可愛すぎる姉妹
すこし遅れてもいいかと思っていたが、テツヤが夕食を終えて一階角部屋の玄関先にたどり着いたのは、約束の時間より三十分弱ほど早かった。ここでうろちょろして、ほかの自治会役員と鉢合わせするのも気がひける。先に一階角部屋の住人、つまり、同じ役員に挨拶して、あとはほかの役員が来るのを待っていればいいだろう――彼はそう思って、一階角部屋のインターホンを押した。
「入りたまえ!」
やたら重々しい声が聞こえた。
入りたまえったって鍵を開けてくれ、とテツヤは思ったが、鍵はとっくに開いていた。彼は多少恐縮しながら、玄関に足を踏み入れた。靴が一足しかないことに、すこしの安堵感をもちながら。
「どうもはじめまして、失礼します、四階の――――」
言いかけて、テツヤの時間が止まった。一階角部屋の住人と目が合ったからだった。何か言わなくてはならないが、声が出ない。呆然としていると言ってもよかった。
「どうした四階役員」
「アンタがどうしたんだ! 不動産屋!!」
ようやく声が出た。目の前にいたのは、今日の昼、それこそさっき、テツヤを四階角部屋に案内した不動産屋、ソウイチだった。
「どうもしない。私は一階角部屋の住民で自治会役員だ」
「……罠?」
「なんでだ」
そう思うのも無理はなかった。不動産屋が、自分の住んでいるマンションをすすめる、しかも、強制的に自治会役員にさせられる部屋を――いや、でも、家賃は安いし……
テツヤがそうグルグルと考え始めたとき、インターホンが鳴った。
「入りたまえ」
悩みだしたテツヤにお構いなく、ソウイチが声をかける。
すると、たたたたと軽快な足音がして、少女がふたり、仲良く入ってきた。おそろいの服がなんとも可愛く、たぶん姉妹なのだろう。
「こんばんは!」
「こんばんは!」
ふたりはぺこりと頭を下げる。
「おじちゃん、こんばんは!」
「うむ、こんばんは。しかし私はおじちゃんではないぞ、おにーさんだはっはっは」
変なところで見栄をはる男である。だがふたりの可愛さに、テツヤはすこし自分の悩みをよそに置いて、ほっこりとした。
「この子たちも……役員ですか?」
「三階役員だ」
小さいほうの少女が、テツヤに気がついて、トコトコと周りをまわったり服を引っ張ったりしながら、ソウイチに聞いた。
「このおにーちゃんは?」
こんどは大きいほうの少女がテツヤを見ながらうれしそうな顔をする。おそらくこっちが姉なのだろう、ちょっとしっかりした印象だ。
「あ、もしかして、四階のひと!」
「うむ、四階の新しい役員だ。こいつはおじちゃんでいいぞはっはっは」
「なんで変なとこでヤキモチ焼いてんだあんた!」
姉とおぼしき少女のほうが、ソウイチにツッコみまくるテツヤの腕をトントンと叩いて、ていねいに言った。
「こんばんは、あたしは岸田ミナです。こっちは妹のルミ。お母さんがいつもお仕事で遅いから、あたしたちがかわりに役員さんしてるの」
「してるのー」
テツヤは「偉い子たちだなあ」と、ふたりの頭を撫でた。
えへへとふたりはうれしい顔をした。
「……ん、で、不動産屋が一階、この子たちが三階。俺が四階……あとは、二階と五階か……」
ソウイチはデスクの椅子にどっかりと座り、腕組みをして偉そうな顔をした。
「おそらく二階はそろそろ来る」
「わかるんですか?」
「耳を澄ましてみろ」
「え?」




