謎が謎を呼びすぎるその少女
「ゼロ……!?」
地下、という意味ではなく? テツヤがそう聞くと、ヤヨイとミナがうなずいた。
「幽霊ってよりゃ妖精みたいなもんだよね。見つけるきっかけを、作ってくれる」
「だからね、見つけないと、見えないんだよ」
「待って、じゃ俺はもう、なにか見つけてるってことか……?」
「わからん。だがこういう事態が起きたとき、大体レイは眠ってしまうから……忙しくなるぞ」
「眠る?」
「普通は見えないはずの子だからね。ほとぼりが冷めるまでいなくなるんだ」
テツヤに見られたとき、彼女が焦っていた理由が、ようやくわかった。
「でも、そうすると、マンションのひとたちが、仲悪くなるの」
「えぇ?」
ソウイチが説明する。
「妖精でだめなら座敷童子とでも言ってやろう。レイはこのマンションの住民のバランスを保ってるんだ。幸せもそうでないことも、全部。だから眠りに入るというのは、バランスが崩れることを意味する」
「崩れたバランスをどうにかするためにも、あたしたちはいるんだ。いやァ……前に眠られたときには大変だったよ、アキラが見ちゃったときだったけどね」
「五階が!」
瞬間、LINE着信音が響いた。
ソウイチはスマホを見ながら、ヤヨイに指示を出す。
「その五階からだ。さっそくもめごとらしい。二階役員、おさめてこい。こういうのはお前が向いてる」
「あいよ!」
ヤヨイは木刀持参で駆け出した。
救急車の予約が要るだろうか。一瞬だけテツヤはそう思った。
「その前に見ちゃったのはアネゴだったよね」
「だったねー」
ミナとルミが懐かしそうに言う。
「え。ヤヨイさんも?」
「……まあだいたい役員が何かしらを見つけたあとにレイを見ちゃってるな。たぶん役員の特権なんだろう」
「……ヤヨイさんは、なにを見つけたんですか?」
聞いてみる。あれだけ破天荒な女性が、なにか見つけなければならなかったものがあるのか。
「二階役員はもともと超マジメでなあ。見つけたのは、自分の殻を破ることだ」
「アレじゃ破りすぎじゃないですか」
「いやそうでもない。いまも眠る前にはポエムを読むし、好きな番組はNHKの大河ドラマだ」
「だからアネゴは日曜日、集会しないの」
「しないの」
「……意外」
では【なくしたもの】というのは、そういうよりは【もともと、ないもの】の可能性もあるのか。テツヤは心当たりをたどるが、やはり、思いつかない。
「しかしまァ、代償はでかい。しかも今回は見つけたかどうかもはっきりしていないからな。たぶんおさめるのに一週間以上かかるぞ四階役員、レイは一度眠ったら長いんだ」
「俺お試しだったでしょう!?」
「レイが眠ったのは誰のせいだと思ってる。幸いお試し期間が終わるまでにはまだ時間があるからな、せっかくだから手伝っていけ!」
誰のせいかと聞かれればそりゃあ自分のせいだが、一週間を過ぎるということは、彼女の帰国にも間に合わないかもしれない……テツヤはそう考えていたが、いますぐ荷物をまとめて出ていこう、という考えには、不思議とならなかった。
ソウイチの携帯が鳴る。
「三階! つぎはそっちだ、行ってもらえるか?」
「はいっ」
「行ってきますっ」
ミナとルミも駆け出した。
子どもにそんなの任せて大丈夫なんですか、とテツヤは聞いたが、ソウイチ曰く、慣れているのだそうだ。確かに、ヤヨイのときも、アキラのときも同じことをしたのなら、このことに関しては古株なのかもしれなかった。つくづく不思議な住人たちだ。テツヤは思っていた。
「さて、四階の連絡はまだだな。私は自分の部屋で待機するとしよう。四階役員、何かのときのために連絡先を教えておいてくれ。LINEIDとは言わん、メールでいい」
テツヤは黙ってポケットからスマホを出した。たぶんそれが一番いいのだ。




