成長
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「…なるほど。人間たちの動向はこちらに任せろ」
「はい。頼みます」
「…約束は覚えてくれているか?」
「もちろんですよ、必ず」
フェリックスは、そのあと小さく「すまない」と口にして連絡は切れた。
あれから少し経ってフェリックスに色々なことを説明して指示している間に、だいぶ避難して来た人達が増えている。
遠くの方で狼の遠吠えが聞こえて、それがフェリックスが動いてくれた証だと悟った。
そしてあのリンディスティさんが、ラスティの代わりに指揮をとっていて驚く。
「まったく魔女様が避難場所を用意してなかったらと思うとゾッとするわねー」
相変わらず簡素で胸が強調される服を着ていらっしゃるが、見兼ねたドラシェン校長がコートのようなものを羽織らせて少しはマシである。
やっぱり美人は何をしなくても美人だ。
雪のように白い肌と透き通るような紅い瞳、艶のある腰までの黒い髪。
「ひとまずはここの地下層に避難出来れば一時凌ぎにはなると思います。ドラゴンは想定外でしたが、そう遠くない未来に使うことになると思って食材なども運び込んでいてよかったです」
「ほんとにね〜、魔女様々だわぁ」
「だけど私だけじゃなくて、リンディスティ様の的確な判断力の賜物ですよ」
「えへへ〜ありがとー」
こんな状況でも戸惑わず、穏やかでいられるリンディスティさんはすごい。
なんて話をしていると、学園の入口の方がざわざわとなにやらどよめいている。
一瞬、敵襲か!?
と思ったけれど、喧騒の中に見知った声が聞こえて頬が緩む。
「「メルフィさま!!」」
叫ぶように名前を呼ばれて、涙を零しながら駆け寄ってきた2人。
2人ともその勢いのまま私に抱きついてくるものだから、踏ん張れない私たちはそのままひっくり返った。
ドラシェン校長の生やしてくれた草花のおかげで痛くはなかったけれど。
「ぶじ、ぶじゅでよが、よ、よがっだぁぁ」
シルディアが涙と鼻水で顔をぐちゃぐちゃにして泣き叫ぶ。
フェルに至っては泣きすぎて声を出せていない。
そんな2人の頭を撫でながら、少しだけ嬉しく思う。
そんなに心配してくれるなんて有難いことだ。
「シルディア、髪が…」
シルディアの綺麗な桃色の髪が腰まであったのに、今は顎の下まで短くなってしまっている。
あの時、首は切れなくても髪は守れなかったらしい。
剣で切られたにしては毛先が揃っているから、あの後綺麗に整えたのだろう。
髪はいずれ伸びるから命があってよかった。
「2人とも無事でよかった。危険なことに巻き込んでごめんね」
2人は声にならない声でブンブンと顔を横に振り、気にするなと言っているようだ。
再会の感動も束の間、その後は再び忙しくなる。
避難民も増えてきて、入口で何やら揉め事まで起きてしまっているようだ。
歩けるのなら対応するのだけど、この足では厳しい。
「さぁて、と。魔女様ぁ、その連絡用の手鏡をお借りしてもいいですか〜?ここはドラシェン立ちに任せて、私は遅れている避難を手伝って来ようと思ってー」
「え、それは助かりますけど…」
連絡用の手鏡を渡してしまったら、私は他の人と連絡が取りずらくなる。
それにドラシェン校長1人では、ここを治めるのは難しいんじゃないだろうか。
私が動けないのに。
と、思っていたのが顔に出ていたのだろう。
クスリと妖艶に微笑んだリンディスティさんは、ツンと指先でフェルの鼻先をつついた。
「フェンリルたちの連絡網は、この小狼ちゃんが理解できるし返事もできるはずよ、そうでしょう?」
「は、はひ」
「私は走り回るから〜、こっちの方が便利なのよぉ」
確かにフェルはハーフだけど、その半分はフェンリルなのだから理解出来てもおかしくない。
だけど、この事態の収集はフェルやシルディアではダメだ。
実際、避難してきた住民たちの私たちへ向ける視線は鋭いものが多い。
私は『魔女』のイメージが強いだろうし、人間は勿論嫌われていて、ハーフも穢れていると考えられることの方が多いのだ。
「ここのことは、あの子たちに任せたら大丈夫よ」
そう言ってリンディスティさんが指さしたのは、年長組だったここの生徒たち。
地下層に避難したはずだったのに、いつの間にか上に上がってきていた。
リンディスティさんが指を指したことで、自分たちに視線が向いたことに気づいて駆け寄ってくる。
「メルフィ様、この学園のことは僕たちに任せてください!」
灰色の髪に青い目をしたルーシェ。
最初こそ嫌われていて、でも懐いてくれて。
子どもらしい笑顔をする子だったのに、いつの間にこんなに真剣な顔をするようになったのか。
「今は、魔族とか、人間とか、関係ないです」
金色の髪を靡かせるのは、リーシャによく似たエルフのルーナ。
オドオドしているところも、意志が強いところも、どうやら変わっていない。
「俺は今でもアンタのこと好きじゃねぇ!でも、仲間や家族を守る方が大事だ」
そういうのは、ルーシェより少し濃い灰色の毛並みのフェンリルのフェジット。
相変わらず強気で、幼い頃より人相が悪くなった気がする。
他にも数人の子どもたちが3人の後ろに控えていて、種族はバラバラだけど皆、役に立ちたいという意思は同じようだ。
「あなたたち…」
ちらりとドラシェン校長を見上げると、彼女は誇らしそうに頷いてくる。
子どもたちの腕には2本の腕章がついていて、1つは金色の腕章。
それは私がドラシェン校長にお願いして付けさせた『卒業資格を持つ者』の証である。
そしてもう1つは4色あって、それぞれのクラスの色を示していた。
「君たちはそう遠くない未来にこの学園を卒業できる子たちなんだね。凄く凄く頑張ったんだね、とても誇らしい」
その言葉に子どもたちの顔が嬉しそうに緩んだ。
私がやってきたことは時間の無駄なんかじゃない。
この子たちがしてきた努力も、無駄になんかしてやるものか。
ちょっぴり泣きそうになりながら、私はコホンと1つ咳をして彼らに指示を出す。
「みんなには学園に避難してくる人たちの安全な誘導をお願いします。皆さんは怖くて混乱していますから、押したり走ったりがとても危険なことを徹底して伝えてください」
「「「はい」」」
十数人の将来有望な子どもたちはすぐに仕事に取り掛かる。
ドラシェン校長は横で涙ぐんでいて、私もちょっと泣いた。
子どもの成長って凄く早い。
「メルフィ様、ぐすっ、だいぶ治療は終わりま、した」
私との再会で泣いていたシルディアが、子どもたちの行動でさらに泣いている。
可愛い顔が…。
なんて思いながら私は自らの太ももあたりを強く押してみた。
感覚が戻っている。
「っ…」
ゆっくりと足の裏を地面に付け、膝に手を付きながらそっと立ち上がる。
感覚が戻ったことが不思議な感覚だ。
有って当たり前のものが失くなって、失くなったものが返ってきただけなのに。
「シルディアありがとう。やっと私も戦える」
グッと拳を握りしめて、私は中庭の空を見上げる。
私の心とは裏腹に禍々しい魔力が混ざった雲が立ち込めていた。




