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鉱山の町 オルトラ

ブックマーク&感想&評価ありがとうございます!

とても励みになっておりますので、これからも頑張らせていただきます(ง •̀ω•́)ง

ディガーを伴い地上に出れば、そこは阿鼻叫喚の地獄のようだった。

家は燃え、人が苦しみ、人が死に倒れ、そんな人々を狂った顔で追いかける兵士。


「私の知ってる王国軍じゃない…」


銀の兜に銀の鎧、紺と青のマントを付けているのが王国の兵士たちだ。

けれど今目の前で人々を襲っている兵士たちは、白と桃のマントを付けている。

あの女が好んだ色合いだ…。


「やめてくれ!俺は関係ない!魔族なんて知らない!知らない!故郷には家族もいるんだ!!」


「うる、さ、しね、しね、ころ、ろす」


地面に尻もちをついて後ずさるのは、鉱山で働いているんだろう装いの男だ。

それを兵士が刺し殺そうと槍を持ち上げる。

見兼ねたディガーが兵士をその大きな手で平手打ちにすると、兵士は壁に叩きつけられて気絶したようだ。


「ねぇあなた、この軍の指揮をしている人がいる場所を知りませんか?」


「ひっ!?魔族!?」


私が近づけば男は後ずさりする。

よく見ると足を怪我しているのか、右足首が紫色に変色していた。

そっと手を触れないくらいに当てて治癒魔法をかければ、みるみると癒えていく。

人間を治すのは雑作ない。


「あ?え、あれ、足が痛くねぇ!」


「今は時間が無いんです!知りませんか?」


「こ、コイツら町の噴水広場から唐突に現れやがった。俺は遠くにいたからよく見てねぇけど、あそこにはちょっとした時計台があるから、時計台なら少しは見晴らしがいい、かもしれねぇ」


「そこにいる可能性が高いということですね。ご協力ありがとうございます。逃げるならあちらの方向へ」


私はそう言って町外れの山を指さす。

私とディガーは兵士たちを止めながら噴水広場を目指して、それまでに出会う兵士の全てがおかしい。

意思疎通は出来ず、うわ言のように「死ね、殺す、殲滅」のような言葉を呟いて、仲間が倒されても見向きもしない。


「やべぇ薬っぽいな」


「うん。それか洗脳魔法」


幻覚を見せる魔法なら見たことがある。

ガルイムが得意としていた魔法だからだ。

幻覚魔法は相当悪質でなければ心が壊れることはないけれど、魔法を直接精神に潜らせる洗脳魔法は後遺症が現れる。

人格が失われたり、正常な判断が出来なくなったり、攻撃的になったり…。

中毒性の強い薬と同じような症状である。


「着くぞ」


燃える町を抜けて噴水のある広場へとたどり着いた。

『ようこそ鉱山の町 オルトラへ!』

そんな看板が広場にあった。

工房や宝石店などの案内看板がその下にある。

町の軽い地図のようなものがあって、そこにはあちこちバツ印が書きこまれていた。


「なぁんで?」


耳障りな聞きなれた声。

地図にバツを書き込んでいるのは天使のような見た目の悪魔だった。

心の奥底で怒りか憎しみか、その両方だろうか、熱く熱く何かが燃え上がるのを感じる。

ちらりと向けられた青い瞳には怒りのような色が滲んで、ゆっくりと彼女はこちらを向いた。


「おっかしいなぁ!この町を襲ったのって半年くらい早いはずなんだけど?なぁんでアンタここにいるわけ?」


半年…?

熱くなった体が冷水をかけられたように、急速に冷えていく。

確かに前世では、この辺りの町で魔女狩りが始まったのは半年くらい先のはずだった。

だからその前にサキュバスたちを避難させようと思って、今回の行動に移したのである。


「どうして、半年って知って…」


「あらら?あっちゃー、つい口が滑っちゃった」


口元を手で隠して楽しそうに笑う姫。

余裕たっぷりのその笑みに嫌な予感が加速していく。

熱くて寒い。

周りが燃えているからだろうか。

警鐘が頭に鳴り響いているからだろうか…。


「今までは先手打てたかもしれないけどぉ、もーそんなことさせないんだから!」


ニヤリと顔に似合わない笑みを浮かべて、姫が片手をこちらへ向けた。

その手首に見覚えのあるものが付いていて、私は目を見開く。

それは前世で私が付けていたネックレスにそっくりのブレスレットだった。


「ライトアロー!」


ライトアローは光魔法の初期攻撃。

だが、目の前に展開されたそれらは初期攻撃の範囲を超えていた。

1本から5本の光の矢が出来れば十分な魔法。

目の前には姫の手を中心に百はあるだろう矢の形が形成されていた。

それが一斉に私に向けて飛んでくる。


「その魔力、ガルイムですか?」


百本の矢は、盾にした黒霧に突き刺さって霧散した。

ディガーが後ろから俺がやろうか、と聞いてきたけれど私は首を振る。


「やっぱ分かるんだ。アンタアイツのこと大好きだったもんね!」


心底楽しそうな顔をして姫はそう言った。

魔力の波長が今なら分かる。

魔法の骨組みは姫の魔力だが、その魔法の根源はガルイムの魔力だ。

あのブレスレットは前世のネックレスと同じで、相手から魔力を吸い上げるのだろう。

なら、今世ではガルイムはどこかに閉じ込められているんだろうか。

あのガルイムが?


「ライトニングアロー!」


数は少ないが、太く頑丈な光の矢が形成される。

今度は黒霧では止められない。

私は上へ飛び上がり、ディガーも同じく飛んだ。

私が姫なら、敵が空中に浮いた身動きの取れないここでライトアローを大量に打ち込むだろう。

それをしない姫は戦闘慣れしていない。


「いい加減に帰ってくんない?邪魔なんだけど!」


そう言って彼女は光の矢を打ち続ける。

数か威力の片方に偏るせいで、防ぐのは容易だ。

ただ私はどうしようかと悩む。

殺してやりたい。

でもそれは魔王のやり方に反する。


「ちょっと待った。アンタそれ、エルフの宝じゃない!なんでアンタが持ってるわけ!?」


「なら先に私の質問に答えてください。どうして前世を覚えいるんですか?」


「なんて私がアンタに従わなきゃいけなっ、んぎゃあぁああッ!?」


「!?」


光の矢を打ちまくっていた姫のブレスレットが突然発光して姫が悲鳴をあげて倒れ込む。

ブレスレットが付いている腕の周りが少し焦げたように見えるのは気のせいだろうか。

今のは光魔法じゃなくて、雷魔法?


「おい、どーなってやがる」


「分かりません。でも油断しないでください」


姫は倒れたままピクリとも動かない。

少しずつ近づいて、距離を詰める。

こちらの目を晦ますための閃光で、油断させるための気絶の演技かもしれない。


『ねぇ今、殺せるよ?殺さないの?』


それは幻聴か、私の願望か。

本当に気絶しているのなら、無防備で簡単に殺せてしまいそう。

無意識に呼吸が上がって、心臓が耳傍で鳴っているみたいだ。

乾いた口で唾を呑んで、手のひらを持ち上げる。


「その女はまだ利用価値がある。だから殺されると困るなぁ?メリィ」


世界から音が消えて、呼吸を忘れた。

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