洞窟探索 メルフィ2
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あの人たちの後を追うと決意して、30分ほど歩いただろうか。
魔法で軽く先を照らしてはいるけれど、代わり映えのしない景色にそろそろ気が狂いそうだ。
暗い洞窟を無言のフェリックスとただ歩くだけ。
『もう少しであの人たちに復讐ができるわ』
『もうすぐね。もうすぐで念願が果たされる』
『ガルイムは危険だからさっさと殺さないと』
『あの女はどうしましょうか。前に言っていたみたいに生け捕りにして、死にたいと思うほど辛い目に合わせてみる?』
そんな声が頭で響く。
あの女も前世の記憶を取り戻したのなら、存分に辛い目に合ってもらいたい。
自分がどれほどのことをしたのか、ちゃんと後悔させてやる。
ガルイムは…、あの性格じゃ死んでも治らないかもしれないな。
どちらにせよ2人とも決して許さない。
「だいぶ、近づいてきたな…」
これまでずっと無言だったフェリックスが呟いた。
そうか、もうすぐもう一度会える。
私はこの時、自分が嗤っていることに気づいていなかった。
もう少しで殺せるかもしれないという現実を前に、ワクワクが止まらない。
「なぁ」
「…?」
不意にフェリックスが足を止めた。
呼びかけられた声に私も足を止める。
何をしているんだろうか?
もう少しで追いつけるというこの時に、どうして立ち止まるの?
「あの子は…フェル、は、一度も力を使おうとしたことがないのか?」
急に何を言い出したんだろう?
フェルのこと、嫌いなんじゃなかったの?
「力というのは、フェンリルとしてって意味ですよね?私がフェルと出会ってからは一度も目にしてないです」
いつも笑顔で、天真爛漫で、口調は少しだけ可笑しいけれど可愛らしい子。
ハーフと言うだけで嫌われる可哀想な子どもだ。
族長という立場上看過できないのは仕方ないかもしれないけれど、フェルを嫌うフェリックスのことは好きにはなれない。
「獣人、その中でもフェンリルというのは、肉体的や精神的な成長が身体的に現れやすい」
「…はぁ」
「フェルは今年で50歳は超えるはずなんだ。だが、見た目は10代前半」
「はぁ、えっ、はぃ!?」
50歳!?
衝撃の数字に驚きを隠せない。
私はせいぜい20歳くらいで、亜人だから成長がゆっくりなのかと思っていた。
実際に出会った頃は8歳くらいの見た目だったフェルは、今は12歳くらいに見えるのだから。
「フェンリルにとって一族以外との交配は良くないとされている。それを誰よりも守るべき族長が、元族長だった俺の父が人間の女に惚れ込んで生まれたのがあの子だ」
私はさらに明かされる衝撃の事実に目を見開く。
出てくる言葉もない。
元族長の父、と言った。
つまりフェルとフェリックスは異母兄妹ということ。
えぇぇぇええ!?
「俺は族長としても個人としても母上を苦しめた人間を許せない。だから今までフェルに近づかなかった」
「そう、なんですね…」
「だが俺個人として、あの子の兄としては、フェルのことは気になって仕方がなかった」
ずっと俯いていたフェリックスが顔を上げる。
ポロポロとその瞳から涙が零れていた。
えぇー…、なんでそんなに号泣しているの?
「フェルは、両親を恨んでいるんだろうか?境遇に不満を覚えているんだろう。だからきっと、成長出来ないんだ…」
出たままだった耳がしゅんと垂れ、グスグスと泣く姿は怒られた時のフェルに似ている。
フェルはあんまり泣かないけれど、しょんぼりとした目元なんかは確かによく似ていた。
兄として心配ならば、会う度に睨みつけるのは何だったんだろう?
