兄
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コツンコツンと響き渡る靴音。
妹がこの為に作ったという監獄は、思ったよりも綺麗だった。
舗装も十分で、暑くもなく寒くもない。
常に明かりで灯された牢屋たちは、鉄格子さえなければ簡易的な宿と言ってもおかしくない気さえする。
「姫様」
「ん…、なぁに?だぁれ?ようやく私を出す気になってくれたのですか?」
寝惚けた口調でベッドで体を起こす彼女は、囚人とは思えない身綺麗さ。
なにせこの監獄にはトイレとお風呂まで付いているらしい。
ベッドも簡易的だが床で寝るよりは断然良いだろう。
「お久しぶりです、姫様」
「メイベル様!?あぁよかった!助けに来てくれたのですね!私魔族に捕らえられてしまって、こんな狭いところに追いやられたのです!ガルイムを信じた私が馬鹿でした」
尋ね人が俺だと気づくや否や、鉄格子まで飛んできて手を伸ばして俺のズボンの裾を掴む。
美しい金色の髪、潤んだ青い瞳、簡易的な白いワンピースは寝起きのせいか少し着崩されていた。
俺じゃなければこの姿に欲情するかもしれない。
なんてぼんやりと考えながら俺は彼女を見下ろした。
「俺が貴女を助けに来ると思うんですか」
「え?」
「貴女方が俺に何をしたか覚えてないとでも?」
そう厳しい口調で言えば、潤んだ瞳が怒りに染まる。
見上げられて大きく見えていた瞳が、鋭く睨みつけてきてその変わりように内心驚くしかない。
「なによ?アンタも思い出したわけ?」
その言葉が指す意味は魔王に教えてもらった。
前世の記憶、やり直す前の世界。
そんなものが本当にあったのか今でも半信半疑だし、本当ならば信じたくない。
だけど魔王は頑なに記憶を戻そうとはしなかった。
「貴女は妹に何しやがったんだ!」
俺は声を荒らげた。
開き直った様子だった姫も、突然の大声に驚いた顔をしている。
俺は魔王に聞いただけだ。
姫は前世でも最初から俺たち兄妹を騙していたこと。
聖女と偽りメルフィから力を盗み、勇者として俺に魔王を討伐させて、俺を殺したこと。
そしてメルフィをその後も利用し続けたことなどだ。
「ほんっとアンタたち兄妹は見ていて吐き気がするわ!どんだけ妹大好きなのよこのシスコン野郎」
「俺はあの子の兄だ。亡くなった両親から託された最後の家族なんだよ。当たり前だろうが!」
「あぁもうほんっと気持ち悪い!肉親がなんなわけ。邪魔するやつは全部敵よ!私に言わせればね!」
ふんっと鼻を鳴らしてそっぽを向く。
邪魔をするなら肉親すらも敵。
そんな性格だから両親を含めた貴族たちを薬漬けにして操ることが出来るんだろう。
本当に心から腐ってやがる。
「アンタがそこにいるのは自業自得以外のなんでもない。しっかりと自分を見つめ直した方がいい」
「はぁ?ふっざけんじゃないわよ。なんでアンタに説教されないといけないわけ?ここから出たらアンタもアンタの妹も魔王もぜーーんぶ殺してやるんだから!」
その自信がどこからくるのかは知らないが、きっとそんなことは起こらないだろう。
これ以上この人と話していても意味が無さそうだ。
そう思って踵を返すと、牢獄の中で彼女はブツブツと何かを呟き出す。
「ただのキャラクターのくせに!私の邪魔ばかりしやがって。私の幸せのために勝手に犠牲になってればいいのよ。ありえないありえない、なんで私がこんな目に合わなきゃいけないのよ」
だから、自業自得だろう?
魔王の話通りなら、メルフィは聖女なんだ。
魔王を討伐するためにメルフィの力は必須のはずで、それをこの女は最初から殺そうとして今がある。
今すぐその細い首を絞め殺してやりたいくらい腹が立っているが、メルフィは元々彼女たちへの復讐心で舞い戻ってきたらしい。
俺が、そんな妹の決心を横取りをする訳にはいかないと思い留まっている。
「やっぱり攻略対象の1人を最初に殺したのが不味かったのかな。あんなブサイクいてもいなくてもおんなじでしょうが」
俺たちの他にも犠牲になった人がいるのか…。
お悔やみ申し上げる。
そうして俺は地下牢を後にした。
階段を登った先は隠し部屋となっており、向こう側からしか開けられない仕組み。
俺は扉があるはずの場所を3回ノックした。
「お帰りなさいませメイベル様」
「お待たせして申し訳ないです、えっと校長」
ニコッと微笑むのは葉の髪を持つドライアドという魔族だった。
彼女はメルフィの協力者らしく、メルフィが作った学校の校長をしているらしい。
俺はここに来るまでに学園を少しだけ見せてもらって、心から妹を尊敬した。
こんな凄いことを考えついて実現した俺の妹すごい。
「彼女には私が食事を届けておりますが、やはり心の美しい方とは言えませんね」
「自分のした事は何も間違っていないと本気で思っているみたいでした」
幸せになりたいのなら、誰かにその気持ちを分け与えた方がいい。
幸せになるための努力は、人を蹴落とすことじゃないと俺は思う。
他人を思いやることが出来なければ、他人に思いやられることもない。
人は、1人では生きていけない生き物だから自分を大事にしながら、他人も大事にしなくちゃいけないのだ。
「…ん?」
不意に、校長が足を止める。
その顔は眉間に皺が寄って、朗らかな雰囲気の彼女に合っていないから不思議に思った。
どうしたのか、と声をかけようとしてその余波に俺も気づく。
魔力の波を感じた。
ゾッとするような魔力の塊が大気を伝って、世界を波立たせる。
「この、禍々しい魔力は…」
俺は腰に刺さる宝剣を手にして、息を呑んだ。
『愚かなる人間よ』
確かにそう聞こえた。




