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1-02話 コンビ結成

首筋を一筋の冷や汗が流れ落ちた。


死体を前に俺の取れる行動は2つある。

1つ目は見なかった事にするという選択肢。

通報の義務は果たしたし、後は騎士団に捜査を任せる方法だ。


普通ならこの行いが正しい、というか当たり前だ。

が、問題はこの連続殺人事件の捜査を行っているのは国家の暗部を担うと噂される王立騎士団特務警邏隊で、何より俺が異世界転生者だということ。


信号弾を見つけた警邏隊がこの後この場に駆けつけてくるに違いない。

そうすれば、当然他の事件との関連性に気付き特別警邏隊のお出ましとなる。

彼らは当然信号弾を打ち上げた人物、もしかしたら最期の言葉を聞いているかもしれない人物、つまり第一発見者の俺を全力で探し出すだろう。

そして、調査過程で万が一に俺が異世界転生者だと知られれば……。

連中は事件解決の為に、下手すれば興味本位に俺を実験材料にしかねない。


なら2つ目はというと……、事件に関わるという選択肢だ。


普通なら「何を寝ぼけた事を言っているんだ?」と一笑する所だとは思う。

だが、俺が今居るのは事件現場に他ならない。

なにかしらの証拠になるようなモノがあるはずだし、仮に決定的な事実を掴んでしまえば、ひょっとすれば特別警邏隊が登場する前に事件を幕引きに出来るかもしれない。

まあ問題があるとすれば、犯人は特務警邏隊の裏をかいて異世界人を殺し続ける殺人犯で、俺は異世界転生者の元・日本人。連続殺人犯のターゲットにされる可能性もあるって事だが…。

仮に、俺が異世界転生者でしかも死んだオッサンから話を聞いたとバレたら絶対に殺されてしまう。


つまり、どう転んでも地獄を見る可能性はあるわけで……。


「逃げても逃げなくても死しか無いじゃないか……」


俺は頭を抱えた。

ダーマン教諭の熱血指導が嫌で逃げただけで命の危機とかシャレにならない。

いや、あの熱血指導も大概寿命が縮む気はするが……。


顔面蒼白となってうつむく俺を見て、アリシアは小さくため息を吐く。


「貴方が何故そんなに狼狽えているのかわからないけど……、何か不都合でもあるならそれを払拭する為にも二人で解決するしかなくない?」

「いやいや、無理だろ普通に!というか余計なことに首を突っ込んで犯人に知られでもしたら……」


一回死んだ俺からすれば、ここでまた死ぬのはゴメンだ。

ここで事件に関われば、まず間違いなく犯人から追われる羽目になる。そうなれば、恐らく未来は明るくない。それなら見なかったことにするか事情聴取に大人しく応じる方がよっぽどマシだろう。


何より、俺はこの容姿をすごく気に入っている。

いや、三白眼で低身長というのはちょっといただけないが……。それを除けば何一つ不自由のない異世界ライフ、見ず知らずのオッサンのために台無しにされるなんて許されない。

早くも逃げる算段を始めた俺の様子を知ってか知らずか、アリシアは言葉を続ける。


「でも、元近衛警邏隊としては事件があったら見過ごせないからね」

「元、警邏隊……?」


……まさかアリシア自体が警邏隊出身とは思わなかった。

まあ、よくよく考えてみればこんな微妙な微妙な時期に転校してくる上、殺人現場を前にウットリした表情を浮かべるイカレた奴がただの一般人な訳ないけれど。


街のお巡りさんの様な役割を担う近衛警邏隊といえど、それでも騎士には変わりない。剣術・魔術・学術全てにおいて秀でていなければ入隊が許されない狭き門、これを潜り抜けた優等生。


