洞窟探索 リーシャ3
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私はディガーのことが嫌い。
諦めずに頑張るところが馬鹿みたいだから。
自分が苦労をすると分かっていても、優しくしてしまう無駄なことをしていたから。
要領が悪くて、負けず嫌いで、結局成し遂げてしまう努力家なところが大嫌い。
「見ろよあの毛色、本当に変だよな」
「白は人間界では神聖な色らしいが、体か弱い者も多いと聞く。きっと病弱に違いない」
そんな風にディガーの本質を見抜けない馬鹿な連中の集まりに、ディガーを置いたままにして起きたくなかった。
たまに来たらいい、と言った彼をむしろ呼んでやろうかと密かに思っていた時期もある。
私が族長になって、誰にも何も言わせないくらい完璧にそれを成し遂げたら、1つくらい我儘を通してもバチは当たらないだろうと思った。
「よぉ!リーシャ!」
数年後に話しかけられたその時、ディガーの腕にはワータイガーの族長の証である腕章がついていた。
それまで一切関わってこなかったディガーが、話しかけてきたのはどういう意図があったんだろう。
二度と現れない私をどう思っていたんだろうか。
時々ある集まりの中で、どれほど人が居ようとも白銀の毛色は目立つから来ているのを知っている。
「その腕章…」
「あぁこれだろ?前の族長に挑んで勝ったらもらった!こんなもん欲しかったわけじゃねーんだけどな!」
腕っぷしを誇るワータイガーの土地で、その力を示すことが出来ればすぐにでもその座は交代する。
知らずに挑んだの?
本当に馬鹿なのかしら。
「ま、これで俺様もお前と同じ幹部ってやつらしいから、これからよろしくな!」
努力を知っているから凄いと思った。
性格を知っているから、立派になると確信した。
だけど、族長になってしまったらもう誘えない。
全てがどうでも良くなったあの日に、ディガーの心の強さを知って奮起した私の決意が…。
何のために族長になり何をしたいのかという目標が、本人の手で壊されてしまった。
「ふ、宜しくも何も、種族同士で馴れ合うことはほとんどないのよ。相変わらず頭がお粗末なのね」
そう言い放って私はディガーに背を向けた。
嬉しいのに悔しい。
あの日の感謝を二度と伝えられなくなった。
私は素直な性格じゃないから、ひねくれ者の自分が1番大嫌い。
こんなはずじゃなかったのに。
凄い!と一緒に喜んであげたかった。
どうして族長になんてなってしまうの?
もう少しで、もう少し待っててくれたら…。
「……しゃ、リーシャ、おい、リーシャ起きろ!」
名前を呼ばれ、揺り起こされて意識が覚醒する。
随分と懐かしい夢を見てしまった。
目の前には濡れたままのディガーがいて、世界は相変わらず暗い。
あぁそうだ、私たちは洞窟に来て水煮化流されて死にかけたんだった。
「目ぇ覚めたか?」
「…なんとか」
「あれからどんくらい経ったんだ?」
「ごめん分からない。傷は?もう平気なの?」
「あぁ、なんとかな」
確かに出血は止まったようだ。
その事にほっと胸をなでおろして、私はブルっと襲ってきた寒気に自らの体を抱きしめる。
濡れたまま寝たりなんかしたから体温が下がりすぎたんだわ。
手のひらに魔力を集めて炎を出現させる。
「寒いのか?」
「少しね。まぁ大丈夫よ」
そこでようやく私は辺りを見回す。
私たちが落ちてきた穴からは未だに水が垂れてきていて、他に出口は見当たらない。
ほんの少し周りに魔力を流してみれば、下に空間があるらしいというのは分かったが、それがどれくらいの広さなのか分からなかった。
「立てるの?」
「あぁ、もう大丈夫だ。迷惑をかけてすまなかった」
「迷惑…、えぇそうね!迷惑よ」
そこで突然先程のキスを思い出して顔に熱が集まる。
あれは非常事態の応急処置みたいなもので、そんなロマンチックなもんじゃない。
違うから、照れるな!私!!
パチパチとされる自らの顔を叩いて赤くなった頬を誤魔化す。
「出口はあそこしかなさそうね」
落ちてきた穴を指し示してディガーを見る。
ディガーは少し考えるような素振りを見せた後、足元を指し示した。
「俺様はこっちが本命だと思うんだよな」
「なにそれ、野生の勘ってやつ?」
「まぁ、そんなとこだ」
ニヤリと笑って、ディガーの右腕に魔力が集中するのが分かった。
私はそっと自分とディガーに風魔法をかけ、このまま落下したとしても衝撃を吸収できるようにする。
「どりゃァ!!」という掛け声とともに、ディガーが地面を叩き割ると足元がガラガラと崩れて私たちはゆっくりと落下して行った。
空洞の感覚は掴めなかったが、そこそこ広くて危険すぎるほど大きい訳でもない。
ただ一つを除いて。
「なっ、な、なんでここに白銀のディガーと悪役リーシャが落ちてくんの!?」
そう叫び声をあげたのは金色の髪に青い瞳をした薄桃色のフードを被った少女。
小娘に聞いた人間側の指導者と同じ特徴じゃない。
というか、どうして私たちのことを知っているの?
少女は何かを期待するような目でこちらを見てきて、横に立つ男は警戒心というか、殺意を漏らして威嚇している。
「あれ?でもなんであなた達は一緒に行動してるの?どっちかが死ぬまで分からないはずなのに…、これもメリィのせい?」
訝しげに眉を寄せて、独り言のようにそう漏らす。
言動に難ありとは聞いていたけれど、この少女も私たちの知らない何かを知っていると思っていいらしい。
魔王や小娘が時々未来予知に近い行動をしているのと、何か関係があるのかもしれないわね。
ま、どうでもいいけれど。
それにしてもこの少女をここで退治したら、これ以上人間側と魔族で争うことはなくなるのでは?
「ま、いっか。ねぇー?あなた達私と一緒に来ない?魔王側じゃ出来ない思いをさせてあげるわよ!」
「断る」
「結構よ」
どんな神経で話しかけているのかと思えば、どうやらこの娘、頭が悪いらしい。
私たちが今の誘い文句で本気でついて行くとでも思ったのだろうか。
明らかに不機嫌になってこちらを睨む少女は、わなわなとその肩を震わせる。
「何よ!私は知ってるんだからね!?私が手を貸してあげなかったらディガーは戦争の前に死ぬし!リーシャも自暴自棄になって戦争で自殺するみたいなもんなくせに!!」
「姫様」
「うるっさい!!」
ディガーが戦争よりも前に死ぬ…?
妄想と言うにはあまりにも断言する少女に、焦る気持ちがあった。
何故だろう。
否定できないと思ってしまった。
「まぁいいわ!せいぜい後悔することね!今のあんたたちといざこざ起こす気はないの。私忙しいから、そこで大人しくしていなさい」
まるで当たり前のように命令する少女に、私もディガーも意味がわからず立ち尽くす。
けれど、少女の放つ次の言葉で私たちはその命令に従わざるを得なくなった。
「サリーシア、ディガード、2人とも事が終わるまで寝ていなさい」
真実の名の前で魔族は無力だ。
私とディガーは驚きに包まれた後、意識の底へと落ちていく。
あの小娘が暗い顔で話すこの少女のことが、私の予想を遥かに上回って危険だと認識した瞬間だった。




