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救われた宝石と歪んだ宝石

ブックマーク&感想&評価ありがとうございます!

とても励みになっておりますので、これからも頑張らせていただきます(ง •̀ω•́)ง

剣闘士の1人を癒して、シルディアの居場所を聞いた。

地下へと続く入口があって、長くて暗いその階段を降りていく。

血生臭く、生き物の気配はせず、牢屋のような雰囲気の漂うその地下にシルディアはいた。


「っ…」


あまりにも酷いその光景に、複雑な感情が沸き立つ。

鉄格子の嵌められた部屋の隅にシルディアは縮こまって座っていて、闘技場とは別の地獄がそこには広がっていたのだ。

血溜まり。

幼い少女のくるぶしほどの高さまで、どす黒く染まった血液の水溜まりが出来ている。

部屋の中に血溜まりがあって、その中で彼女は足もお尻もその中へ浸していた。


「シルディア」


シルディアと初めて会った時、彼女は14歳。

ここにいる彼女は6歳の少女。

記憶の中のシルディアより幼いのは当たり前なのだが、痩せこけて汚れて髪もボサボサで酷い有様だった。

そんな悲惨な状況に思わず名前を呼ぶと、怒られると思ったのだろうか、シルディアは血溜まりに手を突っ込んで頭を血に濡らしながらひれ伏す。


「…」


ギリっと奥歯を噛み締めた。

こんなことがあってはならないと、そう大声で叫んでやりたい。

こんな幼気な少女が、こんな仕打ちを強要されることを国が認めているなんてありえない。

鉄格子に触れて、黒霧で消し炭にしてやる。


「シルディア、貴女はもうこんなところに居なくていい。私と一緒に来て」


そっと手を差し出す。

本来は可愛らしい桃色の髪の毛が、今はくすんで灰色にしか見えない。

そんな髪の隙間から、蜂蜜色の瞳が戸惑うように揺れている。

親以外に温かさを知らない彼女からすれば、私に対して警戒心を抱くのは仕方がない。

今だけは無理やり攫ってあげた方が彼女のためになるだろうか?


「…たす、けて、くれるんですか…?」


おずおずと指先だけ乗せられたその手は、不健康にやせ細っている。

まるで棒切れのようだ。

そんな手でも触れた指先は温かくて、私はしっかりとシルディアの手を握る。

間に合ったなんて言えない。

それでも前世より早く助けることが出来た。


「もう大丈夫。貴女は自由になれる」


シルディアを抱きしめて、取った手を繋いで地下を後にする。

フェルにこんな所を見せたくなくて、ことが終わるまでは入口付近に待機させていた。

魔族がここを襲ったのだと、周りの住人に噂を立ててもらう為もある。

来た時と同様に体を霧に変化させた。

ディガーとフェルとシルディアを連れて、私は私の城へ帰る。


「あぁ、忘れちゃうところだった」


体が消える直前に指先を弾いて指を鳴らした。

観客も主催者も眠りこける闘技場だけが残されている。

起きている者のいなくなったその場所は、普段では有り得ない静けさが満ちていた。


サラサラサラサラ…。


砂場に砂が落ちるような音が夜闇に響く。

異変に気づいた誰かがゆっくりと闘技場に近づいた。

そして中を覗こうと壁に触れたその瞬間。

石造りの巨大な建築物が砂塵となって跡形もなく消え去り、見ていた人々は怖々と逃げ出していく。

黄色と黒が混じった砂塵の中には、眠ったままの人々が無傷で埋もれていた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「なんですって!?」


バン!と大きな音を立てて机に手をつき立ち上がったのは、エミキュール・シュミールだ。

普段、可憐なお姫様を装っているエミキュールの突然の大声に報告に来た兵士は驚きを隠せない。

その表情を見て我に返るエミキュールは、扇を取りだして顔を隠して笑って誤魔化す。


「あ、申し訳ありませんわ。国民に酷いことがあったと、未然に防げなかったことが嘆かれて、思わず大きな声を出してしまいましたわ」


「い、いいえ!私もミク姫様にお心を苦しめるような報告をしてしまい申し訳ありません」


「貴方はご自分の責務を果たしただけです、お気になさらないで。お父様たちとお話をするから席を外してくれますか?」


そんな風に兵士を退出させると、エミキュールは机に広げていた紙を握りしめて部屋へとばらまいた。

怒鳴り声をあげたいけれど、外で見張りをしてくれている兵士に聞かれてしまう。

それはイメージを崩すことになるから必死にこらえて物に当たるしかない。

自分のための執務室は来客用でもあるので、これ以上荒らすのは片付けが面倒だ。

怒りに沸騰する頭ながらも、理性的にそう考えて自室へと戻る。


「なんっなの、なんなの、なんなんマジで!」


姫らしくない言葉遣いを外に聞こえないくらいの音量で口に出し、枕を掴んで壁へと打ち付ける。

王国の小遣い稼ぎ、違法闘技場が魔族に襲撃されて跡形もなく消し去られたらしい。

同じ規模の物を造ろうとすると、重機などがないこの世界では数年かかる。

けれどそんなことよりもなによりエミキュールが許せなかったのは、シルディアの存在だ。


「きっとまたアイツじゃん!シルディアのことも知ってて、あたしのことも知ってた。つーか、なんであたしを知ってんの?」


エミキュール・シュミール姫殿下改め、夢野未来(ゆめのみく)は日本という国で命を落としてこの世界に転生した17歳の高校生だった。

彼女は初め『姫』に生まれたことを内心とても喜んでいたが、聞き覚えのある国名や地名でここが生前大好きだった『青薔薇の聖女』の世界なのだと知って落胆する。

何故なら『青薔薇の聖女』の主人公はメルフィとメイベルなのだ。

エミキュール・シュミール姫殿下は、2人の話に出てくる案内人という名のモブである。


「モブってことは行動自由だと思って、ラッキーって思ったのに!そもそもモブのはずのあたしを警戒するっておかしくない?」


ギリっと爪を噛む。

姫としてあるまじき行為だが、これだけは前世から止められない癖だ。

イライラすると噛んでしまう。

左の親指だけに留めているのは、姫としての矜恃。


「最初はあたしと同じ転生者かと思ってたけど、『青薔薇の聖女』のことは知らなかったし」


窓から見える空を睨みつけて、彼女は考える。

あたしがこういう性格だと知っていて、でも『青薔薇の聖女』の内容を知っているわけじゃない。

国王も王妃も原作どおりで、大きなイベントも大差なかった。

原作と違う行動を取っているのは、あの女と魔王だけである。


「魔王、か…」


そう呟いて、納得したように夢野未来は笑った。


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