お風呂会
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お城を建設する時、使い勝手の良さや小細工のしやすさなどを重視して建てた。
そんな中、唯一私が将来を見据えて個人的にこだわったのがこの大浴場である。
「す、すごい」
お城の最上階には、私と専属使用人たちのための寝室を作った。
私の寝室の真下には執務室を大きめに作って、私の魔力を流せば直通の道が現れる仕掛けまで作っている。
そして寝室の一角に小さな浴室を作り、朝風呂が出来るようになど、ちょっと贅沢な作りをしていた。
だからこそ、この大浴場は未使用だったのだけど。
「実はね、私もここ使うの初めてなの。ようやく楽しめると思うと作った甲斐が有るというものね」
「あ、あの、どしてあたしまで、一緒なんどすか」
シルディアやフェルと一緒に入ろうと思って作った。
だからようやく解禁だ!
前世ではそもそもお風呂にはいる習慣がない。
けれど姫様がある日温泉に行きたいと言い出して連れていかれた温泉街で、お湯に浸かる偉大さを知った。
それだけはあの女に感謝したい。
「まずはシルディアの身体を綺麗にしましょう」
「いや!?あの、そんな、もったいないです?!ひゃあ!?」
「へい!おまちッ」
「フェル、いい子ね」
石鹸を手に、綺麗な姿を取り戻そうと意気込んだ私。
恥ずかしかったのか顔を真っ赤にしながら逃げようとしたシルディアを、フェルは後ろから羽交い締めにする。
主人の意志を素早く汲み取り行動に移す、うんうん、フェルはいい従者になるわ!
あとで褒めまくろう。
「ひゃわぁぁあ」
「髪のパサつきはそのうち治ると思うわ。お風呂から上がったら長さも整えましょうね」
わしゃわしゃと絡まりまくった髪の毛を洗いながら、初めて出会った頃も傷んでいたことを思い出す。
それでも実は真っ直ぐでとても綺麗な桃色だと私は知っているのだ。
あの女がかなり羨ましがっていたほどに。
手入れの行き届いた輝く金髪だって十分美しかったと素直に賞賛するけれど、強欲なあの女はそれでは満足しなかったようだ。
「う、あぅ…」
ふと、横で石鹸を握ったままチラチラとこちらを見るフェルと目が合った。
弾かれたように顔を逸らして、ぬるま湯を汲んだ桶を頭から被るフェルは可愛い。
も〜、仕方ないんだからぁ。
「フェルもシルディアの後に洗ってあげるね」
「え、えぇ?そんなぁ、め、め、滅相もねぇです」
口では謙遜しながらも、嬉しそうに揺れる耳と尻尾は隠せない。
今、服も着てないから尚更である。
フェルの身体も随分と綺麗になった。
靴を履かなかった足にはまだ傷跡はあるけれど、それも前よりだいぶ薄くなっているし、髪の質も柔らかい。
「よし、髪と背中は洗ったけれどシルディア、あとは自分で洗える?」
「はい、大丈夫です。ありがとうございます」
「うん。次はフェルね」
「は、はい!」
わしゃわしゃと再び泡立て始める。
シルディアは灰色の泡だったことに比べ、フェルは白い泡だ。
それでもフェルも初めて洗った時は同じように灰色だったなぁ、と感慨深くなる。
実はこうしてフェルとお風呂に入るのは何度もあって、洗ってあげるのはいつものこと。
横目でシルディアを見ると、汚れが取れた自分の髪を触って嗅いで、驚いているようだ。
「はい!フェルも終わり」
「ありがて…、とう、ございます…る」
言葉矯正中なので、努力を認めましょう。
せめて最後の"る"が無かったら褒めてあげた。
そんなこんなで私も自分を洗って、3人で湯船に浸かる。
フェルも私も熱いのが苦手なので、温めのお湯が張ってあった。
人間があまり好きではないだろうに、魔王から派遣された魔族たちはとてもいい人ばかりである。
「あの、改めてありがとうございます。こんなに良くしていただけるとは思っていませんでした」
「あんまり気にしないで、私は私のやりたいことをやっただけだから。えっと…」
なんて言ったら不自然じゃないんだろう?
