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シャイすぎる引きこもり

 ソウイチのスマホが鳴った。

「……『ご無沙汰してます』か」

「目の前にいるのになんでしゃべらないんだ!?」

「気にするな、五階役員はシャイでな」

「シャイって」

LINE着信音が次々と鳴る。ソウイチはいちいちスマホをのぞきこんで確認した。

「ええと、『四階のひとですね?』――」

「通訳!? なにそれ通訳!? ……ああ、うん、四階ですよろしく……」

 テツヤは半ばあきらめて会話を始めた。

「――『手紙、読みましたか』――」

「手紙ってあの? いや、中身だけは、何が書いてあるか聞いたけど」

「――『探しものは、なんですか』――」

 気持ち悪いほどシーンとした空気が流れた。

 あたりをうろちょろしていた少女は、笑顔で、ゆっくりとそこから消えた。それには誰も気がつかなかった。

 だからテツヤは、頭を抱えながら、会話を続けた。

「……五階がそういうひとだってのは昨日イヤってほどわかったけどさあ。なんで手紙の中身まで知ってんだ……」

「だから言ったろ。新しい住民が来るときには同じことが起こるって」

「あたしらも、もらったんだよ。同じ手紙をね」

「まさか五階が送ったんではないんですか」

「違う違う。その証拠にアキラももらってんだよ?」

「え」

 アハハと笑いながらヤヨイは言った。

「そして見つけたのさ。探しものをねェ」

「なんですか、探しものって……」

 ソウイチはテツヤの持ち込んだ手紙をひとつひとつ開封していた。

「そりゃひとそれぞれだろう」

「それにしたって同じ内容の手紙ばかりこんなにたくさん送らなくても……!」

「どうしても見つけてほしいのさ。だからしつこく手紙を送る」

「見つけてほしいって……誰が、何を?」

「誰でもない。自分の探しものは自分で探すしかないだろう? なくしたもの、なくしそうなもの……このマンションの住民はみんなそうだ」

 意味がわからなかった。少なくともテツヤは、なくしそうなものはなかったと思うし、仮になくしたものとやらがあったとしても、しゃにむに見つけなくてはと思ったことはなかった。それをどうしても見つけてほしいというのはどういうことだろう。自分の知らない、なにかなくしたものがあるのだろうか。それを知っている誰かが、手紙を出し続けているのか。テツヤの背筋が寒くなる。

「あたしたち自治会役員はね、仲介をしてるのさ」

「なくしものを……探す、仲介ですか?」

「ちょっと違うね。なくした探しものを見つけるための仲介さ」

「昨日、二階の五号室の話、聞いてたろう?」

「ああゴミ放置のひとと七時間居座ったオバチャン……」

あれもそうなんですか、とテツヤが聞くと、ヤヨイはうん、とうなずいた。

「三号室のオバチャンは、越してきたころずいぶんイライラとしててねェ。ポストは毎日オバチャンの投書で満杯だったよ。それこそあの手紙の入る余地がないくらいにね」

「……でもいまは……?」

 投書はないはずだ、自分あての手紙があれだけ来ているのだから。

「二階役員がうまいこと誘導したんだ、そんなに誰かと話したけりゃ直接いろいろ話せとな」

「でもその結果住民に出てかれてないですか?」

五号室の人間は三畳一間の部屋を紹介されて出て行った。それは誰にも得にならないだろうに――

「出てってない住民もいる。そういうことだ」

「いいんですかそれで」

「ここはね、めったに出てかないのさ、住民が。よほど居心地がいいんだろうねェ。それか……見つけた何かを、逃がしたくないのかもねェ」

「よくわかりませんが。でも、それなら誰が送ったものなんですか、この手紙は」

 空気が冷えた。まただ。核心に迫ろうとすると、彼らはいつも黙る。

 冷えた空気に、ヤヨイがメスを入れた。

「とりあえず、今日も手紙は届いた。明日はきっと五階だろ?」

「だろうな」

「三階の子たちは来ないんじゃないかね、今日は。さっき部屋に寄ったら宿題にヒーヒー言ってたからね」

「そうか……なら、今日の総会はここまでだな」

「え!?」

 ソウイチが解散を告げた瞬間、LINE着信音が鳴り響いた。のぞきこんでから、ふいっと部屋の中を見渡して、ソウイチはテツヤの肩をたたいた。

「四階役員。明日は五階に寄ってから総会に来てくれ」

「は?」

「五階は明日欠席だそうだ。お前が代わりにポストから手紙を取ってこい、たぶんあふれる」

「五階っ!」

 テツヤは慌ててアキラの姿を探したが、いつの間に帰ったのか、その姿はすでになかった。

「……もういない!?」

「フットワークが軽いんだよねえアキラは」

「それでなんで引きこもりなんだ……」

「もともといじめられっ子から引きこもりになったらしい。引っ越してきて……あいつは若干の要領の良さを見つけたんだ」

「もうちょっとなんだよね。見つけてしまってから先のことが」

「……先のこと……」

 まだわからないことばかりだった。見つけるだけでは足りないのだろうか。だとすると、それは【モノ】ではないのかもしれなかった。でも、じゃあ、どうやって見つけたらいい? テツヤは首をひねったまま、ソウイチの部屋を出た。

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