からかいがすぎる役員たち
「そういえばお試しはあと一日だったな。貴重な経験だったろうが、こき使って悪かったな」
「――えっ」
ふいに言われて、テツヤは戸惑った。詫びられた? ソウイチから『悪かった』という言葉を聞くなんて思わなかった。テツヤが何か言おうとした瞬間、インターホンが鳴った。
「入りたまえ!」
わわっとテツヤは慌てて自然を装う。たぶん役員たちのはずだ。果たしてその予感は当たり、ヤヨイ、ミナ、ルミ、アキラまでもがソウイチの部屋にどやどやとなだれ込んできた。
「お疲れ、ソウイチ!」
そこまで言って、ヤヨイはテツヤに気がつく。
「なんだテツヤ、来てたのかい?」
「お部屋寄ったのにいなかったから、もしかしてとは思ったけど」
続けて着信音も鳴った。
「五階のほうもだいたい落ち着いたらしいな」
アキラはスマホを握ったまま、ヤヨイの陰でうなずいた。
「まあね、でも今回は前より楽だったからねェ」
「楽!? あれで!?」
テツヤはぎょっとした。自分は三日にわたって苦労したが、ヤヨイたちは実にさばさばとした顔だ。
「いつもはもっとこじれるの」
「たいへんなの」
「こっちで把握してるトラブルも、いつもの半分以下だった。珍しいことだ」
全くだよ、いつもの比じゃなかったもんねェ、ヤヨイは言って、続けた。
「でね、せっかくだからお疲れさん会でもしようと思ってねェ。ほら、四階のお試し、明日までだろ?」
明日までと言われて、またテツヤはハッとする。そうだ、さっきソウイチも言っていたが、お試し期間の一週間は明日で切れる。
「……それは、」
ソウイチは疲れているのか、イマイチ乗り気ではなさそうだった。
「明日すればいいじゃないか」
「パーティーは何回やってもいいもんだってアネゴが言うの」
「だからいっぱいお菓子買ってきたのー」
スーパーの大きな袋を抱えたミナとルミが、デスクに袋をどんと置く。
「俺は、その、」
終わり……明日で。
「こういうのも嫌いか?」
「――――いや、そうじゃ…………」
否定しようとしたのか、それとも別の言葉をつむぐつもりだったのか、言いかけたテツヤのポケットが、メロディーを奏でた。
「あ」
テツヤはスマホをのぞきこんで急に挙動不審になった。取りたいが、環境が。
「なんだ、彼女か?」
真っ先にソウイチがそう言うと、全員が盛り上がった。
「おやおやお安くないねェ!」
「ヒューヒュー! ヒューヒュー!」
「四階、出ろよー、早くー。切られるぞー」
「ちょ、やめてくださいよ! ミナちゃんもルミちゃんもそういうことしないの!」
テツヤが通話ボタンを押そうとした直前、アキラまでもがニヤニヤと笑った。
「いいですよ出て」
「お前はこんなときだけしゃべるんじゃないよ! つか初めて声聞いたわ!」
なんとか通話ボタンを押す。
「もしもし、あっ、うん、お……」
「もしもーし! もしもーし!」
「こんばんはー」
「どーもー、お世話になってまっす!」
話が先に進まない! テツヤは全員を「ウー!」と威嚇すると、無理矢理離れた。
「ちぇ、つまんないねェ」
「まあ観察してこうじゃないか。こっち来い来い三階役員」
「はーい」
楽しそうに言いながら、役員たちはソウイチのデスクで事の成り行きを見守った。




