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1-08話 再度コンビを組みました

「ダーマンが……、殺された?」


アリシアから発せられた言葉の意味を、俺は直ぐには理解できなかった。


王立魔道学園は先程も話したが、王侯貴族の子弟に対し武道や魔道を身に着けさせる為に設立された経緯がある。建学の志が形骸化した現代においても、当然武術・魔術教官に関しては非常に高レベルの知識と経験、何より実力が求められる。

その学園で冒険者あがりながら教壇に立ち教鞭を振るう人間、実力が無い訳が無い。

そして何より、ダーマンは巷を騒がせ、特務警邏隊の裏をかき続けた連続殺人事件の犯人だ。


そんな人間が、あっけなく殺されたりするものだろうか?


「警邏隊の地下房に拘留されていたのだけど……、監守が持ち場を離れた一瞬の隙を突かれたのね。絶叫に驚いて慌てて戻った時には、既に身体がバラバラに引き千切られて壁一面が血飛沫で染まっていたらしいわ」

「け……、警邏隊の奴らは一体何をやっていたんだよ!?」

「……、私に向かって叫んでも現実は変わらないわよ」


俺は思わず勢いで叫んでしまうが、アリシアに涼しい声で窘められる。

そうは言うがな、こっちは命を狙われる側なんだぞ!?


「お、落ち着けるかよ!アリシアはなぜそんな冷静なんだよ!?ダーマンが殺されたって事は、つまりもっとヤバイ奴が後ろにいて、今後俺らを狙いに来る可能性があるって事だろ!?」

「ええ、そうね」

「どうすればいいんだよ!ダーマンが殺されちまった以上、黒幕だって分からなくなっちまったってのに!?」

「それは違う」


アリシアの冷静な言葉に、俺は壊れたカセットの様に発し続けていた口を止める。


「…………どういう事だ?」

「推測でしかないけれど……、ダーマンが殺されたという事実が意味することは一つしかない。それこそが、さっき言った"悪い知らせ"よ」

「ま、まってくれ。悪い知らせってのはダーマンが殺された事じゃあなかったのか?」


俺は慌ててアリシアを問い詰めると、彼女はフゥと息を吐きこちらを真っすぐに見つめた。


「私はさっきこう言ったわ。"悪い知らせに通じる事"だって」


嫌な予感がする。

彼女の今までにない位硬く緊張した面持ちが、その内容の重大さを否が応でも俺に判らせる。


……まさかとは思うが、そういう事だろうか。


俺の脳内に、夕暮れ時のサボン玉の様に浮かんだ一つの仮説。

その仮説は急激に膨張を続け、やがて一つの確信へと移ろう。


「……そういう事か」

「その様子から察するに、気付いたのね?」

「ああ、あまり嬉しい事ではないけれどな……」


俺はため息を一つ付くと、暗澹たる面持ちになる。


「一応聞かせてくれ、アリシアの推測したこの事件の全容を」

「ええ……。見解の相違があっても困るからね」

「ああ」


アリシアはスゥと姿勢を正すと、滔々と話し始めた。


「まず、ダーマンが殺されたのは警邏隊本部局の地下房であるという事は話したわね。そんな場所だもの、当然警備は超厳重。普通ならそんなところに居る人間なんて殺せるはずがない」


彼女はそこで一度言葉を止めると、まるで何かを確認するかのように、ゆっくりと歩き始めた。


「でも、実際にダーマンは殺された。それは何故か?」

「……」

「そもそも、被疑者が警邏隊本部局の地下房のどの場所に居るかなんて、犯人はどうして知ったのか。」


彼女はピタリと歩みを止め、ゆっくりと息を吸い込んだ。


「内通者。内通者が居るのよ、警邏隊や特務警邏隊に。……いえ、多分それだけではないでしょう」

「同感だな。例え一人二人を味方に付けたって、こうまでも警邏隊の目をかいくぐれるとは思えない」


俺の言葉に、彼女は深く頷く。

そして、厳しい表情で俺の顔を見据え、重々しく口を開いた。


「この事件の真犯人は、国の中枢に居る人物」


そう、つまり…。


「下手をすれば、王族か」



静まり返った病室。

遠くフランソール大教会の鐘が老婆の如く嗄れた音を辺りに響かせ、悪路を走る幌馬車のがらがらという耳障りな雑音が病室を我が物顔で通り過ぎて行く。

鈍色の如く重く張り詰めた空気を崩すように、沈黙を嫌った俺はゆっくりとため息をついた。


「俺の考えも全く同じだよ」


弱々しく言葉を発する俺を見るアリシアのその顔は、思わず目をそらしたくなる様な痛ましさを伴っている。

彼女も分かっているのだろう。

この事件に首を突っ込んだ事がどれほど危険な事だったのかを。そして、俺が仮に異世界の記憶と特異性を保持している事が分かれば、まず間違いなく命を絶たれてしまうという事実を。


俺の暮らす、このフランソール公国の最高捜査機関が黒となったら、一体誰が俺を守ってくれると言うんだ?

