もういちどあのころに
本日初回なので2話更新致します。
こちらは2話目です、お気をつけください!
「少し、話をしようか」
「はな、し…?聞いて、どうなるんですか?もう、お兄ちゃんはいないのに」
「お前の本当の力のことについて話そう」
「わたしのちから…?」
魔王の手が私の首元へ伸びる。
そこには姫様に「お揃いよ」と貰ったネックレスがあった。
当時は感激したけれど、今となっては……。
「この首飾りは片方が魔力を吸い、片方がその魔力を蓄積する対になった首飾りだ」
この城に来て直ぐに姫様から貰ったネックレス。
華美ではなかったが、私にとってそれはとても大事なものになった。
あぁ、そういうこと。
妙に納得がいって、嘲笑するような笑いが零れる。
まるで、奴隷につける首輪みたい。
「あの娘は俺を殺すとき聖女を名乗っていたから、おかしいと思っていたのだ」
「あの人はどこまでも、どこまでも私たち兄妹を利用していたのですね」
「そうだな、勇者の妹がただの回復役なわけが無い。メルフィ、お前こそが真の聖女だった」
そうなんだ。
でも、それがなんだ。
今となってはどうでもいいことだ。
私が聖女だったとして、私が聖女じゃなくても魔王は倒された。
あぁでも、目の前にいるから倒せてないのか。
「お前はの真実を知って世界を呪った。力を吸われ続けてなお、怨嗟によって力を増幅させて世界を滅ぼそうとしたな」
「消えてしまえと、そう思いました」
「今頃増えすぎたお前の魔力を吸って、あの女は苦しんでいることだろう」
へぇ。
少しだけざまぁみろって思う。
「なぁメルフィ。世界にはシナリオがあって、魔王は勇者に倒されて世界が平和になる、と言ったら信じるか?」
魔王の言っている意味がわからず首を傾げる。
シナリオ?
この世界がお芝居だとでも言いたいの?
「俺は魔王になるために生まれて、勇者に殺されるために生まれた。俺は勇者がいなくても、人間の国を滅ぼす気などなかったのに、だ。」
漆黒の長い髪に、暗がりでも光る紅い瞳。
唇から僅かに零れる八重歯。
魔王として目の前に現れた時は、なんて美しくて恐ろしいのだろうと思った。
だけど今は、困った顔で私の頭を撫で続ける変な人。
「俺は殺されるために生まれてきた。魔王になんてなりたくなかった。だから、魔王として勇者に打ち倒されれば、役目から解放されると思った…」
そこで一度、魔王は口を噤んだ。
そう言えばさっき、何か謝られた気がする。
その事と、魔王が死ななかったことは関係があるのかもしれない。
「お前の兄に殺される時、魔力の欠片のようなものをお前に忍ばせた。お前が歳をとって死ぬ頃には、俺が1人で活動できるくらいの魔力をもらおうと思ってな…」
「つまり、貴方は私の魔力を喰って、生き永らえようとしたのですね」
「そうなる。だ、だかな!?少しだけ寿命が縮まるかもしれないが、殺す気なんてこれっぽっちもなく!復活したとして、再び魔王になろうとは思っていなかった!!」
信じてくれ!と懇願される。
ふと、やけに静か過ぎることが気になった。
目の前でオロオロとしている魔王から目を逸らして、周りを見渡すと全てが停止している。
私を中心に展開されている魔法陣も、取り囲む黒い靄のようなものも、星空も風も全てが止まっていた。
「メルフィ、俺の望みは静かに生きることだ。お前が死んだ後、復活して初めて自由を手に入れて、世界を見て回ろうと思っていた」
「そうですか」
「だから、今お前に世界を壊されると、俺の望みが叶わなくなる…」
「そうですね」
「聖女の力を堕として世界をも滅ぼせるその力。1つ提案があるのだが」
世界を滅ぼそうというこんな時に、呑気に自分の夢を語り出してどうしたのかと思えば前置きだったらしい。
私の中の感情が消えたことと、世界が止まったことと、それらが関係あるのだろうか?
「メルフィのその力を使って、世界を巻き戻してみないか?」
「巻き、戻し?」
「お前の兄が生きている頃まで世界を戻す。その後起きることは恐らく変わらないだろう…。だが知っている今なら兄を救う方法も見つかるのではないか?」
魔王と話を始めて、ようやく私の心に少しだけ希望が戻った。
お兄ちゃんを取り戻せる?
アイツらに復讐する機会がもらえる?
「どう、したらいい?」
目の前に立つ魔王に縋るように腕を掴んだ。
紅の瞳と目が合って、その目が細められる。
「条件がある」
「出来ることならば…」
「簡単だ。俺とお前には記憶が残るようにするから、再び俺を殺しに来た時に、俺をもう一度受け入れろ」
「貴方が生き残ることを黙ってて、復活するために少しずつ魔力を渡し続ければいいんですね?」
魔王が静かに頷いた。
お兄ちゃんを取り戻せるのなら、それくらい造作もない。
例え魔王が嘘をついていて、復活したあとに国を滅ぼそうとしても私には関係ないことだ。
こんな国は滅べばいい。
「よし、交渉は成立だ。契約だからな!」
「はい」
魔王が目を閉じると体の前に右手を広げる。
聞き取れないほど小さな声で詠唱を唱えているようだ。
赤い魔法陣が導火線のように手のひらに広がって、その魔法の繊細さに感嘆する。
複雑で細やかな手のひらサイズの魔法陣。
最後に外周に円が描かれると、魔王が瞼をあげた。
「中心へメルフィの魔力を流してくれ。願うことは過去に戻ることその1点だ。今だけはアイツらへの恨みつらみも何もかもを忘れなさい」
諭すような口調に、なんとも言えない反抗心が芽生えた。
一瞬だけ消えたそれらはふつふつと再び燃え始めていて、それを忘れろとは酷いことを言う。
だけどそれもお兄ちゃんを取り戻すため。
「わかりました」
お兄ちゃん、お兄ちゃんごめんね。
絶対絶対取り戻すから。
今度は殺させたりなんかしない。
忘れたりなんかしないから。
指先に魔力を組み上げて、差し出されるその手のひらに向ける。
「お兄ちゃんを、救ける」
辺りが白く包まれて、ゆっくりと温かく溶けていく。




