疼き
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「な、なにこれ!?」
お風呂に上がって壁に反射する自分を見て、私は暗黒の地へ来て初めて自分の姿を見たことを思い出す。
鏡は元々好きじゃなく、自分の部屋には置かなかったことが発見の遅れに繋がった。
この大浴場の壁には高価な石を使っていて、私たちの姿が反射している。
そこに映る自分を見て驚愕したのだ。
「どうされたのですか?」
髪の長さは半年前より少し伸びただけ。
けれど顔が、胸が、足が、9歳とは思えない成長を遂げているのだ。
前世の記憶と照らし合わせて15歳くらいだろうか?
明らかに半年前と変わりすぎている。
「フェル!!私の見た目いつからこんなに!?」
よく考えてみれば違和感はあった。
ここで初めて目を覚ました時はフェルより少しだけ高い目線だったのが、今は頭1つ分ほど高い。
2歳しか変わらないシルディアとも目線1つ分ほど高いのだ。
ちなみに前世ではシルディアのほうが身長は高かったので、今現在私が高いのは絶対おかしい。
「へ!?えぇ、えと、この間の宴のあとからでふ!あとはあとは、メルフィ様が力を使う度にごわす!」
どう考えても黒霧が原因で間違いなさそうだ。
あの力を使う度に老化が進む?
老いれば魔力量も減っていくものだ。
もしも減っていくのなら考えものである。
1人で壁に張り付いて無駄な思考を巡らせていると、浴場の扉がノックされた。
「失礼致します。メルフィ様申し訳ありません。お客様が参られているのでお早めに支度をお済ませ下さい」
お客様?
扉の外から声をかけてきたのはケットシーのルルフ。
魔王が派遣してくれた人の中で無口で愛想はないけれど、仕事のできる猫耳メイド長である。
黒い髪の毛とそこから生える猫耳は立派で、いつか触らせて頂きたい。
「もしかして、魔王様?」
ルルフの声は落ち着いているが、急かすような言い方でなんとなく思いついたのが魔王だった。
そうじゃなきゃ少しくらい待たせるはず。
今の私の立場ならば、ほとんどの人を待たせることが出来てしまう。
「はい」
勘は当たっていたようだ。
魔王自らこっちのお城に出向いたの?
何か急ぎの要件が出来たのだろうか?
慌てて服を着て、髪の毛は半乾きだけど仕方ない。
シルディアのことはフェルに任せて、私は早々に浴場を出た。
すぐ側にルルフは控えていてくれて、行こうと私は彼女に呼びかける。
「メルフィ様、失礼します」
不意にルルフがそう言ってパチンと指を鳴らすと、びっくりするような風が巻き起こった。
何が起きたのか分からず唖然としていると、ペコリと頭を下げる。
「御髪が濡れていたので。驚かせてしまい申し訳ありません」
「あ、ありがとう」
自分の髪に触れてみれば確かに乾いている。
指先ひとつで水を弾き飛ばす風を起こせるなんて、それなりに努力していないと出来ない所業だ。
特に風の魔法は威力と位置の出力が難しい属性。
ルルフは魔王に推薦されただけあって、かなりの手練らしい。
「急ぎましょう」
私と魔王は協力関係であって、恋人なんて甘い関係じゃない。
だとしても周りにはそう思わせている。
突然訪問するなんて色々と準備が足りなくなるのに、どうしていきなり来たんだろうか。
お風呂上がりだから簡素な夜間着なのに。
「魔王様!お待たせして申し訳ないです」
「やぁメルフィ。いきなり訪ねた俺が悪いんだ、気にしないでくれ」
客室でソファに腰掛ける魔王は本を片手に微笑んだ。
そっと両手を広げられ、私はその胸に飛び込む。
視界の端でルルフが一礼して去っていったのを確認してから、体を離して魔王の横へと座り直した。
何度か演技しているとはいえ、今日の格好も相まって恥ずかしさが増している。
「ごほん、それで急にどうしたんですか?」
「怪我はなさそうだな。今日はまた随分と暴れたみたいだったから心配で見に来たんだ」
「今の私が負けるのって魔王とお兄ちゃんくらいだと思いますけど。心配なんかいりますか?」
正直、魔族四天王とその一族総出で襲われたら、さすがに危ういかもしれないけれど…。
四天王だけならなんとか勝てそうだ。
人間の方で負けそうなのはお兄ちゃんくらい。
今日は人間側の方で暴れたのだから、何も心配する必要は無かったと思う。
「俺からすれば人間など脆いものだ。いとも容易く命を落とすことを知っている。心配くらいさせてくれ」
そう言って魔王の手が私の髪へと伸びる。
ひと房掴んでクルクルと弄られた。
ルルフに乾かして貰ったとはいえ、お風呂上がりでなんだか緊張する。
「話は、そ、それだけですか?」
「……そうだな」
一瞬の思考の後、魔王はそう答えて黙り込んでしまった。
なんだろう、この沈黙。
帰るわけでもなく、何か話すわけでもなく、ただ横にいるだけ。
こちらから話題を振るべきか。
「そ、そういえば、私いつの間にこんなに成長してたんですか?」
先程お風呂場で見た光景。
もうすぐ10歳になるとはいえ、この成長ぶりはどう見てもおかしいだろう。
半年で数年分成長なんかするわけないんだから、絶対に気づいていたはずだ。
「そうか。言われてみればそうだな」
「?」
「獣人や亜人の中には急激に成長をする種族がいるから、あまり気にしていなかった」
あぁ、なるほど。
確かにそういう成長の仕方をする種族がいるというのは聞いたことがあった。
人間は勿論違う。
「さっきシルディアに言われて初めて確認して、自分ですごく驚きました」
わしゃわしゃと髪の毛を撫でられた。
くっく、と声を殺すように魔王は笑って、イケメンの破壊力が直撃する。
「すまないな。俺の知っているメルフィは元々20歳を超えていたから、むしろまだ幼いくらいだ」
男の人なのにとても綺麗な手をしている。
色白で細くて、でも少しゴツイ。
そんな形のいい手が存分に私の頭を堪能すると、魔王は立ち上がった。
「それじゃあ顔も見れたことだし、今日はこの辺で帰るとする。すまないな、急に訪ねて」
「いえ、大丈夫です。あ、いや、お風呂上がりはできるだけやめてください」
魔王は再び苦笑して、私の頭を軽く撫でる。
今度は直ぐに離れていった。
「すまない、今度から気をつける。それじゃあおやすみメルフィ」
「はい、おやすみなさい…」
魔王、と呼びかけようとして喉が詰まった。
それに気づかない魔王は窓を開ける。
そのまま1度微笑んで、魔王の形が沢山の蝙蝠に崩れて散っていった。
ギュッと、心が何かを訴えかけてくる。
「なんなの……」
魔王という役名を呼びたくなかった。
その理由も、この胸の疼きの正体も、分かるようで分からない…。
魔王が飛び去った窓から空を見上げれば、美しい満月がこちらを見下ろしている。
そっと窓を閉めて、自室へと戻った。
「…」
なんとなく今夜は月明かりを見ていたくて、自室のカーテンを開ける。
そうしてベッドに横になって、窓から見える満月を眺めながら眠りについたのだった。