そもそも、例え何らかの理由があったとしてもこんな人狩りを国のトップが率先して行っているというのなら、こんな国に未来なんてあるのか?

今回はたまたま生き延びる事が出来たが、果たして明日も無事に命を保つことが出来る保証なんてあるのか?


考えれば考える程、俺の置かれた状況は絶望的だった。


「ライラ」


頭を抱え、ベッドの上で蹲った俺。その肩に小刻みに震える手が添えられた。


「ごめん、なさい……」


消え入るようなアリシアの声。


「私が、貴女に一緒に事件を解決しようなんて言ったばかりに、貴女をとんでもない危険に追い込んでしまった」


彼女の言葉の一つ人に、俺は責任と後悔の重さを感じ取る。

きっと彼女はこう考えているのだろう。私が興味と復讐心から俺をとんでもない事態へ巻き込み、そして命の危機に晒してしまった。私のせいだ、と。

だが……。


「いや、君のせいじゃない」


俺はアリシアを見据え、ハッキリと言い放つ。


「例え君が俺の前に現れなくても、藤木田の死体の第一発見者となった以上、俺がボロを出してしまった可能性は十分にあった。だから……、ありがとう。君のおかげで助かった」


そう、俺が朝オッサンの死体を見つけた時点でこうなるのは必然だった。

寧ろダーマンの正体に感づいていなかった分、もっと事態は最悪な方向に動いていたかもしれないのだ。

俺がアリシアに対して抱く感情は、ただただ「感謝」だった。


「ありがとう……」


頭を下げるアリシア。

暫し彼女のむせぶ声が病室内を支配し、俺はただ静かにそれを見守った。


「唐突だけど、ライラと事件を解決するのは……、とても楽しかった」

「また急だな。まぁ、俺が足を引っ張らなくて良かったよ」


アリシアの突然の言葉に、俺は少々面食らってしまう。

一体どうしたというのだろうか。


「引っ張るどころじゃないわ、貴方は優秀よ。騎士団の警邏隊連中が霞むぐらい」

「意外だな。俺が頭を使った場面なんてそう多くはなかった筈なんだが」

「正直、上官が貴方程優秀だったらと思うわ……」

「……もしかしてアリシアって、組織の中で外れている?」


何となく次に続く言葉が予想出来た俺は、少々デリカシーの無い事を言ってしまう。

彼女は間違いなく優秀だ、そして同時に変わった所もある。

そういう人間は、社会においていつの間にか孤立してしまうという事が前世においてもままあった。

アリシアの事情の特殊性や警邏隊という組織の特異性を鑑みれば、その状況は容易に想像が出来る。


ああ、前世の俺の幼少期。そして現世。

考えてみれば、俺も似たようなものだったのかもしれないな。


「そ、そんなことはないわよ!仲間と呼べる人たちは居たわ!」


図星だったのか、焦ったように言うアリシア。

顔を真っ赤にして慌てふためくアリシアを見、俺は少々彼女が可哀そうに思えた。

やがて羞恥心が勝ったのか、次第に彼女はモゴモゴと口数がすくなっていき、遂には蚊の泣くような声になる。


「その……、それでさ。この事件、今後もライラと追いたいんだけど……、どうかな?」


まるで一世一代の告白をするかの様な声色。

内容は物騒だが、彼女の本心が籠った言葉。


俺は考える間もなく即答していた。


「ああ、勿論だ」


死にたくない。

でも、目を塞いで怯えているわけにも行かない。一人なら怖気づいたかもしれないが、コイツとならなんとかなりそうな気がする。

何より、俺はコイツの事を放っておけないと思ってしまった。


だからこそ俺は手を差し出す。


「この手は?」

「パートナー結成といったら、まずは握手だろう?」


一瞬きょとんとした表情を浮かべるアリシア。

その顔はやがて溢れんばかりの笑みで満たされ、スラリと俺の手を握り返した。


「ええ、改めてよろしくね。ライラ」

「こちらこそな、アリシア」


転生者で男の娘の落ちこぼれな俺と、元警邏隊で美少女の優秀なアリシア。

普段なら絶対に交わらなかったいびつな二人のコンビは、どうやらもう少しだけ続きそうだった。


次話、第一部のエピローグに入りますが、終わりませんのでご安心を

このまま第二部に突入します。

第二部はキャラが更に動くのでお楽しみに

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