なんでそんな奴が今更学校なんかに……。


「……ごめん。今の、聞かなかった事に出来ない?」

「あ、ああ…」


苦々しそうにはにかむ彼女を見ると……、どう考えても円満に退団したとは思えない。

俺は彼女に、その理由を聞くことなんて出来なかった。


まぁ、彼女の前歴など俺の知ったことじゃないけれど……。

なんだかちょっと気まずいな……。


暫し辺りを沈黙が支配する。


時間に直せばほんの数秒といったところだろう。

丘陵から吹き下ろす清涼な風に揺られる木々の音と共に、遠くからは始業の鐘が聞こえてきた。

どうやら思ったよりも長く、彼女との邂逅から時が刻まれた様だ。


青く高い空の下、はにかんで笑う少女と、手持ち無沙汰な青年。

傍から見れば非常に絵になる光景だろうが、あいにくここは殺人現場だ。

黙っていても事は進まない。

俺は軽くアリシアに話題を振った。


「一つ聞きたいんだが……。こんな時期に警邏隊辞めて学校に来るって……、上官の命に逆らって余計な事件に首突っ込んだりでもしたのか?」


話す切っ掛けが欲しく、アリシアに冗談めかした口調で尋ねる。

一瞬ポカンとした表情を浮かべたアリシアのその顔は、直ぐにみるみるうちに赤くなっていった。


「なんで分かるのよ!」

「図星かよ」


いや、正直言えばそうじゃないかとは思っていた。けど、まさか本当にそうだったなんて。

アリシアは更に輪をかけてワタワタと慌てだす。


「なっ、まさか適当で考えたの?アンタには私がそう見えている訳!?」

「通報で駆けつけ一番に死体をいとおしそうに触る変人が何を言っている……」

「愛おしい訳ないでしょう!」


口論になる事数分。

ゼーハーと荒い息を吐きお互いをにらみつける中、俺たちは一つの結論に至った。


「とりあえず……、まずは一旦落ち着こう。こんな事やってても不毛だろう」

「その通りね」


真面目な表情に戻ったアリシアは、俺をその意志の強そうな眼差しで見つめてくる。


「ライラ」

「な、なんだよ」


急に改まった態度にたじろぐ俺。アリシアは一呼吸置いて、口を開いた。


「貴方、私の下僕にしてあげるから事件解決に協力しなさい」


はっ倒すぞこの野郎。


「ふざけるな。せめて相棒にしろテメエ」


彼女はムッとした俺の態度にフワリと笑う。


「冗談よ、相棒でも彼女でもなんとでも言えばいいわ。だけど……、一度やると決めたなら地を這おうとも泥水を啜ろうとも解決するのが私のポリシーなの」

「地を這おうとも泥水を啜ろうとも……、か。凄まじいな……」

「あらあら。まさかビビったの?」


挑発的な目線を向けてくるアリシア。

逃げられると困るからあえてこのやり方を選んだのだろうが……、俺の腹は元より決まっている。


「まさか。俺もこんな降って沸いた不幸が原因で殺人事件の被害者になんてなりたくないからな」


にやりと笑った俺。

安心したのかホウと息を吐いた彼女は、やがてポツリと呟いた。


「見返してやりたいのよ。私を追放した連中をね」


ギリギリと歯を噛みしめ、手を強く握りしめるアリシア。

そのあまりの強さに、華奢な白い指が更に白くなっていく。


……どうやら問題の根は想像以上に深いようだ。



「そうか……、今は詳しい事情は聞かないでおくよ」

「……ありがとう。」


小さく感謝の言葉を口にした彼女は、再び真っすぐに俺を見た。


「で、もう一度聞くけど、あなたの言葉。信用していいんだよね?」

「当然だ。男に二言はない」

「貴方、女の子でしょ」


俺の言葉を冗談と受け取ったのか軽く笑うと、アリシアは上空に取り消し信号を放った。

これで緊急信号は効力が打ち消された形になる。


「さ、コレで後戻りは出来ないわよ」

「上等だ。足手まといにならない程度には手伝ってやるさ」


……いつの間にか俺もアリシアに毒されだしたようだ。



さぁ、推理を始めよう。

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