魔女のいない日
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嫌な予感はずっとしていた。
メルフィを送り出した日、いやその前からだ。
だから、リーシャから連絡を受けた時は心臓が止まるかと思った…。
「王、すまねぇ…俺様たちがいながら」
ディガーもリーシャもフェリックスも、不甲斐ないと頭を垂れる。
報告は他にもあった。
メルフィが作った学校の地下に、突如として現れた人間の姫が騒いでいるというもの。
そちらも確認しに行けば、確かにあの姫で間違いなかった。
「魔王!私をここから出しなさいよ!こんなところに閉じ込めてただじゃおかないんだから!!」
それからもう1つ収穫がある。
それはメルフィの兄、メイベルだ。
気絶させられていたメイベルをよく調べてみれば、ガルイムの魔法によっていつでも操れるようにしてあったらしい。
それを解除してからメイベルは眠り続けている。
「魔王様、手がかりはありません。転移魔法の痕跡でもあれば話は別なのですが…」
ガルイムという魔法使いは凄腕だとメルフィが言っていたのを覚えている。
痕跡すら残さないとは…。
部下からの報告に俺は頭を悩ませる。
足跡が辿れなくては助けに行くことも出来ない。
魔族たちの間でも動揺が広がっていた。
俺だけじゃなく3族長が必死になっている。
「メルフィ…」
何としてでもついていけばよかった。
もう歴史なんて知ったことじゃない。
そもそもメルフィがこちら側にいる時点で、大きく変わっている歴史になぞる必要なんてなかったんじゃないか?
あの魔法使いは人をいたぶる事を趣味としていると報告が上がっている。
早く助け出さないとメルフィが…。
「〜〜〜!」
決戦の間の玉座の上、いち早く情報を得るためにここに座って頭を抱えた。
今は静まり返ったその場所にいると、廊下から聞き慣れた声が聞こえてくる。
立ち上がり廊下へ続く扉を開けると、廊下にはフェルと死にそうな顔をした勇者がいた。
「ダメ!ダメですってば、ここは人間か近づいちゃダメって、魔王さまに言われてるんですん!!」
「……ごめ、今だけは、言うこと、きけ、ない」
フェルはこの5年ほどで目を見張るほど成長した。
焦った時はあの変な語尾になってしまうようだが、それでもメルフィの教えたことはとんでもないスピードで吸収している。
ずっと止まっていた成長も徐々に促されているのもメルフィのおかげだ。
「フェル」
名前を呼べばビクリと肩を震わせて耳がこちらを向いて、焦った顔と目が合う。
ここに人間を近づけちゃいけない、という言葉をちゃんと覚えているようだ。
ただ、満身創痍でここまで来ている勇者には聞き入れる耳がないようで、フェルの努力は報われない。
「フェル、俺は彼と話があるからお前は下がりなさい。今日はもう休んでいいから、明日からまた彼のお世話をよろしく頼むよ」
「わ、わかりました」
「しっかり休め。メルフィは必ず俺が見つける」
わしゃっとフェルの頭を撫でると、悲しそうな顔になってしまった。
撫でられるのが好きなフェルは普通なら無意識に尻尾を揺らしていたのだが、その尻尾も下がっている。
いつの間にかフェルの中のメルフィの存在はそれほどまでに大きくなっていたんだな。
失礼します、と声をかけてフェルは立ち去る。
「さぁこちらで話をしよう」
玉座の裏にある個室に勇者を招き入れると、彼は少し驚いたような顔をして見回していた。
メルフィと同じ顔をしている。
少し懐かしく思いながら、あの時と同じようにお茶を注いで彼へと出した。
「あ、ありがとうございます…あ、うまい」
温かいものを飲めば少しは落ち着くかと思ったが、予想通りでよかった。
髪の色も目の色も、笑った時の表情もよく似ている。
前回の世界ではそんなことを確認する間もなかったからなぁ…。
「メルフィについて聞きに来たのか?」
「あ…いえ、あの場所は見つからないと思います。たぶん俺がいた場所だと思うから…」
「っ!!知っているのか!?」
持っていたカップを投げ飛ばす勢いで机に手をつけば、驚いて目を開く勇者。
「知っている、というかそこに居たんです。5年間」
「どこだ!すぐにでも助けに行かないと!」
「分からないんですよ!俺だって道を知っているならとっくに向かっているに決まってるじゃないですか!」
怒鳴ってしまった俺に被せるように怒鳴る勇者。
そして、ボロっとその瞳から涙が溢れた。
恥ずかしかったのかすぐに顔を下げて、ぐずっと鼻をすする。
メルフィのことになると冷静さを欠いてしまうな。
「どこかの地下ってことは覚えています。でも、それ以外のことは曖昧で…」
「…そうか。ならば何しにここへ来たんだ?」
「俺に、教えてください」
囁くようなその声は、小さな部屋でなければ聴き逃したかもしれない。
両手を痛いほど握りしめ、僅かに震える彼はとても勇者には見えなかった。
そこでようやく俺は思い出す。
彼が、メイベルがまだたったの16歳という少年であり、5年間も眠らされていたのならば精神年齢は10歳と少しだと言うことを。
「俺が勇者だと告げられた日からメルフィは少しだけ変わった気がして…、でもそれがなんなのか聞く暇もなくメルフィは貴方に攫われた」
転生した日。
メルフィは8歳の少女から22歳の女性の意識が乗り移った形になる。
僅かなその違和感は近しい者だからこそ気づけたと言っても過言じゃない。
「魔王である貴方や魔法使いのアイツ、未来予知できると言っていた姫様が理解出来ないなら分かる。だけど、ただの妹だと思っていたメルフィまでがおかしな行動をする理由が分からない」
勇者と魔王が決戦の間にいるのに、刃を向け合わずに話し合いをしている。
俺の中にある漠然としたシナリオでは有り得ない行いのはずだ。
メイベルに前回の記憶を植え付けるのは簡単なこと。
だが、俺は記憶を戻してやりたいとは思わなかった。
「メイベル、少し長い話になる。そして俺の話を信じるかは君次第だ。それを前提として俺の話を聞きなさい」
半泣きで顔を上げたメイベルは、やはりメルフィとよく似ていた。
昨日、記念すべき50話なのにあんな気持ち悪い人間の話書いちゃったなぁ、とあとから気づきました。




