鉱山の町
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「はぁぁぁああっ!?」
あれから数日、私は今魔王城の庭園にいる。
そこには魔王とフェル、シルディア、ディガー。
それからケンタウロスの三兄弟とデュラハンがいる。
大声を上げたのは代表でもある三兄弟の長男、ケイトリーだ。
「俺たちに人間なんかに従えって言うのか!」
「兄者!落ち着いて」
「兄者を止めるなディミトリー、俺も同意見だ」
「ロトリー兄さん…」
色黒の三兄弟は顔立ちが違う。
ケンタウロスは一夫多妻が当たり前で、長男ケイトリーと次男ロトリーは同じ母親から、三男のディミトリーだけが腹違いらしい。
それでも三兄弟は仲が良く、戦闘においての共闘は有名どころである。
ちなみにこの3人の他にも同じ父を持つ姉妹が沢山いるのだとか。
「冗談でもなんでもなく、これは命令だ」
「本当にいい加減にしてくれ!作戦に協力するまでは我慢できる。だが、命令権全てをあの女にやらせるのか!?挙句に虎共と共闘しろと!?」
ワータイガーとケンタウロスは昔から仲が悪い。
理由は彼らも分からないほど古い因縁なのだが、ただお互いに隣の土地で気に食わないのだそうだ。
腕力や爪や牙を誇るワータイガー。
脚力と精密な道具を誇るケンタウロス。
「ケンタウロスの一族に命ずる。これは王命だ」
「はぁ…たくよォ、俺様も我慢してんだ。さっさと仕事を終わらせた方が早い話じゃねぇーか」
かれこれ30分ほどごね続けるケンタウロスに、見かねたディガーが口を開いた。
本当にワータイガーが嫌いなのだろう、長男と三男がディガーを睨みつける。
次男は腕を組んだまま目を閉じているが、馬のような耳がしっかりとディガーに向いていた。
「ディガーにはメルフィの護衛を命ずる。ケンタウロスとデュラハンはメルフィに従え」
厳しい声でそう言い放つと、ラスティはフェルとシルディアに向き直る。
今回、2人はお留守番だ。
その間ラスティが2人を見ていてくれるらしい。
渋々と言った調子でケンタウロスたちは従った。
私はラスティが用意してくれた馬車に乗り込む。
「すごい、こんな贅沢な馬車見たことない」
頑丈に作られた座席に乗り込んで、その正面で馬車を引く馬に目をやる。
通常の馬より一回り大きな体躯。
漆黒に染まる艶やかな毛並み。
そして、その額から雄々しく伸びる黄金に輝く角。
通常のエルフが光や木属性を持つのに対し、色黒で闇属性を主に操るエルフをダークエルフと呼ぶ。
ならばこの馬車を引いてくれる2頭はダークユニコーンと呼ぶに相応しい。
「ノエル、ノルンお願いね」
賢い2頭はブルルっと返事して馬車が進み出す。
馬車の中は私とディガーだけ。
振り返れば不満げな顔の三兄弟と、その一族25人。
デュラハンたち5人。
そしてワータイガーの精鋭12人。
何がすごいってユニコーンの足はすごく速い。
その足に付いてこれるケンタウロスたちと、デュラハンたちの馬。
「あのクレイヴィもなかなか素晴らしいな」
ワータイガーたちは体力はあれど、ここまでのスピードは出ない。
そんなワータイガーたちには荷馬車に乗ってもらっているのだが、その荷馬車を引くのがクレイヴィという名のダークユニコーンだ。
彼女は一頭で筋肉隆々ワータイガーたち、12人の荷馬車を引いている。
「魔王様の愛馬を貸していただけるなんて光栄ね」
「まぁ騎乗はさせてくれねぇだろうけどなぁ」
そう、クレイヴィはラスティしか乗せない気難しい牝馬なのだ。
私もユニコーン事情に詳しい訳では無いが、クレイヴィは少し特別な血統の馬なのだという。
ユニコーンやダークユニコーンが通常の馬より一回り大きいのに対して、クレイヴィは3倍なのだ。
もうクレイヴィが馬車の荷台のよう。
