盛り上がりすぎる族の皆さん
「……周り、うるさいだろ、ごめんな? え、いま? ――いいけど」
テツヤは露骨に背を向けた。何か重要な話でもあるのかと役員たちは首を伸ばして耳を澄ます。
「――――えっ!? マジか!?」
突然のテツヤの声に、役員たちはびくっとした。
「まさか破局じゃないだろうな」
「まさか……」
「でも……」
そんな役員たちのひそひそは、テツヤには届いていない。
「うん。……うん……じゃしばらく……? いや、そりゃ当然だよ! うん」
真剣になったり、にたにたとしまりがなくなったり、まるで百面相のようにコロコロ顔と声のトーンを変えながら、テツヤは電話を続けていた。
そのときだった。――先に気がついたのはソウイチだったが――部屋の片隅にふわっと光が浮かんだ。
「……レイ!?」
テツヤ以外はみんなソウイチの向いたほうを見た。
そこにはレイが手を振りながら、にこにこと笑っていた。
「眠ってなかったのかい! あー、だからトラブル少なかったんだ……!」
レイはみんなに「しー」というふうに指を口に当ててみせた。
「レイさん、笑ってる」
「笑ってるね」
レイがいま笑っているということは……
「……心配の必要はないということか?」
「まああんなしまりのない顔心配しても仕方ないだろうけどねェ」
まったくだとソウイチはうなずく。何かいいことでもあったのか、なんなのか、よくわからないが。これは詰問の必要がありそうだった。
「うん……うん。わかった。待ってる。待ってるから、ちゃんと、落ち着いたら帰っておいで。あの、俺も、休みとったらそっち行くから。大丈夫、俺の上司、そういうことには気がきくから」
ともすると失礼な言い方に、意外にもアキラが眉をひそめた。
「あんなこと言われる上司のひとが気の毒ですねえ」
「お、引きこもりの割には社会の縮図がわかってるじゃないか」
「ネットが教科書ですから」
ソウイチはすこし笑って、アキラの肩をたたいた。
「そろそろ教科書の種類を増やしたらどうですか」
「……考えときます。近いうちには」
ソウイチは満足そうにうなずくのだった。
ところで、テツヤの会話はまだ続いていた。
「じゃ……うん。いい医者かかって。水に気をつけて。うん」
ようやく電話を切ったテツヤに、役員たちはわっと群がった。
レイはまだ、その様子を遠くで見ていた。
「彼女さん、どうしたの?」
「どうしたの?」
テツヤは頭をかきかき、とりあえず、といったていで、言った。
「あー……海外出張、延びました」
「延びたァ?」
「落ち着いたら、と言っていたな。いい医者にかかれ、とも。病気か? ……いや、」
ソウイチはぶつぶつ言いながらうろうろしてみた。視線の先に、レイがいる。
レイはもっとにこにことして、「違うよ」というふうに手を振ると、とんとんと自分のお腹を叩いてみせた。
それでソウイチはすべてを察した。
「…………!! 四階役員! 貴様! 役員には年端もいかない子どもがいるんだぞ、お前これをどう説明するんだ!!」
「えっ……いやその、」
ヤヨイもどういうことなのかとすこし考えたが、レイを見るまでもなく、ソウイチの動揺で事態を把握した。
「あ。そういうことかあ! なんだいソウイチ、案外保守的なんだねェあんた?」
「アネゴ、わかんないよ」
わかんないよー、と、ルミも言う。まあ当然だろう。このふたりにはソウイチが言った通りうまい説明のしようがない。ヤヨイは、ハテナマークのままのふたりの頭を撫でながら、一番いい表現を探した。
「テツヤに家族が増えるってことさ。めでたい事じゃないか! 祝ってやんな! お疲れさん会転じて祝賀会だ!!」
アキラはそれを聞いて、すぐにスマホをいじり始める。
ヤヨイはソウイチの部屋の窓を勢いよく開けると、外にいたたくさんのヘッドライトたちに一斉号令をかけた。
「お前ら! いますぐ祝いのくす玉作りな!! コンビニとドラッグストアで色紙買い占めといで!!」
うおおおおおおーと、窓の外で一層大きな歓声が上がる。大勢の拍手も交じって聞こえた。
「いつからいたんだっ!! しかもいまどきくす玉て!!」
「うれしいんじゃないのかい? あんた、顔。笑ってるよ」
不敵に笑うヤヨイにそう言われ、テツヤは自分がいい笑顔になっていることに、初めて気がついた。
「え……」
本当だ俺、笑ってる。うれしいのか。祝ってもらって。めんどくさいって……思ってないのか……テツヤは自分の顔をペタペタと触りながら、複雑な気持ちになった。




