2-12話 ライラの賭け
「今から、この街を爆破する。」
「はぁ!!?」
俺の口から発せられた爆弾発言に、アリシアが素っ頓狂な声を上げる。
「貴方、気でも狂ったの!?」
「俺は正気だ」
何時もの冷静さは失われ、目に見えて狼狽するアリシア。
当然だろう、いきなり「街を爆破する」と言われて落ち着いて居られる人間なんてこの世にそう多くは無い。
「正気な訳ないじゃない!!貴方、自分が何を言ってるか分かってるの!?」
「ああ、勿論分かっている。分かっているからこそ、こうして人気の無い場所に移動したんだ。」
俺はそんな彼女を真っすぐ見据え、深く頷く。
「お前がこの結論をどう捉えるかは分からない。だが、先ずは聞いてくれ、俺の考えを。」
「……!」
大きく目を見開くと、そのまま押し黙るアリシア。
俺はその沈黙を肯定と受け取り、俺は脳内に浮かんだ考えを整理しながら、少しずつ彼女へ話し始める。
「まず初めに、一度原点へと立ち返りたい。そもそも、ソフィアの目的は一体何かという事だ」
俺はそこで一度言葉を区切ると軽く息を吸い込む。
「言うまでもなく、彼女が望むのは社会の変革だ。封建的貴族制度を崩壊させ、政治の主体を一般市民に委ねる、つまるところ彼女は『革命』を起こそうと考えているのだろう。」
「……、彼女が反王政の思想を抱いているのは有名な話よ。巡察隊を皆殺しにした現場に残された書状、その中にも革命的思想を基にした文章が書き連ねてあったのは有名な話。」
アリシアが苦し気な表情でそう答える。
「だからこそ、彼女を捕まようと騎士団は現在も全力を挙げているの。」
「そうだろうな。彼女は恐らく、そう遠くない将来に反政府勢力のシンボルに成り得る。」
彼女の言葉にそう返答すると、俺は再び自らの推測をアリシアに話す。
「だが、先程の短い会話から推測するに、恐らく彼女はまだそこまでの力は無い。今は地下に潜伏し、いずれ起こるであろう国家の混乱期に乗じて立ち上がる。彼女はその様に計画している筈だ。」
「恐らくは、その通りね。」
彼女の首肯を受け、俺もゆっくりと頷いた。
「だからこそ俺は、『街の爆破』という手は使えると考えた。」
「待って、今の話がどうしてそんな手段に結び付くの?どこに彼女が出てくるのよ!?」
混乱した様子のアリシア。俺は彼女の顔を見、薄笑いを浮かべる。
「簡単だよ、付近の王国に関係した建造物の周りにソフィアの名前を入れた爆破予告状をばら撒けばいい。」
「……ッ!」
「その上で、時間が来たら実際に魔法により爆発を引き起こし、身を扮した俺達は逃げ回る。」
聡いアリシアだ。流石に此処まで言えば、俺が何を考えているのかを理解したらしい。
「大暴れして、彼女を釣り上げようという訳ね。」
「その通りだ。彼女は今、水面下で革命を引き起こす為に動いている、言わば影の存在だ。それが、名を勝手に使われ、突然に自らの存在が白昼の元に晒されたらどうなる?計画の破綻を恐れるソフィアは、俺達を阻止する為に必ず現れる。」
「でも…、それでは一般市民に被害が出る可能性もあるわ!」
「無論だ。当然、爆破の標的は夜間人気の無い施設に限定し、爆破魔法の威力も抑える。」
俺がそう答えると、アリシアはゆっくりと顔を伏せた。
「……イカれている。確かに私達の手によるものだと露見すれば、最悪縛り首ね…。」
「だろうな。まあ、いざと言う時はレイノルズの実家に力を貸してもらうさ。」
「ソフィアが聞いたらそれこそ怒りそうだわ。」
そう言って顔を上げるアリシア。
その顔は先程までと異なり、強い覚悟に満ちている。
どうやら彼女の腹も決まったようだ。
俺はゆっくりと立ち上がると彼女へ手を差し伸べる。
「さあ、覚悟はいいか?」
「上等よ。」
俺の手を取り立ち上がるアリシア。俺はニヤリと笑うと、早速計画の詰めに入る。
「なら差し当って幾つか準備が必要だ。先ずは通信用水晶、望遠鏡、これはタイミングを合わせるために必須だな。」
「ええ、分かったわ。」
アリシアが頷くのを確認すると、俺は続ける。
「後はアリシアが身に着ける長い金髪のウィッグ、それから黒っぽい服装。これはアリシアがソフィアに扮する為に必要不可欠だ。」
「……待って。それはどういう事?」
「言っただろう?派手な爆発を引き起こしつつ逃げ回る必要がある、と。その上で、警邏隊の連中に『この事件はソフィアが起こした』と認識させる必要がある。それには彼女の存在が不可欠だ。」
「それは分かってるわ。そうじゃなくて、市中を逃げ回り目をくらませるという役目は小柄なライラのほうが適任じゃないかという事。」
ああ、そっちか。
「確かに俺のほうが適任だろう。だが、ソフィアとの交渉に関しても俺でなければならない理由がある。そして、こちらの方がこの作戦においては要なんだ。」
「貴方にしかできない……、か。つまり、貴方の切り札を使うってことね?」
若干釈然としない表情を浮かべるアリシア。
だが、彼女との対話にあたっては何よりその事実が、彼女の思い違いを正す証左となる。
俺は彼女にゆっくり近づくと、ぐいとその肩を掴み此方へと引き寄せた。
「俺を信じろ。必ず事件解決の糸口を造り出してみせる」
一瞬呆けた様子のアリシアであったが、我に返り俺の目を強い眼差しで見つめ返すと、しっかりと頷いた。
「分かったわ、貴方を信じる」
俺はアリシアに対し力強く首肯すると、通路の先、未だ明かりが灯る歓楽街の光の方へと目を向けた。
「さあ、急いで準備を整えるぞ。30分後、夜11時が作戦開始の時だ!」




