魔女の権威
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「被害はこの町だけに収まっておらぬようです」
「隣町含めて私たちの仲間は全員無事だったわ」
明け方、デュラハンとサキュバスたちに近くの町も確認してもらったが、他の町も混乱しているようだった。
1番酷いのはやはりこの町だが、ほかの町でもあちこち火の手が上がったらしい。
焼け野原になっていないだけマシだ。
ところで首のないデュラハンたちは、どうやって喋っているのだろう?
「分かりました。ワータイガーの皆さん、もう面倒くさいので、デュラハンたちと協力して怪我人を誘拐してきてください」
「了解っ!」
そんなに大人数ではないらしい。
だったらこっちに連れてきてもらった方が楽だ。
無事に治して帰すのだから、今だけは勝手に騒いでいてもらおう。
「メルフィ様、オルトラの町長だという男がメルフィ様にお会いしたいと言っております」
一段落着いてルルフが声をかけてきた。
昨日あれだけ大騒ぎで、ルルフにも沢山手伝って貰ったのにメイド服に皺も汚れも見当たらない、だと!?
さすが自慢の猫耳メイド長。
頷いて彼女の後に続く。
町民の避難所として、診療所と別にもう1つ無事だった建物に彼らを集めた。
そこに汚れた服装の小太りのおじ様が待っていた。
「あ、あなたがこの魔族たちを率いているお方なのですか…?」
「はい、そうですよ」
町長は給仕服姿のルルフと私を交互に見て、なかなか信じられないようだ。
まぁ15歳になって、見た目も黒霧の影響で18歳くらいに見えるとはいえ少女であることに変わりない。
戸惑ってしまうのも仕方がないだろう。
『魔女』として話した方が良さそうね。
「この町にね、欲しかったものがあったんですよ。そうしたらすっごく燃えてるから、もうびっくりしちゃって。聞きたいことがあるから皆さんを助けたのですが、答えてくれますか?」
避難所の裏に回り、ニコニコと笑顔を振りまきながら町長に1歩近づく。
町長はビクリと身体を震わせて青ざめた。
そんなに怯えなくても別に命なんていらないよ。
ま、目元を隠しているせいで何を考えているかなんて分からないから、警戒するのは当然だろうけどね。
「この町に、ロベディストの地図がありますよね?町長のあなたなら知ってますか?」
「それはっ…!」
知っている、とその表情が語っている。
3歩退いて顔を背けてももう遅い。
あの女に地図を渡すわけにはいかないから、私がどうにかしないと。
どちらにせよ向こうにガルイムがいるなら、この人がどう思ったところで操られて取られるのがオチ。
「じ、実はもう手遅れなんです」
町長は懐からハンカチを取り出してその額に滲む汗を拭った。
手遅れ…?
「このような事態になる直前、フードを被った男女が私の元に来て奪っていきました。な、何故か口が勝手にペラペラと喋ってしまって……」
じわっと彼の目元に涙が滲む。
間違いなくガルイムの魔法だろうな。
じゃああの人たち、何のためにこの町を襲ったの?
地図を手に入れたのならもう必要ないはずじゃ…。
「……本当に、地図は奪われたんですか?」
目の前の男はハンカチで額を拭っている。
まるで表情を隠すように。
あの時、ガルイムは地図を探しているって言っていた。
嘘かもしれないけれど、あの状況でガルイムが嘘を吐くメリットがない。
「この町を焼け野原にしたのはその男女で間違いないです。でも、原因を招いたのは、誰でしょうね?」
「あなたに何がわかるんですかっ!!」
カマをかけたつもりだった。
どうやら図星だったらしい。
小太りの男は声を荒らげて、持っていたハンカチを握りしめる。
ルルフが視界の端で、そっとスカートに仕込んだ武器を確認するのが見えた。
私はそっとルルフの手を押さえる。
「私の家系は代々アレを守ってきたんです。アレがどれほど恐ろしい地図なのか、あなたは知っているのですか?不意に現れた怪しいヤツらに易々と奪われてなるものか!」
「非力な人々にとって、その洞窟にあるものがどれほど恐ろしいかは分かりますよ」
「あの洞窟は私の先祖が冒険者だった時に発見し、解放して、そうして見つけてしまった」
ドラゴンの卵。
本来ならば隠蔽すべきでないその案件を、この人の先祖は自らの内にだけ秘めて道を閉ざし、その隠し通路を隠し通すことを子々孫々に受け継がせた。
「……ペラペラと話したのは、嘘の場所です。そこが真実だと思いこむように暗示をかけ続けてきたので」
「そうですか。それはよかった…」
暗示…、と思い込んでいる魔法だ。
1度きり精神系の魔法を回避出来るような、そんな魔法だろうと推測する。
自分で自分に魔法をかけて、こういう事態の時に回避できるようにしていて思惑は見事成功。
「私はソレに興味があるわけじゃないです。どちらかと言えば彼らにソレが渡らないようにしたい」
あの女ならドラゴンをしたがえる方法を知っているのかもしれない。
それはとんでもなく恐ろしいことだ。
あの女曰く、ドラゴンが復活すれば人間も魔族も関係なく滅ぼせるほどの脅威だと言う。
「そんなの、信じられるわけないじゃないですか」
「地図の在処を知っているのはあなただけですか?」
そう言って私は右手に霧を集める。
それがなんなのか分からず、町長は困惑した様子だ。
クスリと笑ってみせる。
「見せたことは無いですが、場所だけは娘が…」
「娘さんはこの避難所に?」
「…は、はい。何故、そんなことを聞くんですか?」
黒霧を大きく膨らませて、大きな鎌の形を作る。
ひっ、と悲鳴をあげて、町長は尻もちをついて私を見上げた。
私の背後に大きな鎌が浮き、余った黒霧が威圧するように渦巻く。
本気ではないけれど、これくらい脅さないとこの人は渡してくれないだろう。
「では、あなたとこの建物の中の女性を全て殺せば、地図が彼らの手に渡る危険性を下げられるということですね。教えて頂きありがとうございます」
「や、やめてくれ!!娘はまだ10歳なんだ!妻ももう1人を身篭ってて、頼む!渡す!渡すから!!」
ぐるりと下を向いた鎌がゆっくりと町長へと迫った。
尻もちを着いて少し後ろに下がったとて、大鎌からは逃げられない。
土下座して、半泣きの町長に少しだけ同情する。
「そう言っていただけると、私も無駄な犠牲を生まずに済みます」
鎌と霧を消せば、町長は脱力した。
その後は安堵の涙を流しながら、町の地図を開いてロベディスト洞窟の地図の在処を教えてくれる。
軽くお礼を言って、少し離れたところで私は目に見えないほどの薄い霧を避難所に向けた。
小さな怪我、体の不調、これくらいならまだいける。
「脅しちゃってごめんなさい」
避難所全員に回復魔法をかけて、私はその場を立ち去ろうとした。
けれど1つ路地を曲がったところで、目の前にディガーが立っている。
「ディガー…」
「はぁ、やりすぎだ。馬鹿野郎」
「……っ」
声をかけられて、平気だと笑おうとして全身から力が抜けた。
床に倒れる前にディガーの大きな手に支えられ、私はミスったのだと気づく。
昨日から魔法を酷使しすぎた。
「こんなんだから、王も気が抜けねぇんだぞ」
そんな嫌味なお説教をもらいながら、私は反論することも出来ずに意識を手放した。




