洞窟探索 ガルイム
今日はちょっと長めです
仕掛けも終わった。
準備も万全だ。
だからもう、あの姫も俺には助ける価値がない。
黒い沼に沈む最後の瞬間に目が合った姫は、酷く怒っているようだったから怖い怖い、はは。
「メリィ?」
俺は問いかける。
突然停止した彼女。
気配が変わったのが分かる。
メルフィはメルフィだけど、これは俺のよく知るメリィの気配なのだと。
「……えぇ、お久しぶりですね。ガルイム様」
閉じていた目を開けたメルフィ。
青紫のはっきりとした色彩を持っていた瞳は、暗い色が落ちていた。
これが聖女なんて誰が思うだろうか。
「本当の意味での久しぶりだな?お前は俺をどれくらい楽しませてくれるんだ?」
「さぁどうでしょう。かつても私は貴方を満足させてあげられなかったようですから」
体の前で量の手のひらを添えて伏し目がちに立ち尽くす姿は、姫の後ろに付き従うあの頃のままだ。
つまらない女。
先程までのメルフィのほうが気力溢れていじめがいがありそうだった。
「さて、まずは状況を教えてくれないか?お前はメリィで、さっきのもメリィであることに変わりはないよな?」
「はい。そうですね…、分かりやすく私はメリィと名乗り、もう1人はメルフィとしましょうか」
過去のメルフィはメリィで、魔女のメルフィはメルフィと呼ぶということか。
まぁ分かりやすいほうがいいしな。
俺はメルフィのほうが楽しそうだと思う。
「私たちは同一人物で間違いないですよ。ただ、私が同化することを拒否してしまって、今のような状況に」
「拒否した?」
「はい。だってそうでしょう?お兄ちゃんを好きな気持ちは変わらなくても、他は全部私のものですから」
そう言ってメリィは1度言葉を区切った。
「生まれてから姫様に出会うまで、出会ってからお兄ちゃんを失うまで、失ってから真実を知るまで、全部、全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部」
そこで肺の中の空気を出し切るように呪いの言葉を吐き出した。
はぁはぁ、と息を再び整えるメリィ。
1度祈るように胸の前で手を組んだ後、俺じゃないどこか遠くを見つめながら慟哭する。
「姫様を敬愛したこの気持ちも!」
「ガルイム、貴方をお慕いしたこの気持ちも!!」
「お兄ちゃんを奪われる喪失感も!!!」
ボロボロと涙が溢れだす。
それは狂気的な表情にとても似合っていた。
そして泣いているのに、口は弧を描く。
「全部全部全部全部ッ!!私が感じた感情ですもの!」
あははははは、と高笑いをしているメリィの瞳はどんどんと黒く染っていく。
虚空を見つめて何も映していないような瞳。
あぁその顔は嫌いじゃない。
絶望によく似た笑顔。
「例え私と同じ存在だったとしても!私は私の感情を他人に預けたりしない、そんなの許さない。お兄ちゃんの仇はこの手で討つと!あの巻き戻した日に思ったのです……」
やり直してメルフィはかつての記憶を持っていた。
元々は同じ存在なのだから、感じる感情はよく似ていて当たり前。
メルフィは復讐だけに囚われているわけではなさそうだった。
この数年間の彼女がやってきたことからもそれは十分に伺える。
「私の感じた心を知っている彼女が、私と同じように恨んで憎んで怒って復讐を決意してくれているのは正直嬉しかった。だけど、実行するのはこの私」
両手で顔を覆ったメリィが、その手の隙間から漆黒の瞳をこちらへ向けている。
俺も大概壊れている自覚があるけれど、コレを壊したのが俺だと思うと…。
「あぁ、それは良かったな。少しは楽しませてくれそうで、俺も興が乗ってきた」
「そうなのですか?それは良かった…」
メリィの涙はもう止まっている。
ニコリと貼り付けたような笑み。
俺もニヤリと笑って見せた。
合図などなく、どちらからともなく魔力を集める。
「ガルイム様!死んでくださいッ」
メルフィが使っていたものとは比べ物にならないほど濃ゆい黒霧が一斉に襲ってくる。
俺はそれを風と砂を混ぜた魔力で対抗して、少し俺が不利だ。
思ったよりもメリィの魔力が強い。
聖なるものが堕ちる時は、聖なる力を代償に莫大な力を手にすると見聞きした覚えがある。
メリィはまさにそれなのだろう。
「叶えてやりたい気持ちはあるけど、俺もまだまだメリィと遊びたいんだ」
俺は地面を蹴って空中に着地して、再びその空中を蹴って上へと上がった。
黒霧が逆に目眩しとなって俺の存在を見失う。
対抗していた砂塵を消せば、力負けしたのだと勘違いしてくれるだろうか?
