小さな怒り
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「皆さんお静かに。これよりメルフィ様にとても大事なお話をしていただきます。皆さん私語を慎んで、きちんと聞いてください」
そんなドラシェンさんの演説で始まった集会。
子どもたち数百人の前に立つと、さすがに緊張する。
会議と同じく種族によって体格差は激しく、年齢も子ども世代といえ私より大きい子はたくさんだ。
集められた子どもたちを見て、それでも親の影響は大きいのだと実感する。
中心には温厚な種族が集まり、外側に行くにつれて能力が強く、種族意識の強い者たちで別れていた。
「まずは皆さんこんにちわ」
「こんにちわ」 「…」
答える子たちと答えない子たちは、人間に対する意識の差だろうか。
外の1番端っこに居るのはフェンリルの子どもたち。
私のことを鋭い目で睨みつけて、フェリックスそっくりだと少しだけ可笑しくなる。
「皆さんがここに来て、そろそろ2ヶ月が経とうとしていますね。だから私は、皆さんに選択肢を与えようと思います」
小さな声がざわついた。
学園を作った4つ目の目的。
子どもたちに種族の縛りを意識的に無くすため。
親と同じ道を必ずしも通らずに、選択の自由を与えたいと思ったのだ。
「皆さんはこの学園の第1期生。年齢は違えど、みんな同じ1年生です。そこでクラスを作ります」
そして私はできるだけ簡潔に説明する。
武力を鍛えたい者は『武人クラス』
知識を高めたい者は『賢者クラス』
人間について知りたい者は『社会クラス』
そして、まだ幼く文字すら読めない子どもたちのための『小人クラス』
選択するまでの期間は1週間。
「いいですか皆さん、あなたたちは何でもできて、なんにでもなれる夢の卵。親のあとを追うもよし、夢を追うもよし、好きなことを好きなように追求してください。ここは、そのための学園です」
いつの間にかざわつきは収まっていた。
私に対して鋭い目を向けていた子どもたちも、戸惑う者や考えるような顔をしている者たちがいる。
正直、第1期生にあまり期待はしていない。
洗脳に近い常識があるのだから仕方ないと思うのだ。
「メルフィ様ありがとうございました。皆さん、各クラスの先生は既に決まっています。後ろに並んでいるのが皆さんの先生になる方々。聞きたいことがあればなんでも聞いてください。そして、自由なクラス選択を」
そんな感じでお開きになった集会。
ここで助かったのが温厚な種族の子たち。
目をキラキラとさせて、種族の垣根を越えて相談しているようだ。
種族意識の強い子たちは、私の言っている言葉に困惑しているようでほとんどが黙り込んでいる。
1人、フェリックスによく似た髪型の灰色の髪の少年だけがひたすらにこちらを睨みつけていた。
「ドラシェンさん、グルモフさん、それから先生方。あとはお願いします」
「お任せ下さい」
学校の制度については既に話が着いている。
ワータイガーやサキュバス、他にもいろいろな種族の協力的な魔族に先生になってもらった。
エルフやフェンリルも中にはいて、同じ種族だからと心まで同じ訳では無いと実感する。
そして講堂を後にして、私は帰ろうと廊下を歩いている時だった。
「待てよ!人間!…さま!」
呼ばれて振り向けば、先程こちらを鬼の形相で睨んでいた灰色の髪の少年だった。
その横には長い金色の髪をしたエルフの少女。
笑わないように表情を引き締めたけれど、小さいフェリックスとリーシャみたいで可愛い。
髪の色は逆だけれど。
「お、俺はコイツの友達として言わせてもらう!宝を返せ!人間!…さま」
「あ、あの、それは本当に、大切な、大切な宝物なんです。貴女が奪ったせいで、リーシャお姉ちゃんが、みんなに嫌われちゃって、私、その、……やだ!!」
リーシャお姉ちゃん。
この子とリーシャの関係は分からないけれど、悪い関係じゃないことは分かる。
やっぱりリーシャは一族の中でも弾かれてしまっているのか。
そう遠くない未来で、あの女が宝欲しさにエルフを皆殺しにする、なんて言っても誰も信じないだろう。
「ごめんね。これはどうしても必要だから返せない」
「奪ったくせに!!!偽善者ぶりやがって!何が学校だよ!何が選択だよ!ふざけんな!」
「君たち、お名前は?」
激昂する少年を無視して、私は流れを変える。
怒りという感情は、何かの代替品であることが多い。
友達のために怒る彼は素晴らしいけれど、その感情の正体はなんだろうか。
怒りは全てを隠してしまうことがあるから、話をしたいのならまずは落ち着いてもらわなくてはいけない。
「わた、しは、ルーナ」
「っ、っ、俺は、フェジット」
素直に答えるところは子どもらしくて可愛い。
フェジットは顔に怒りを滲ませながらも、それを飲み込めるだけの精神があるようだ。
将来が楽しみである。
「君たちにはそれぞれ事情があるように、私にも事情がある。リーシャには悪いと思っているけれど、これを私に渡すと決断したのは彼女。だから、これを返すことは出来ない」
私は静かにそう告げた。
ルーナは息を呑んで視線を彷徨わせ、言い返す言葉が見つからないらしい。
その様子を見てフェジットか再び声を上げる。
「人間のくせに!なんで暗黒の地にいるんだよ。さっさとそれ置いて出ていけよ!そしたら誰も苦しまないし、みんなも親と離れなくてすんだのに!」
この子はすごく優しい子なんだろうな、とそう思った。
突然家族から離されて不安で泣いていた子も多かったと思う。
未来を知っているからこんな強硬策に出ているけれど、本来ならこの子たちは親と幸せに暮らしていたはずだ。
…死ぬまで。
「それも事情があるんだよ。まだ幼い君たちには話せないような事情がね」
「人間の、くせに…」
「それでも君たちの親御さんより私は強い。私は私の目的の為に、全部を利用しようと決めたの。だから君たちに苦労をかけるけれど、弱い君たちが悪い」
自分で言っていても、なんて暴論なんだと思う。
まぁでも私は『魔女』なのだから仕方ない。
こんないい子たちが前世では誰にも認識されることもなく死んでいたと思うと、仄暗いものが私の中で揺らめき立つ。
それは私の中の魔女を呼び起こしたのか、漏れ出た殺気に気づいた目の前の2人が青ざめた。
「あぁごめんね。少し考え事をしちゃったの」
笑顔で誤魔化しても、2人の顔色は悪く目を合わせてくれなくなった。
それ以上怒鳴る気にもなれなかったらしい2人はオロオロとしていて、私もいたたまれなくなる。
「と、とりあえずこれは必要で、君たちは強くなるために学業に専念してね!お、応援してるから!」
と、なんとも情けない別れ方になってしまった。
あの2人にトラウマを植え付けてしまったような気がするけれど、謝ることしか出来ない。
ごめんね!




