魔王と勇者
セリフだけですが、カニバリズム表現があります。
苦手な方はすいません。
ちょっと長いです。
メイベルが宝剣を手にドラゴンへと突き進む。
俺はメイベルに振りかかろうとする火の粉たちを振り払い、その後ろを追従しながら警戒を強めた。
魔王城よりも大きそうなドラゴンを相手に、たった2人で何ができるだろうか?
最善策はコイツをどこか別の次元にでも飛ばすこと。
「メイベル!右へ避けろ」
ドラゴンの体を駆け登る途中、上から防ぎきれない火の玉が降ってきた。
そして天性の才能なのだろう。
5年も眠っていたとは思えない動きで、メイベルはほぼ垂直な体を登って行った。
勇者メイベルと共闘する日が来るとは…。
「魔王、頭に気配が2つあります!」
その言葉に俺は驚いた。
俺たちはまだドラゴンの後ろ足から登り始めて、背中にすら到達していない。
全身から禍々しい魔力を垂れ流すドラゴンのせいで、気配など分からないのだ。
首辺りまでいけば俺にも分かるかもしれないが。
「2つというのは人間か?」
「ドラゴンのせいで分かりづらいのですが、見知った魔力かも知れません。ガルイムと兵長の魔力と似ているんです」
メイベルが言いづらそうに顔を歪めた。
あの魔法使いの小僧ならば分かる。
だが、兵長と呼ばれる男はあの洞窟で死んだはずだ。
その死体をディガーたちが確認したと報告が上がっていたのを覚えている。
牢屋に捕らえられている小娘も目撃者のはずだ。
「今は突き進むしかないか」
敵の懐に飛び込むのはいただけないが、このドラゴンをとりあえず止まらせるには急所を突くしかない。
頭を潰すのが手っ取り早いだろう。
メイベルたちがロベディスト洞窟の宝物庫で見つけたというあの宝剣。
輝くような刃に、白と金を基調としたデザイン。
どこかで見た気がするのだが思い出せない。
「あれは!」
「あの小僧!」
ようやくドラゴンの背中に登りきり、頭上へ向かおうとしたその時だった。
ドラゴンの巨大な翼の中心あたりに赤い髪の魔法使いが立っている。
ゆっくりと振り返った奴の顔は殺意に満ちていて、禍々しい魔力はドラゴンに引けを取らない。
「はぁ、メルフィのさぁ気配が消えたなーって、んでお前らがここに居るって、あー、ほんと、そういうこと」
メイベルは宝剣を強く握り込む。
だが俺の見立てではまだメイベルだけでは勝てない。
何をしたら人間がそこまでおぞましい魔力を手に入れられるのか。
「お前ら俺のメルフィに何しやがったんだよ!特に魔王!てめぇだよ!」
「は、貴様に話すようなことは無い」
俺が何をしたか?
何を言っている?