懐きにくいのが特徴で、雄馬になれば通常の馬の5倍ほど大きいらしい。
「魔王様以外は乗せないけど、魔王様の言いつけなら運んでくれるだけとても賢いってことは分かりますね」
背中に乗せるのはラスティだけ。
それでも荷馬車なら引いてくれるらしい。
ノエルとノルンはルルフが御者をしてくれるので、クレイヴィは騎乗者無しに走っている。
私たちが乗るこの馬車について行けばいいと分かっているのだ。
クレイヴィの賢さも凄いが、うちのメイド長もなんでも出来てすごい。
「なァ、軽い軍隊引き連れて今回は何をやらかすつもりなんだ?」
「やらかすって…まぁ否定はしないけれど」
ディガーはこれまで私がやってきたことを黙認してくれている。
戦い方を身につける上で師匠であり、今では多くのことの共犯者だ。
「今回の表向きの目的はサキュバスや人に紛れている魔族たちの帰還を促すこと。裏の目的はあの姫の企みを暴くこと」
「そんなにその姫はやべぇのか」
「あの人より酷い人間を見たことがないくらいには」
「そりゃ…、とーぎじょー?よりやべぇのかぁ」
こくりと頷き、それを機にディガーも私も黙り込んだ。
暗黒の地を抜ければこの集団は目立つ。
だから山の中を抜けていこうと思っていたら、サキュバス代表のイミシャさんが抜け道を教えてくれた。
鉱山で働く男たちは、ほとんどが力自慢の"お馬鹿"らしい。
だからこそサキュバスの新人は必ずと言っていいほど鉱山の町へ行くようだ。
その為にドワーフ協力の下、王国を迂回するように地下に一本道を作っているらしい。
「上を行くなら10日はかかった道のりが、1日で着くのなら儲けものですね」
「俺は少し寝るぞぉ」
ふぁーと大きな欠伸をしてディガーは眠る。
辛うじて足元が見えるくらいの暗がりの中、変わらない景色を見ているうちに私もウトウトとしていた。
時々起きて水分補給をしたり軽い食事をしたりして、地下を駆け抜ける。
そうして再びウトウトしていた頃、突然車体が大きく揺れた。
「きゃっ!?」
「おいっ!?あぶねェ」
座席から投げ出されそうになったところをディガーの大きな手が掴んでくれる。
力強い腕ともふもふで硬い胸筋に抱きとめられ、少し息が苦しい。
かなりの衝撃に襲われたが、馬車が横転したわけではなさそうだ。
揺れが収まって恐る恐る顔を上げると、ガラスの向こうにルルフが現れる。
「メルフィ様!大丈夫ですか!?申し訳ありません」
「ディガーが助けてくれたからなんとか大丈夫。突然どうしたの?」
「それが、緊急事態のようです」
私が無事なことにほっとしたのか、ルルフの耳が少し垂れた。
けれど直ぐにピンッと張って、彼女は車体の前方に視線を向ける。
ディガーと共に馬車を下りると、ディミトリーが前方にいた。
「たすけて、ください…」
ディミトリーの手のひらは緑の優しい色に輝き、その腕の中には真っ赤に染まったサキュバスが1人いた。
私は彼女に駆け寄ってディミトリーの治癒魔法の上からさらに強い治癒魔法をかける。
彼女の背中には矢が刺さり、腕や足も傷だらけだ。
「おねがい、します、みんなを、仲間を助けて…」
傷を治癒して痛みが引いたせいか、彼女はそう言いながら気を失った。
私は致命傷になりかねない傷だけを癒して、あとはディミトリーに任せる。
「ケンタウロス、デュラハン、ワータイガーの皆、思ったより早く事態が進行しています。気に食わないことはあるでしょうが今は人命が優先です」
「あぁ、分かってる」
ケイトリーが渋い顔で頷いた。
私も彼に頷き返す。
「基本的には救助を優先、2人以上での行動を厳命します。救助の邪魔をする敵を殲滅することは構いませんが、一般人はなるべく傷つけないでください」
私の言葉にほとんどが頷き、1部は嫌そうな顔をした。
人間は全て敵だと思って欲しくない。
「それでは、散開っ!!」




