イレギュラーすぎる事態
変なところで律義なテツヤは、次の日、真面目に五階のポストへ向かった。ただし、「なんで俺がこんなこと」「お試しなのに」「ああめんどくせえ」などとぶつぶつつぶやきながら。だからそれこそ五階ポストの存在を認識するまで、下ばかり向いて、ポストに近づいてくる人影に気がついていなかった。
――もっとも、ほんとうは気がつくはずがなかったのだが――
テツヤの身体に、何かがぶつかった。それはテツヤよりずっと小さく、重みもあまり感じなかったが、ぶつかった、と認知するにはじゅうぶんなものだった。
「わ」
ぶつかったほうからも、「ひゃ」と小さな声が出た。何かがすこし、こぼれ落ちる。テツヤは慌てて、それを拾った。
「あぁごめん、大丈夫?」
相手がとても可愛らしい声で「ん、大丈夫」というので、テツヤは安心する。
「はい、これ、封筒――」
拾って、手渡そうとしたものは、封筒だった。しかも、ここ数日で、だいぶ見慣れた茶封筒――――
「封筒!? これ……君、」
テツヤはそこで初めて、相手の姿をはっきりととらえた。今時分なかなか見ない、着物を着た少女だった。だがその手の中には、
「ウワアいっぱいある!!」
無数の茶封筒が抱えられていた。
「…………!!」
少女はあわてて散った封筒を集める。
テツヤはうろたえながら、しかし、少女をまっすぐ見た。
「まさか……君が手紙の送り主か! なんでこんなことしてるんだ?」
そこまで聞いて、テツヤはハッと思いつく。
「じゃあ、俺の探しものってなんだ? 俺は何を見つけなきゃいけないんだ?」
少女もうろたえていた。自分の身体をあちこち撫でて、混乱しているようだった。
「……見つけるのは、そのひとだから……!!」
ようやく、少女はそれだけ絞り出すと、走って去って行った。あとには、大量の封筒が残された。
「なんだ……!?」
テツヤはただ呆然と立ち尽くすのだった。
夜、テツヤが部屋を出るより早く、ソウイチとヤヨイとミナとルミが、テツヤの部屋にどやどやとやってきた。四人とも、悩んでいるような困っているような、神妙な顔をしていた。テツヤは訳もわからないまま、なんとなくその輪の中に加わった。四人が四人とも自分の座布団を持参してきていたのだ、「帰れ帰れ」とは言いだしにくい雰囲気であった。
「……今日の総会は緊急で四階に集まってもらった」
「なんで俺の部屋なんだ」
ヤヨイはテツヤが拾い集めた封筒を持ち上げながらため息をつく。
「まさかレイを見るなんてね。イレギュラーにもほどがあるねェ」
「レイ……? あの子はレイっていうのか?」
「どうしておにーちゃんには見えたの?」
心底不思議そうな顔をしたミナに、テツヤは「ええっ」と叫んだ。
「普通見えないの!? やっぱり出るんじゃないかここ!」
「すこし黙れ四階役員。……お前が「出るのか」と聞いたのは幽霊だったろうが。だから私は「そんなもん出ない」と言ったんだ」
ソウイチがたしなめる。
でも幽霊じゃなかったなら一体……? テツヤはまたわからなくなった。
「レイは幽霊とはちょいと違うんだよねェ」
「だって役員さんだもんね」
ねー、と、ルミもうなずく。
みんなあの少女――レイの存在を、知っているのだ。
「役員!? そんな得体のしれない子が!? 何階の!?」
「〇階だ」