貴様らがメルフィの心を壊しまくった結果だろうが。
魔王、いや王と名のつく者はどんな時でも冷静さを欠いてはいけない。
だが、メルフィの事になるとそれを忘れてしまう。
「ははははははっ、いやぁ俺は感謝してるんだよ、魔王サマ!あんなにつまらなかった女が、お前と関わってサイッコーに楽しくなってくれちゃってさぁ!!」
「つまらないとか楽しいとか!お前は妹をなんだと思っているんだ!ふざけるな!」
「まてメイベル!」
まだ心は幼い勇者だ。
相手の煽り文句に簡単に乗せられ、剣を構えて小僧へと突っ込んでいく。
全く、これだから子どもというものは。
俺は瞬時に小僧の両手首、そして足首と太ももへ時間停止の魔法を展開する。
「お前に用はねぇよ!妹バカが!また殺してやっ!?」
「はぁぁぁああ!」
メイベルは今までまともに生き物を殺したことがないと聞いている。
練習として魔獣を少々程度だと。
意思のある魔物やましてや人間なんて、本来なら躊躇ってしまうもの。
だが、メルフィのことで冷静さを欠いているのは俺だけでは無かったようで、その太刀筋は真っ直ぐに小僧の首へと向けられていた。
「あーこれがアンタの能力か」
メイベルの刃がその首に届く寸前、手足を拘束していた俺の魔法が破壊された。
空振りをしたメイベルはバランスを崩し、小僧はそれを楽しそうに蹴りあげる。
狂ったように笑いながら人間の小僧はその魔力をどんどんと増幅していった。
足下のドラゴンと同格、もしくはもっと。
「おい小僧、どうやってそこまでの力を得た?」
ただの天才では片付けられない力だ。
規格外の化け物と言っても相違ない。
何か特別なことをしたと、疑う他ない力なのだ。
「ふひ、はは、はははははっ」
両手で顔を覆って小僧は笑う。
小僧から視線を外さないように注意しながら、視界の端で蹴り飛ばされたメイベルが咳き込みながらも立ち上がったのが見えた。
瞳に宿る敵意も薄れていない。
「きっと、これをしてなかったら俺は今ここにいなかっただろうな」
避けそうなほど口を開けて笑い続ける赤髪の男。
その表情にゾクリと嫌な汗が背中を伝う。
「不味くて不味くて仕方がなかった」
そう言って赤い舌を出す狂気の表情。
不味い。
その言葉を聞いて俺の中に1つの可能性が浮上した。
こいつ、本当に狂ってやがるのか。
「貴様、まさか、俺の死体を…」
「はっははは!ちっげぇよ、ばぁぁぁぁぁか!ははっ、お・ま・え・ら・の!ははははは!!」
それは想像を絶する狂気の沙汰だ。
魔王の肉体と勇者の肉体を喰らっただと?
僅かに吐き気も込み上げる。
メイベルもその発言には、流石に敵意も消えて顔を青くしていた。
「にしてもよ?ここに来てからやけに気分がいいわけ。なんでだろぉなぁ…、オレ何しようとしてたんだっけなぁ……」
確かにコイツは前回の世界から常軌を逸した行動と思考をしているようだ。
だが目の前にいるこの男からは知性を感じない。
まるで薬物を摂取したあとの高揚感を得ているような感じだ。
この場メルフィがいなくて良かったと心から思う。
メイベルを殺しただけでなく、その体を辱める行為すらしていたことをあの子が知らなくて良かった。
「貴様は、生きていてはいけない命だ」
この男がメルフィの復讐相手の1人だと言うことは知っている。
だが、これ以上コイツに呼吸をさせてはいけない。
そんな気持ちに駆られた。
突然何も考えていないような顔で空を見上げて、小僧は心ここに在らずと言った様子。
消し炭となれ。
「メイベル、お前は下がっていろ。アルドミニカ・シャグロモッド」
小僧の頭上に魔法を放つ。
簡単に言ってしまえば亜空間に飛ばす魔法だ。
黒と白と紫の稲妻が空間に生まれて、その中心に小僧を引っ張む。
二度とはこの世界に現れることは出来ない。
死ぬのか消滅するのか分からない全ての果て。
「消えろ」
その魔法に回避方法などない。
はずだった。
小僧の体が吸い込まれる直前に、小僧の体は足下のドラゴンの中へ沈むように消えていったのだ。
生み出した魔法はドラゴンの一部を持ち去って消滅したものの、小僧の気配はこの世から消えていない。
「なん、だと!?」
「魔王!危ない!」
俺が使える最大の魔法を回避され、俺は心が取り乱してしまった。
そしてメイベルが俺を庇うように俺の背中へと回り、俺の視界に映るのはドラゴンから生まれたらしきドロドロの人影。
まるで目と口を表すように顔のその場所だけが窪み、助けを求めるようにこちらへ腕らしきものを伸ばす。
「メイベル、それに触れるな」
人間の魔力を感じる。
だが、命の気配はない。
ドラゴンが殺し、吸収した人々の怨念だけが浮き出てきたような姿。
「これじゃキリがないです…」
「あぁ、そうだな」
俺とメイベルは背中合わせに立ち、次々と沸き立つそれらを睨みつけることしか出来なかった。
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