
ビュンッ!て凄い。
「…?何か言いましたか?」
着地する直前に、何かが聞こえた気がした。
けど、2人はゆるゆると首を振って私の疑問は解消されない。
今の声はなんだろう?
何か、あまり良くない気がした。
「うわ!?ドラゴンが動き出した!」
突然グラッと足元が揺れて、魔力を生み出すだけだったドラゴンがゆっくりとその前足を上げた。
ズズゥゥン、と大きな地響きを立てて1歩を踏み出したらしい。
せっかく止まっていたのに再び動き出したら、被害が広まってしまう。
「ラスティ、何とか足止めをしないと」
「口で言うのは簡単だが、あまりにもデカすぎる」
「魔王、メルフィ、俺たちは今真上にいるのだから先に首を切り落とした方が早いんじゃないか?」
考えている暇はあまりない。
何故なら、この場所にもあのドロドロの亡霊たちが生まれ始めていた。
3人で顔を見合わせて、首を切り落とす決断をする。
もう一度この場所に戻ってくるのに、どれだけの時間を要するかが分からない。
「メイベル、お前の剣でトドメを刺せ。俺とメルフィで断ち切るための道標を作る」
そう言ってラスティが私の手を取った。
そのままラスティはしゃがみこみ、もう片手をドラゴンへ。
ラスティの魔力がドラゴンを伝っていくのを感じる。
一定の間隔で小さな魔力の塊を作っているようだ。
言ってしまえばそれは魔法陣の種。
『………ー』
ラスティの精密な魔力操作と膨大な魔力量、そしてその集中力に思わず見とれていた時、やはり何かが聞こえる。
誰かの声のように聞こえるそれは、耳で聞いているのとは違う感覚がした。
軽く探知を行っても感じるのは亡霊だけ。
今、構っている暇はない。
「私は首の外側を同じように」
ラスティの手を握り返して、私も集中するために瞼を下ろした。
この場所を中心に黒霧で首の周りを覆っていく。
お兄ちゃんの魔力を伝達しやすいように、首が少しでも切れやすくなるように。
特に問題な首に黒霧を這わすことが出来た。
だけど何だかいつもより扱いにくいような印象があって、まだ疲れているのかもしれない。
『ーー!』
首全体に黒霧を巻いたところで、突然ドラゴンの頭上から先程から聞こえていた声が大きく聞こえた。
相変わらず何を言っているのか聞き取れはしないが、その大きさに驚いて見上げる。
グッと掴んでいる手に力が込められ、ラスティの深紅の瞳と目が合う。
「どうやらこのドラゴンは、お前を殺し損ねたあの男の命を媒介に生まれたらしいな」
そう言われて初めて先程までの声が兵長の声だったことに気づいた。
どうして?
確かに、あの時死んでいたはず。
「メイベルお前が今だと思った時、この場所にその宝剣を全力で斬り込め」
「分かりました。2人は?」
「少し気になることがある。あとは任せた」
そう言ってラスティは私を横抱きにした。
お兄ちゃんと一緒に抱えられた時より顔が近くて、少しドキッとする。
そんなことを考えている場合ではないのに。
心配そうに見守るお兄ちゃんを他所にラスティは一蹴りでドラゴンの額まで跳んでしまう。
「ここから奴の魔力を感じるな」
大きすぎて判断しにくいが、ちょうど眉間の辺りに巨大な赤い宝石のようなものがあった。
そこから確かに兵長の魔力を感じる。
私は無意識にラスティの手を握っていた。
魔力の枯渇で苦しんで死んだと思っていたけど、ちゃんとトドメを刺してあげれば良かったんだろう。
「メルフィが気にすることじゃないぞ」
「そう、ですね。今世では仇の1人でもありましたし」
「これを破壊すれば、停止も早まるかもしれん」
そう言ってラスティが宝石に手を当てる。
私も繋いでいない片手を宝石に添えた。
2人して魔力を流し込み、命の源を破壊する。
ゆっくり、お休み下さい。




