騒がしすぎる自治会役員たち
翌日は朝から雨だった。
ソウイチは部屋でひとり、窓の向こうを見ていた。
「さすが平井さんだ。天気予報がよく当たる。なァ」
同意を求めたその言葉は、部屋の隅にいた人物に向けられていた。テツヤが部屋を探しにソウイチの店へ来た日、店の中にいた少女だった。
少女はにっこり笑ってうなずくと、部屋の中をうろうろと楽しそうに歩いていた。
そのときだった。ソウイチの部屋のインターホンが、ピンポンピンポンピンポンと連続で鳴った。
なんとなくだが、ソウイチは押し主を察した。
「開いている。入りたまえ」
その想像はなんとも見事に当たった。
「不動産屋――――ッ!!」
憔悴しきったテツヤが、手の中に大量の封筒を抱えて駆け込んできたのだ。
「四階かあ」
「さっき見たら入ってた!」
「やはり総会を毎日にしたのは正解だったな」
うむうむと満足げなソウイチに、テツヤは恐る恐る聞いてみた。
「……明日は、五階か?」
「そうじゃないかなーとは思っている」
どうにもとぼけた雰囲気の彼に、いらだちを隠せない。だが深呼吸して、落ち着いてみて、テツヤは言葉をつないだ。
「なあ、……あんた、なんか知ってるんじゃないのか」
「何を?」
「この手紙を出した奴に、心当たりがあるんじゃないか?」
ソウイチは、少女をちらっと見た。
しかしテツヤには、ソウイチの視線の方向に家具しか見えなかった。
その不思議な一瞬の間のあと、ソウイチはすこしうれしそうにテツヤに問う。
「ほほう。なぜそう思う」
「なんだよいまの間……なんかそんな気がしたんだ」
うーんと難しい顔をしてソウイチは背を向けた。出来のよくない生徒に勉強を教える塾講師の気分だった。
「……理由としては弱いな。が、教えてやろう。このマンションに新しい住民が入る前は、必ず同じことが起こる」
「え!?」
同じことというのはポストに手紙があふれることか、とテツヤが言うと、そう、とソウイチは言って、向き直った。それはいかにも面白いことが始まった、というような笑顔だった。
「ただし今回みたいに、各階のポストが盛大にあふれるのはかなり珍しいがな。四階役員。お前が私のところに部屋を探しにくる前々日、一階のポストはあふれた。差出人は何を期待しているのだろうなあ」
「やっぱりなんかいるんじゃないのかここ!!」
テツヤが叫んだ瞬間、インターホンが鳴った。テツヤの身体がびくっと震える。
「入りたまえ」
ソウイチが玄関へ向けて声を放ったが、誰も入ってこない。
いよいよ幽霊かとテツヤは震えた。
「ああ……五階役員か。いまここにいるのはお前が話したがってた四階役員と私だけだ。入ってくるがいい」
「え、五階……!?」
しかしそれでも、玄関先は無音だった。誰かが入ってくる気配さえもなかった。
「仕方ないなあ。慣れるとイイ奴なんだが慣れるまでがなあ」
ソウイチがそう言いながら玄関方面へ向かいかけたそのとき、豪快な声がした。
「何やってんだいあんた! とっとと入んなきゃ集会始められねェだろーがっ!!」
玄関先から聞こえたのはヤヨイの声だった。窓から出入りするのが趣味ではなかったか? テツヤがそう思っていたら、ソウイチがため息をついた。
「あーあ二階が来た。だから集会じゃなくて総会だっていうのに。雨だから玄関から来たんだな。入りたまえ、一緒にな」
雨だから玄関から。それくらいの融通はきくらしい。変なところにテツヤが感心していると、ヤヨイがひとりの若者をずるずると引っ張りながら入ってきた。
「ようソウイチ! 五階のアキラも連れてきたよ!」
「うむ、見ればわかる。半年ぶりだな、五階役員?」
ソウイチがそう言っても、若者はスマホをいじってばかりで顔を上げようとしなかった。全身真っ黒な服で、近眼だろうか分厚い眼鏡をかけている。なんともステレオタイプな引きこもりだなとテツヤは思った。




