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空想童話短編集  作者: 桜鼠
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星空の女王様

昔々、星に愛された女の子がいました。

女の子が産まれたのは、真っ黒な空が真っ白になるほど星が降った日。

女の子はエステル・アルバニアと名付けられました。

白い星。まさに女の子にぴったりな名前です。

そんな産まれたばかりのエステルに、星が一つ、降ってきました。

迷子になった星は、エステルの中に溶けていきました。

周りの人は皆、星の加護が宿った子だと大喜び。

エステルの誕生を祝うお祭りが開催されました。

エステルは元気に育ちました。

しかし、エステルには他の子ども達と違う特徴がありました。

それは誰よりも夜を好む事。

まるで、明るすぎる太陽を嫌うように。

夜になるとエステルは、必ず星を眺めます。

時々楽しそうに笑う姿は、まるで星と会話をしているようでした。



エステルは本当に、星と会話をしていたのです。

それがわかったのは、エステルが八つの頃。

エステルの住む村で日照りが続いた時でした。

悲しむ村の人々を見たエステルは夜、星に相談しました。

雨が降ればみんなが助かるのに、と。

次の日、雨が降りました。

長く続いた日照りが終わり、枯れそうだった作物も元気を取り戻していきました。

村人たちは何も知らずに大喜び。

しかしエステルの両親は違いました。

願いを叶える星の力を危険なものだと考え、無闇に使わないようエステルに言いました。

エステルは両親の言いつけを守り、本当に必要な時だけ星に願いました。



しかしある日、村人の1人が聞いてしまったのです。

エステルが星に願っているところを。

そしてその願ったことが、翌日には実現していたことを。

その村人は村長に報告しました。

エステルには願いを叶える力があると。

その事は瞬く間に村中に広まりました。

願いを叶えてもらおうと、村人は我先にとエステルの家に押し掛けました。

当然、一家はそれを拒否します。


「今までエステルは、村のために願いを星に捧げてきた。それを私利私欲のために使おうなどと馬鹿げている。」


そう言った父親は村人に襲撃され、怪我をしてしまいました。

その時が夜であったなら、エステル星に願って父親の傷を治したでしょう。

ところが時刻は正午過ぎ。

為す術なく父親は亡くなってしまいました。

母親も村人達に人質に取られ、エステルには村人に従うと言う選択肢しか残されていませんでした。

それはエステルが15になったばかりの頃の出来事でした。



その日からエステルの日常は変わり果てました。

毎夜星に、村人の願いを捧げる事に。

星々はエステルを気にかけます。

しかし母親を人質に取られているため、村人には逆らえません。

エステルは星に心配はいらない、むしろお願いが毎晩になって申し訳ないと謝ります。

星々は何も言えなくなりました。

そんな日から数年が経った頃、エステルはやつれていました。

母親とは一度も会えず、星に願おうにも自分の願いを叶える事は村人に禁止されていました。

それでも尚エステルは、村人の願いを星に捧げ続けます。

いつか母親に会える事を信じて。



ある日、いつものように星に願いを捧げていた日。

エステルは偶然村人の会話を聞いてしまいました。


「可哀想だよな。母親はとっくに死んでるってのによ」


その一言で全て理解しました。

母親も星も自分も、ただ利用されていただけなのだと。

エステルは咄嗟に星に願ってしまいました。













こんな村、滅んでしまえ


















次の瞬間、エステルが目にしたのは、とてもこの世とは思えない光景。

星が大地に降り注ぎ、地面は抉れ、人は逃げ惑い、家屋は燃えています。

まさに星々の怒り。

怖くなったエステルは逃げ出しました。

途中村人に助けを求められても、構わずに逃げました。

森に入っても足を止める事はありませんでした。

走って走って、転びそうになっても走り続けました。

森を抜けた先は断崖絶壁。

下は、一面の海。

星空を鏡のように映しています。

エステルはしばしその光景に見惚れ


「もう疲れた」


たった一言だけ呟いて、星空の海に消えていきました。

星がたくさん降る夜でした。





その日以降、星空からは楽しそうな声が聴こえてくるようになりました。

人々は、星空には女王様がいるのだろうと結論付けます。

そして時々、自分の願いを口にします。

叶えばいいな、そんな気持ちで祈るのです。

エステルは気紛れに、彼らの願いを叶えました。

中でも、誰かのための願い事には真摯に耳を傾けました。

願いを聞き遂げ、幸運あれと星を降らせます。

そうして、エステルは星空から人を見守り続ける存在となったのです。





おしまい。


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