定例会議 その2
1週間後の定例会議。
私は目元を隠し、無邪気な笑みを口元に宿し、魔王に1番近い席に座っている。
数年経った今でも私がここに座ることを気に入らない者たちは多いようだ。
『魔女』の被害にあった者たちは尚更。
「それぞれの種の報告は以上だな。他に何か言いたいものはいるか?」
「は〜い」
緊張感のない声で返事をすれば、注目が一気に集まってくる。
あぁ、怖い怖い。
ディガーとリーシャとフェリックス以外のほとんどが睨んでくるんだもの。
「人間の方でね、怪しい動きがあるんですよ。だから、人間側でお仕事してる人たちは、そろそろ帰ってきた方がいいと思って」
顔をサキュバスの方へと向ける。
サキュバス以外にも出稼ぎに行っているものは多いが、やはりサキュバスたちに比べれば少ない。
前世での魔女狩りの悲劇を起こさないためには、魔族そのものが向こうから居なくなればいはずだ。
キッカケさえ与えなければ、あの悲劇が国中に広まることも無かっただろう。
「…お言葉ですが魔女様、我々のような生き物は餌がないと生きて行けぬのです。それに、このような事態は何度もあり、その度に乗り越えてきたものですよ」
「ん〜、でも戦争が起きるかもしれないんですよ?危なくないですか?」
魔族と人間の戦争は、今回が初めてというわけじゃないのは分かっている。
数百年前の戦争で魔族たちはこの暗黒の地に追いやられたのだから。
本来の場所を取り戻そうと躍起になっている時期だってあったと聞いている。
だから今更戦争くらいで逃げる必要は無い、と思っているのかもしれない。
「例え、私があの娘たちに呼びかけたとしても、帰ってくる娘たちは少ないでしょう」
そう言われるのを待っていた。
貴女が族長として呼び掛けまでしてくれたら、もうそれでいい。
ニコッと私は笑顔でサキュバスの族長、イルシャナに微笑みかけた。
「じゃあ、私が直接赴いて連れて帰ってくればいいんですね!誰がどこにいるか教えて貰えます?」
「おい魔女!いい加減にしろ!」
そう言って机を叩きつけたのはケンタウロス。
その族長を務めるケイトリーだった。
騒々しいのは変わらず。
「お前が思うほど魔族はヤワじゃねぇんだ!サキュバスなんてお前には関係ねぇだろうが!」
いつも大体私の言うことに突っかかってくる。
最初の議会でラスティに睨まれたことを逆恨みしているのかもしれない。
ワータイガーの土地にもちょっかいをかけてきているし、いい加減あの口を黙らせたいところだ。
どうしたものかな…。
「私はいつだって魔王様のことを考えていますよ。サキュバスだろうとワータイガーだろうと、私にとっては隣人と同じ。関係ないことなんてありません」
「なにが隣人だ!このっ…」
ケイトリーが再び私に噛み付こうと口を開いたその時、ラスティが人差し指で机を鳴らす。
コツン、とただ1回。
それは黙れ、という合図のようなもの。
仕方なくケイトリーも黙り込んで、全員の注目がラスティに集中した。
「此度の戦争は、今までにないものかもしれん。戦力増加のためにも俺はメルフィに賛成だ。メルフィ、ケンタウロスそれから、デュラハンを連れてサキュバスたちを迎えに行け」
「はい、承知しました」
私は恭しく頭を下げる。
ケイトリーは何か言いたげに口を開くが、それよりも先にラスティが続けた。
「それから各種族の族長は、出来るだけ一族の動きを確認しておくこと。人間側にいる者には帰還するように指示しておけ」
「「「かしこまりました」」」
ケイトリー以外の種族は頭を提げて了承する。
「お待ちください!何故我々が!?その女1人でいいでしょう!」
「いつも騒がしいからな。力が有り余っているのだろう?たまには救助のために動いてみてはどうだ?」
「なっ…」
ケイトリーの顔が真っ赤に染まる。
ケイトリーの後ろに控えているケンタウロスも不服そうに眉根を寄せた。
ラスティも酷いことするなぁ。
私のことを特に嫌っているケンタウロスに私の部下として任務を遂行しろ、なんて。
私にも懐柔しなさい、と言われている気がした。
「本日の会議はこれにて終了とする。ご苦労」
そう言って解散となって、ラスティは広間から出ていった。
私も直ぐにその後を追い、ラスティの執務室へと一緒に向かう。
「なかなか酷なことをするね」
「最近のアイツらの行動は目に余る。メルフィよりディガーの方が爆発しそうな勢いだったぞ」
「え、それは…私の監督不行ね」
ポンポンと頭を撫でられる。
気にするな、じゃない。
ワータイガーとエルフの威光を貶めたのは私だ。
気にするに決まっている。
エルフの方は特別扱いは出来ないけれど、これ以上不遇な目に合わせる訳にはいかないし。
「メルフィは背負いすぎだ」
「私が始めたことだもの。責任は負わなきゃ」
「俺以外にも協力者はいるだろう?もっと頼った方がいいぞ」
「…頼れるところは頼ってるよ」
あの学園のことだってほとんどドラシェンさんに任せきりだし、施設の建設なんかはグルモフさん頼りだ。
政治に関してはさっぱりで、今日みたいな日はラスティの権威を借りている。
私に出来ることは知っている未来の先回りをして、できる限り火種を消すことだ。
「後でサキュバスたちに話を聞きながら、日程の調整をしよう」
「うん」
仮初の平和が続いた5年間は、私にとって色々な準備をすることが出来た。
それは多分、音沙汰のないあの女やガルイムも同じ。
未来は既に変わっているから、あの人たちの動きももう予想通りとはいかないだろう。
魔女狩りも今世で本当に起こるかなんて分からない。
けど、用心に越したことはないと思う。
「私は私の好きようにやらせてもらってるから、まだ全然大丈夫だよ」