過去から戻ってきて過去で友達だったから、友達を助けることは当たり前だもの!なんて言えない。
シルディアは考えすぎる癖があるから、あまり気負わないで欲しいのだけど…。
「私、まだお名前を知らないです。教えて頂いてもいいですか?」
「あ、そうだよね、ごめんね。私はメルフィ、こっちは私の召使いをしてくれてるフェル。ここは魔王が統括する暗黒の地の一角で、ワータイガーの土地なの」
王国の外れから、魔族の土地に連れてこられたなんてきっと恐ろしいに違いない。
それでも嘘を吐くつもりもなかったので、シルディアの顔色が曇ることを覚悟して告げた。
だけど予想とは違い、シルディアの目が輝き出す。
「暗黒の地、てことは、もしかしてフェルちゃんはフェンリルなのですか?」
「ふぁい!」
「あ、あの、金色の狼さんはお知り合いにいますか?」
期待を込めた眼差しを向けられてフェルが動揺する。
シルディアがどこでフェンリルを知ったのか。
前世でもそんなことは言っていなかったから、これには私も驚きを隠せない。
そしてさらに言うと、フェンリルの一族は半分くらい金色と灰色の色合いに分かれると聞いたことがある。
「す、すす、すまないですけど、金色いっぱいいっぱいでいっぱいですす」
「そう、ですか…。いえ、大丈夫です」
明らかに落胆するシルディア。
その様子に慌てるフェルが私に助けを求めている。
「シルディアは、フェンリルのお知り合いがいるの?」
「いえ。ただ、金色の狼さんに希望を貰ったと言っていた人に会ったことがあって…なんとなく、です」
あんな劣悪な場所にいてそんな話を聞かされたのだとしたら、シルディアにとってその話はまさしく希望だったのかもしれない。
まぁ私としては魔族に偏見がなくて、怯えずに話し合いが出来そうなので、その人に感謝だ。
「とりあえず自己紹介はこれで終わり、かな。えっと、別にシルディアを縛るつもりはないのだけど、しばらくはフェルと同じで私の使用人をしてもらおうかな」
「しばらく…」
「うん。やりたいことが見つかるまで、かな?」
ようやく地獄から抜け出せたのだ。
とはいえ常識を身につけるまでは私のそばにいてもらって、あとはシルディアの好きにしたらいい。
勇者のパーティに参加する必要だってないと思うし、もしも参加するとなったらそれはそれで運命なのかも知れないな。
「何から、何まで本当にありがとうございます。メルフィ様には感謝しかありません。このご恩は一生をかけてお返し致します」
「私がしたくてしたことだからそんなに気負わないで。これで私に縛られたらあそこと変わらないじゃない?」
「扱いが違いすぎますよ。あんな所とここを一緒にしないで下さい」
6歳の少女にしては言葉遣いが硬い。
それもあの環境のせいだと思うと心が痛んだ。
そんなシルディアが自由になってくれたらな、と心から思っている。
「ここは魔族の領地なんですよね?メルフィ様は何年前からここにいるんですか?」
「半年と少し前だよ。私も自分の村を出たばかりなの」
自分の意思で出た訳ではないけれど。
半年くらいしか経っていないのに、随分と沢山のことがあったなぁ。
「大人っぽくて落ち着いていたので、てっきり何年もいるのかと…」
「大人っぽいなんて初めて言われた。私、シルディアとそんなに変わらないのに」
「え」
「え?」
シルディアに今までで1番驚いた顔をされた。
そのあとは愛想笑いで誤魔化され、少し引っ掛かりを覚える。
そうしてお風呂上がりに私は、自分に起きた大きな異変に気づくのだった。