いっつも怒った顔で見ているから、フェルも怯えていたというのに。
「きゃはは、泣いちゃった~!」
「泣いちゃったね~!誰が泣かせたのかな?」
突然聞こえたのは甲高い小さな声とそれよりは低いもう1つの声。
それに気づいた瞬間、唐突に頭がスッキリしたような気分になった。
歩いていたこの30分、私は復讐のことしか考えられなくなっている。
目の前で泣いているフェリックスも、今までなら絶対に有り得ない醜態だ。
「きっと一緒にいるあの子だよ」
「ヒトを泣かせるなんて悪い子だー」
「「僕らでお仕置してあげないとだね」」
そのセリフだけ真後ろから聞こえた。
だから私は真後ろに向けて黒霧を放つ。
捕まえてしまえばこちらのものだと思ったのだ。
が、私は振り向いたことを後悔する。
「あれれ~、見つかったね」
「あらら、見つかっちゃった」
私がこの世で最も嫌いな生き物。
それが巨大で、しかも頭が2つあって、こちらをチロチロと舌なめずりしながら見下ろしていたのだ。
私がこの世で最も嫌いな蛇という生き物である。
「やぁ人間、初めまして」
「どうも人間、こんにちわ」
濃い緑の鱗に、光って見える青い瞳。
ゆっくりと2つの顔が近づいてきて、チロチロと赤い舌が私の目の前を揺れている。
どうして今までこの蛇に気づかなかったのか。
いつからここにいたんだろう。
というか、喰われる!!
「き、貴様ら!その人に近づくんじゃない!」
涙を流しながら目元が赤いフェリックスが、腰の剣を抜いて私と蛇の間に滑り込んできた。
泣いてなければ格好のつく場面だけど、残念ながら顔がぐちゃぐちゃすぎる。
そんな私たちとお互いの顔を交互に見る蛇たち。
「アタシらイタズラ好きだから、からかってごめんね」
「すぐやめようと思ったけど、後ろの子があんまりにも怖い雰囲気出すから言い出しにくくてごめんな」
あれ…。
頭を下げて上目遣いで謝ってくる蛇たち。
可愛いとかは絶対思わないけれど、悪い子たちじゃないのかも…?
「でも、でもでもね?僕らのイタズラは、心を素直にするだけなんだよ!」
「そう、そうそうなの!アタシらはそうやってここに来る人間たちをからかうのが好きなだけなの!」
「「だから怒らないで~!ごめんなさ~い!!」」
素直になるだけってことは、フェリックスの言葉は本音であるということ。
フェリックスがカラン、と音を立てて剣を落とした。
もしかして先程の告白は自覚無しだったんだろうか?
兄としてフェルのことを想っていること。
「わ、わ、忘れろ!俺が、泣いたことも、あの半端者に対して思っていることも!全部忘れてくれ!」
グルっと振り返って両肩を掴んで揺らされる。
あ、やっぱり恥ずかしいんだ。
涙目で顔真っ赤なイケメンとか、ちょっと可愛いじゃないか。
今まで堅いイメージのあったフェリックスが、急に親近感の湧く印象になってしまった。
私は思わず吹き出してしまう。
「あはは、必死すぎますよフェリックス。あは、ははは…」
「やめろ!笑うな!俺は違う!!」
違うって何が違うんだろう。
もしかしたらフェリックスもフェルと同じくらい愉快で、優しい性格なんじゃないだろうか。
家族想いで腹違いの妹でも気にかけてしまうような、族長としてはダメな、でも良い人。
「ねぇフェリックス。本当に忘れてもいいんですか?」
「あたり…、っ、ぅ、」
言い淀んだフェリックス、今までとは全然違う顔をしていた。
多分これがこの人の素なんだろう。
厳しい顔は族長らしくある為で、フェリックスは凄い頑張り屋さんなんだ。
「今度、フェルに了承を貰って、ゆっくり話が出来る席を設けましょう?」
フェリックスの瞳に動揺が走っていた。
けど、すぐにコクンと頷く。
その後、イタズラな蛇たちとはお別れして、むしろお詫びにと近道を教えてもらった。
地図に乗ってないその道は狭くて時々土が降ってくるけれど、確かにまっすぐ目的地へと通じている。
「やっと追いつきましたよ。姫様」
「ほんっと憎たらしいわね、メリィ」




