洞窟探索 リーシャ2
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初めてフェリックスに会ったのは今でも印象的で覚えている。
今のフェリックスそっくりな無表情の父親の側で、キラッキラと目を輝かせた可愛らしい少年。
生き物を可愛いと感じたのはその時が初めてだった。
「父上!父上!彼女はエルフ族の方ですよね?はじめまして!僕、フェリックスです!」
獣人は人間の姿をとっている方が優れていると判断される。
この時のフェリックスは尻尾は隠せていても、耳まではまだ隠せておらず、それが尚のこと可愛さを強調していた。
族長である父親を尊敬していて、いずれ族長になるんだと努力して、不器用な父親も不器用ながら息子の面倒を見ている。
私はフェリックス親子を見て、生まれて初めて『親』という存在に疑問を持った。
「ねぇ族長」
魔王城からの帰り道。
私は当時のエルフの族長に尋ねた。
「族長の親ってどんな人達だったの?」
「そうだねぇ、厳しくも優しい方々だったよ」
族長は既にかなりお年を召していて、だからこそ私の成長は一族から一心に期待されていた。
そしてその言葉を聞いて初めて私は一族からの家出を決行する。
私には親がいない。
正確にはいるのを知っているけれど、その人たちは私がいずれ守るべき一族の仲間でしかなかった。
「お父さん」も「お母さん」も口にしたことはなく、彼らが親として接してくれたこともない。
「今更、だけど…、なんで?」
両親と手を繋いで歩いてみたかった。
一緒に食卓を囲んで、今日あったことを報告するみたいな団欒をしてみたかった。
悪いことをして怒られてみたかった。
フェリックスのように尊敬してみたかった。
「あれ?お前、エルフのとこの奴じゃん?」
魔王様の土地から出てしまう前にこっそり抜け出したせいで、私は自分がいる位置も自分がどこに向かっているかも分かっていなかった。
足の向くまま気の向くままに進んでいたのだ。
そうして朝日が見える前に辿り着いたのは、ワータイガーの土地の端っこ。
そこで白銀の忌み子と呼ばれているディガーに出会ってしまった。
「お前、こんなところで何してんの?迷子か?」
「…別に」
迷子と言われれば迷子だ。
行く宛などなく飛びだしたのだから。
それにしてもコイツ、こんなところで1人で何してるのかしら?
ディガーと出会ったのは森のはずれ。
そこには少しだけ拓けた場所があり、太い木と木の間に布が張ってある場所と焚き火があるだけ。
「この間見かけた時のお前、つまんなそーな顔してたけど、今日は今日でひでぇ顔してんな」
「うるっさい!アンタに関係ないでしょ!」
と、叫んだ瞬間。
ぐぅぅぅう、と盛大な音が私のお腹から鳴った。
昨日の夜食べたのが最後で、1晩中何も食べずに歩き通していたからお腹が空いたらしい。
羞恥心で顔を真っ赤にした私に、ディガーが笑う。
「なんだぁお前、腹ぺこなのか!あっはっはー!ほら、これやるよ!」
ディガーは大爆笑しながら焚き火へと近づき、その中から黒い塊を取り出す。
手渡されたそれはとても熱くて、思わず地面に転がしてしまった。
炭の塊にしか見えないそれがなんなのかわからず、私は困惑する。
「何やってんだよ、ガワを剥いて食うんだよ」
ディガーは持ち前の鋭い爪で黒い塊を剥いた。
すると中から出てきたのは黄色くてホクホクの栗。
私は火傷しないように手の上で転がしながら、なんとか焦げている皮を剥いて1口頬張った。
身も小さくて、熱すぎて少し舌を火傷したけれど、甘くてホクホクしている栗はとても美味しい。
「あ、魚ももういけるな。ほら食え!」
ニカッと牙を剥き出しにして笑うディガーは、棒に刺さった魚を渡してくる。
もう1匹の魚を豪快に頬張ると「美味い!」と絶賛だ。
私もそっと魚に齧り付くと、焦げた皮と魚の旨味が口いっぱいに拡がる。
料理したお肉やお魚しか食べたことがない私にとって、それは野生的な味だった。
「おい、しい」
空腹は最高の調味料だとどこかで聞いた。
それは確かにそうなのかもしれない。
けど素朴な味というのは、実は1番素材の旨味を際立たせてくれるんじゃないだろうか?
そう思わせてくれた。
野蛮なワータイガーの問題児扱いの忌み子。
粗暴だけど優しいこの少年虎のどこが?
「ここ、あなたの秘密基地か何か?」
「は?いやちげぇよ?ここは俺の家」
「は?」
それが私にとって衝撃的な思い出。
何も無いこの場所が家で、調味料などを使わないご飯が当たり前の食事。
親元にいてもおかしくない年齢の少年の、私とは真逆の人生。
共通点はどちらも親がいるのにいないこと。
「わたし、リーシャ。ご飯をありがとう」
「おう、俺はディガー。嫌なことがあったらまたここに来たらいい。飯食う時は1人より大勢の方がいいからな!」
私はその言葉を聞いて頷いて、エルフの元へと帰ることにした。
過度な期待を押し付けられて、子どもらしくいることが許されないから家出する。
その事がなんだか恥ずかしくなったのだ。
それから数年経って私は族長になり、その間一度もディガーの元へは訪れていない。
エルフの族長になった私と腕を磨いてワータイガーの代表に成り上がったディガーに会うまで、再会することはなかった。
「…りぃ、しゃ…」
「私じゃアンタの傷を治せない。なんとかして小娘たちを見つけてくるわ!」
駆け出そうとした私は腕を掴まれて引き寄せられる。
突然のことに驚いていると、かすれ声でディガーが呻いた。
「ゔっ…、おれ、のふところに、嬢ちゃんから、もらった、薬が、はいってる…」
途切れ途切れになる言葉に、弾かれたように反応してディガーの服の内側を探す。
手のひらサイズの小瓶が見つかって、中には薄緑の液体が入っていた。
小娘の魔力を僅かに感じ取れるから、間違いなくこれだろう。
栓を抜いてディガーの口に流し込んだ。
「ディガー?ディガー、ちゃんと飲んで!」
けれど、ディガーの口の端から零れてしまう。
気づけば再びディガーは気を失っているようだ。
虎と変わらない口では液体を喉奥まで入れられず、横から零れてしまう。
時間が無い、どうしよう、何とかして残りを飲ませないと。
「あの時の借り、返すつもりなんだから!」
私は半分になってしまった小瓶の中身を一気に口に含んだ。
そしてディガーの口を包み込むように抑えて、その口に口付けることで薬を流し込む。
私の初めての口付けがこんな状況だなんて有り得ないんですけど!!
これは介助、介護?介抱、なのだから仕方ない。
そう仕方ない。
「ぶ、はぁ!」
顔を離して口元を拭う。
効果は!?
ぽぅ、とディガーの体が淡い緑色に包まれる。
みるみるうちに傷が塞がって、私の羞恥心が無駄な犠牲にならずに済んだと安堵した。
「とりあえずこれで大丈夫よね」
胸に耳を当てて心音を確認する。
しっかりと脈打つ鼓動を聞いて安心したのか、私は突如襲い来る眠気に勝てる気がしなかった。
こんなところで寝るなんて、と思いながらもディガーの横に寝転がる。
そうして襲い来る眠気に身を任せた。




