とある路地裏にて
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シュミール王国首都郊外。
その路地に4つの人影と1つの人影が対峙していた。
4人のうちの1人が膝を着いて空を仰ぐ。
深く被っていたマントの帽子が外れ、その金糸のような髪の毛が露わになった。
「ぁぁぁぁあああ!!!ほんっと!最悪!」
金髪の少女は頭を掻き乱して半狂乱に叫んだ。
夜闇のなかで叫ぶのは目立つ行為だが、大通りを歩く数少ない通行人は気にした様子もなく通過して行く。
3人の人影のうちの1人が心配そうに金髪に寄り添うが、その1人を殴るように突き飛ばして彼女はようやく冷静さを取り戻したようだ。
「状況が違いすぎてることにゃぁ驚いたが、姫の話を聞いて納得だよ」
「ずいっぶんと余裕じゃない!私は腹立たしくて仕方ないってのに」
「ははっ、そりゃぁそうだろぉ。あのメリィが『魔女』だって?傑作だ!」
「何も面白くなんかないわよ!」
金髪は左の親指の爪を噛む。
その様子をみて1人の人影は面白そうにさらに笑みを深めた。
人影は金髪に近寄りその手を差し出す。
「さて、お姫様。アンタの欲しい情報の対価は"なんでもいい"だったよな?」
「はぁ?あぁうん。まぁいいわよそれで」
イライラの収まらない金髪は鋭い視線を向けながら嘆息する。
彼女の保ち続けてきた『お姫様』とは全然違う姿だが、ここに居る4人には見られてもいい。
絶対の忠誠心を持つ隻腕の男。
裏切ることの出来ないメイド。
金さえ与えれば黙って動く駒。
そして俺は『昔馴染み』なのだから。
「俺の望みはまだ秘密、保留ってことにしといてくれるか?」
「なによもったいぶって。私とヤる時のプレイでも要求するわけ?ま、痛くなきゃなんだっていいわ」
金髪の言葉に1人の人影は笑みで返した。
その態度が気に食わなかったらしい金髪は、ふんっと鼻を鳴らして踵を返す。
3人の人影がその後ろを追い、新たな仲間に加わった赤髪の少年はその長い毛先を弄りながら追いかけた。
自分の記憶よりも長い髪の毛は、切る暇がないくらい忙しない日々を送っていた頃のもの。
「つまんなかった女が面白くなりやがった。もうてめぇの方がつまんねぇから、てめぇと遊ぶ気はねぇよ」
そんな失礼な事を口にして、誰も反応しないことに可笑しくなる。
魔法を使って聞こえないようにしているのだから、当然と言えば当然の結果。
だが、それを打ち破る能力を持たない雑魚しかいないことに呆れている。
本当に馬鹿ばかりで、つまんねぇヤツらばっかりだ!
首都の裏で生きていた情報屋のガルイム。
聖女と謳われる姫のことも、勇者と不思議な妹の話はもちろん知り尽くしていた。
そんな姫がある日突然尋ねてきた日のことは、ガルイムにとって転機と言えよう。
「初めましてガルイム、私は夢乃未来。こことは違う異世界から来たんだけど、どう?話聞く?」
そんな風に声をかけてきた女は、知らない名前を名乗り、噂とは明らかに違うお姫様本人。
面白そうだと思ってついて行き、勇者メイベルとその妹と出会った。
親という生き物は直ぐに消え去り、一緒に生き延びた仲間たちも数少なく、そんな仲間でさえいざとなれば売ってしまうような裏社会。
兄妹の絆の強さにガルイムは吐き気がした。
「壊してやりたいなぁ」
なんて、ずっと思っていた。
皆が姫に目を奪われる中、ちょっと優しく構い続ければ妹は簡単に靡いた。
メルフィがガルイムへの気持ちを持ち始めた辺りから、ガルイムは急激に冷めて面白くない。
だから、メルフィが大事に思っている姫と兄を奪ってやろうと考えた。
大事なものを奪われた時のこの女の顔が見てみたい。
「なぁ姫様、魔王を倒し終わったらアンタは本来の国に帰るのか?」
「いいえ?私前世では死んでるはずだから、シナリオを進めたとしても戻るなんてことはないと思うわ」
「ふーん」
「なぁに?貴方はずっとメリィといたじゃない」
「……メリィは、なんかちげぇ」
この女は自分が1番じゃないと気が済まない女である。
だからメルフィに気があるふりをして、メルフィを懐柔しながら見せつけてやればこうなることは全て想定済みだった。
メルフィから俺を奪えたと勘違いしたこの女は、簡単に体を許す。
自分のほうが策略に嵌められているなんて思いもしない馬鹿なのだ。
「ねぇ私のどこが好き?」
「言わなきゃダメか?」
「言ってよ…あの子より私の方がいい所」
自分で言ってて気づかない愚かさが面白い。
自分が1番だと言い張りながら、絶対にメルフィと自分を比べてしまう小物なところ。
面白い女は嫌いじゃない。
嘘か夢物語か知らないが、日本という国の話やこの世界が空想の産物なんだとか言う話も信じはしないが、それを信じきっている本人が面白いのだ。
「自分に信念があって、可愛い顔のくせに意外と勇ましいところ、かな」
顔が可愛いと褒めれば喜ぶのを知っている。
執念とも言える妄想を信じ込んでいる馬鹿なところを褒めれば、自惚れを強める浅はかさ。
見た目だけはメルフィと変わらないくらい可愛いくせに、メルフィを下げることで勝っていると思い込んでいる馬鹿なところ。
ミクを選んだ理由は、ただ面白いから、だった。
「あの時、咄嗟に転写の魔法を使ったけど成功して良かったぜ」
ガルイムは覚えている。
前回のこの世界の話を、出来事を。
今世へと引き継ぐことに成功していたのだ。
彼は性格に難はあるけれど、間違いなく勇者パーティの最高ランクの魔道士である。
最後の夜、真横で首飾りの暴走に発狂するミクを見て、瞬時に彼が行ったのは世界からの遮断。
毒であれ魔法であれ、自分だけを世界から切り離してなんの影響も受け付けない魔法を使った。
「なんなんだ…?あれはっ!」
そうして切り離した世界の中で、ガルイムは世界を覆い尽くすほどの魔法陣を目撃する。
それが魔王の魔力で『ループ』の魔法を孕んでいることに気づいて、すぐさま記憶の転写魔法を自分自身にかけたのだ。
そうして戻ってきた過去。
情報収集をしながら様子を伺えば、つまらなかったメルフィがなにやら魔王と共に行動をしているというではないか。
「会ったらなんて言おうかな、久しぶり?ハジメマシテ?どうしたらアイツを驚かせれるかな」
ガルイムはスキップするような足取りで、姫たちの後に続く。
彼にとって世界は自分が楽しむためのボードだ。
自分という駒を操りながら、周りの駒の動きを予測して操って、時々想像通りに行かないことが楽しい。
つまらなくて捨てたはずの玩具を、もう一度遊び直せることにガルイムは舌なめずりをしたのだった。
すいません!
ここで10日ほどおやすみします。
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