実際俺がいた場所目掛けて黒霧は巨大な蛇のように畝って押し寄せる。
「私は早く貴方を殺したくて仕方ありませんよ」
真後ろで聞こえた声に驚いて殴りつけるように腕を振るうと、少ない黒霧に受け止められた。
拳の先には光のない瞳で笑うメリィがいる。
なんだ、ちゃんと楽しませてくれるじゃないか。
まだまだ俺も殺される訳にはいかない。
「そう簡単に死んじゃ楽しくねぇだろ?」
「それも、そうですね!」
止められた拳を火に包んで注意を引いたあと、腕を掴まれているのをいい事に俺は宙を蹴って、メリィの横っ面目掛けて蹴りをいれる。
勿論メリィは驚くことなくそれを霧で止めて、逆に手を掴んでいた霧が霧散した。
もう片方の足でメリィの顎を目掛けて蹴りあげれば、メリィは上体を逸らす。
「ははっ、盛り上がってきたかもな!メリィ、炎は嫌いか?狼なんてどうだ!?」
そう言って俺は魔力を目の前に展開する。
炎の塊が4つほど出現して、狼の形へと変貌した。
そのまま燃え盛る牙を向いてメリィ目掛けて突っ込んでいく。
「そんな可愛らしいわんちゃんじゃ、私は踊らせられませんよ」
真っ黒な黒霧がメリィの前に集中して、巨大な獣の口のようになった。
それは飛び込んだ4匹を全て喰らい尽くして、さらに俺へと牙を向いてくる。
俺は自分が1番得意な雷の魔法で、それを上から貫き消し飛ばした。
俺の魔法にここまでついてこれるやつは、メリィが初めてだよ。
「このまま永遠にでも戦い続けていたいなぁ」
「私は早く貴方を終わらせて、あの人も殺さなくちゃいけないんです」
あの人、姫。
あぁそれは嫉妬するなぁ…。
前世の時からそうだけど、メリィの1番はメイベルでその次が姫。
それは昔から変わらないメリィの絶対だ。
「なぁメリィ」
今気づくなんて遅すぎるし馬鹿でしかない。
でもまぁ、俺はそれでこそ俺って感じもする。
1番を消して、2番を奪った。
それってそいつらよりも俺を見て欲しかったからやったことなのかもしれない。
「俺はメリィを愛しているよ」
風を使って、至近距離まで近づく。
少し驚いたメリィの手をそっととって、その左手の甲へと口付けを落とした。
驚いて、傷ついたような顔をして、メリィの全身から黒霧が爆発したかのようにはじき飛ばされる。
「ふはは、そんなに怒らないでくれ。嘘なんかじゃないから、だから、ほら?」
俺はパチンと指を鳴らす。
それは前もって仕掛けた、とある罠の発動だった。
「きゃあああ!?」
「うわぁ!」
会いたくて会いたくてたまらなかったろう?
5年間消息を経っていた兄に。
あとはここに来てからいなくなった2人の侍女。
メリィの右目に青が戻る。
俺の勝ちだ。
「いたた…、え、メルフィ様?」
宙に浮いた俺たちを見てシルディアが驚いた顔をしている。
俺は笑いを堪えられずに口元を隠した。
シルディアの後ろ、無言で立ち上がったメイベルが腰に刺さっていた剣を抜いて振りかぶる。
それは迷うことなくシルディアの首を目掛けて振り下ろされた。
「シルディア!!」
メルフィの目の色が戻った。
黒霧がシルディアとメイベルの元へと集まっていく。
俺は殺さないギリギリの魔力を片手に集めて、無防備になったメリィへと叩きつけた。
やっと君が堕ちてきた。
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