フラットすぎる座敷童
そのとき、テツヤのスマホがまた鳴った。ただし、今度は、メール着信のメロディーだった。
「メール? ええと……『おめでとうございます』!?」
テツヤはぞわっとしてアキラを見た。スマホをふりふりとしながらドヤるアキラの顔が目の中に映る。
「うわあああもう! そういうのこそしゃべれよ五階!! てかなんで俺のアドレス知ってんだ!」
「私が教えたはっはっは」
「不動産屋!! あんたってひとは!!」
こいつひっつかんで一発は殴ってやらなきゃ気が済まない。テツヤはソウイチを追いかけたが、部屋の中、ソウイチはひらりひらりと身をかわして楽しそうに走るのだった。
テツヤも、捕まらないソウイチを追いかけながら、不思議な高揚を感じていた。
ヤヨイはその様子を見てふっと笑うと、アキラに声をかける。
「アキラ! あんたも手伝いな、くす玉!」
「は、はいっ」
ヤヨイにつき従う舎弟のように、アキラは後を追ってソウイチの部屋を出た。
テツヤをからかいながらひとしきり走ってしまうと、ソウイチもミナとルミに声をかける。
「さあて、じゃあ我々は輪っかでも作って飾るとするか」
「作りまーす」
「作るー」
ミナとルミはばんざーいと手を挙げた。よくわかっていないが、おめでたいことには間違いがないのだ。これからとっても楽しいことが始まる、ふたりともそう感じていた。
「これから祝賀会じゃ時間が遅い。総会と兼ねてしまおう。明日の総会はここ、一階角部屋だ。いいな? 四階役員」
走り続けてソウイチを殴ることもなにもかもどうでもよくなっていたテツヤは、また、その言葉を反芻した。
「明日、……」
「最後の日だ。最後にするかどうかは、お前次第だけどな。さあ、行くぞー」
はーいと手を上げて、姉妹は部屋を出る。たぶん三階角部屋でソウイチと輪っかを作るのだろう。もしかしたら、帰りが遅いという母親とも一緒になって作るつもりなのかもしれなかった。
自分の部屋ではないというのに、テツヤはひとり、ソウイチの部屋にぽつんと残された。
「探しものは、なんですか?」
声が聞こえた。テツヤは思わず、その方向を向いた。
「――――え?」
レイがいた。さっきからいたのか。まったく気がつかなかった。
「……レイ?」
「見つけにくいものでしたか?」
テツヤは黙った。俺の、探しもの……探さなきゃいけなかったもの……
すこし、沈黙があって、テツヤは顔を上げた。その顔はとてもさっぱりしていた。
「――そうでも、なかった。あったんだな。見つけられるもんなんだな」
「明日は……最後の日ですか?」
さっぱりした顔のまま、テツヤは笑った。その笑顔は苦笑にも近かったが、しかし、これだけは、はっきりと答えが出た。
「いや、違うよ。俺は役員だからな。四階の」
「ですね」
そうして、レイも笑った。
部屋は、しばらく、ふたりの笑い声であふれていた。




