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相違点


「……フィ?…ルフィ?メルフィ!?」


ハッとして目を開ける。

先程まで夜の世界だったのに、目の前には眩しい日光が降り注いでいて思わず顔を顰めた。

手のひらで日差しを遮って、その眩しさに目が慣れるのを待つ。

そうして数秒経つ頃には痛みが治まり、ゆっくりと目を開くと懐かしい光景が拡がっていた。


「メルフィ?大丈夫?頭痛いの?」


パチクリと目の前の人物を見つめる。

そこは住んでいた村の近くにある川で、私とお兄ちゃんはよくここに水汲みに来ていた。

現在私は木陰に座っていて、目の前には可愛いお兄ちゃんがいる。

そう、記憶より随分と幼い兄がいた。


「おにい、ちゃん?」


「顔色が良くないよ?本当に大丈夫じゃなさそうだ」


はい、と兄が背中を見せてくる。

これはどうやらおんぶをしてくれるつもりらしい。

状況確認をしよう。

これが走馬灯でなければ私は狙い通り過去に戻ってくることが出来たらしい。

この村にまだ居るということは、城から出迎えが来る前ってことだ。

私の手も、やはり記憶より小さい。

今ならまだ、逃げられる?


「メルフィほら!」


「う、うん」


まだ情報が足りない。

今は静かに考える時間が欲しかった。

素直に兄の背中に身を預け、私の分の働きをさせることを申し訳なく思いつつ私は家に届けられる。

ベッドに寝かされ、額に濡れたタオルを押し付けられ、飲水を1杯用意してから兄は仕事へ。


「ごめんね、お兄ちゃん」


よし、気持ちを切り替えて考えよう。

私たちはまだ辺境の村にいるが、恐らく時間はない。

兄の見た目からして10歳くらいだから、そう遠くないうちに城からあの女の使いが来るはずだ。

どうしよう?

村から逃げるとしても、子ども二人でお金もない。

城について行ったとしたら、それはそれで逃げ出せなくなる。

変な時期に戻ってしまったものだ。


「どうしてこんなに前に…」


魔王の言い方だったら、魔王討伐の少し前に戻るみたいな言い方だったのに。

こんなに昔に戻るなんて聞いてないんですけど!?

とりあえず今はその怒りを抑えて、今できることを考えよう。

そうして私は、外で聞こえてきた音に耳を傾けて、魔王の出来の悪さを呪った。


「この村にいる子どもを全員集めろ!」


不意に聞こえたこの声は、村の人の声じゃない。

聞き覚えがある。

間違いなければ王国の近衛兵、その兵長の声だ。

ざわざわと村民たちの戸惑いが聞こえて、異様な雰囲気に泣き出す子どもの声も聞こえる。

頭の芯が冷えて、少しだけ魔王を恨んだ。

よりによってこの日に戻るなんて!

お兄ちゃんを連れて今すぐ隠れないと。


「っ!!」


「わ!?メルフィ、ダメじゃないか。寝ていないと」


家を飛び出そうとして、逆に家に入ってきた兄とぶつかった。

衝撃で後ろに倒れそうになった私を、兄が腕を掴んで助けてくれる。

ダメだ、逃げ場がない。

このままだとまた連れていかれてしまう。


「メルフィ凄いんだよ、たくさんの兵士さんが来てるんだ。子どもを集めろって言ってるから、もしかしたら軍の勧誘かなぁ?」


にへらぁ、と事の重大性を理解せずに微笑む兄。

なんて呑気な!!

この後何が起きるかも知らないで、そんな気の抜けた顔をしている場合じゃないのに!

咄嗟に兄の手を掴み、私は家の裏口へ向かう。


「メルフィ!?」


「お兄ちゃんうるさい。いいから、あの人たちに会っちゃだめなの!」


「えぇ?」


親のいない私たちに与えられているのは、料理をするための一角とベッドが辛うじて2つ置けるだけの小さな家。

裏口はベッドの奥に使われずにある。

そこに手をかけたその時、ガチャリと音を立てて正面の扉が開いた。

あぁ、間に合わなかった。


「何をしておるんだお前たち!兵士様たちがお待ちだ!」


それは優しい村長のクソ息子。

村長は優しいのだけど、この息子は私たちのことを孤児とバカにしている。

なんなら村のために奴隷にでも売って、金に換えたほうがマシだとかぬかしているのも聞いた。

このあとのことも、ほとんどコイツが保護者気取りで話を進めていくことも覚えている。


「メルフィ行こう?」


困り顔の兄には手を引かれ、私は従うしか無かった。

抵抗して走って逃げたところで、大人たちに叶うはずもない。

こうなったらお城で訓練して、少しずつ貰えるお小遣いを必死に貯めて夜逃げしよう。


「この子らで全員でございます…」


泣いている子、怯えている子、目を輝かせている子、数人の子どもたちがそこに集められていた。

みんな顔馴染みの子どもたちだ。

私とお兄ちゃんもその輪に入れられ、大きな水晶を持った兵士が私たちの前へと現れる。

あとは過去の通りだ。

兵士が呪文を唱えれば、水晶が光り出して私たち兄妹を照らし出す。

ざわつく村人と、喜ぶ兵士たち、置いてけぼりの私たちまで変わらぬまま。


「君たちは世界を救う救世主となる!」


魔王を打ち倒す勇者なのだ!

こんな辺鄙な村から英雄が生まれるのだ!

そんなことを声高々に叫んで、村人たちもその気にさせれていく。

栄誉なことであり、素晴らしいことなのだと信じ込まされて、私たちの意志などお構い無しだ。

反吐が出る。


「…メルフィ、どうしてこうなることが分かって?」


兄の服の袖を握りしめることしか出来ない私に、兄がそっと問いかけてきた。

私は未来から戻ってきたのだと言いたい。

このままお城に行ってはダメなのだと言いたかった。

あの女に、お兄ちゃんは騙されて籠絡されてそれで、殺されてしまうから逃げようと…。

言いたかった。


「こほん、あなたたちのお名前を伺ってもよろしくて?未来の勇者様。そして、その妹君」


息を呑んで声の主を見つめる。

ドウシテ、ナンデ、オマエが、ここにいるの?

記憶と違う。

過去に戻ってきたはずなのに、どうして、違っているのか。


「皆の者、面を下げよ!このお方は我がシュミール王国の姫君、エミキュール・シュミール殿下だ」


「皆様ごきげんよう、顔を上げて構いませんわ。エミキュールなんて長ったらしいでしょう?どうぞ気安くミクと呼んでくださいまし」


透き通る金糸のような髪に、天使のような微笑み。

まだあどけなさが残るその笑顔は、私以外の全ての人を魅了した。

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