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2-10話 ピンチからの機転

「全く……。誇り高き騎士団の名を語り、市民から馬を巻き上げたあげ、あまつさえ労働者に対して暴力を振るうとは。やはり所詮は成り上がりの家の生まれといった所かな?」

「……。ソフィア・コルチャークを捕まえるという大手柄を前にして、あろう事か私たちを捕まえるなんてね。そんな事だからアンタはボンクラ騎士団長なんて――アアッ!!」


男の礼を逸した言動に対して皮肉めいた返答をするアリシアだが、その嘲罵は脇腹を蹴り飛ばされたことにより強制的に中断させられた。


「言葉を慎め、犯罪者。ソフィア・コルチャークがこんな所にだと?冗談も休み休み言うのだな」


二発、三発と続けざまに脇腹に蹴りを叩き込み、次いでアリシアの美しい黒髪をグイと掴み上げるレナルド。アリシアは苦しそうに咳き込みながらも必死の形相で男をねめつける。

男はそんな彼女に対して舌打ちすると、ドサリとその顔を床へ叩きつけた。


「見下げ果てたものだ。嘗ては警邏隊員として第一線で活躍した者が、犯罪行為を犯した挙句こんな薄汚い部屋で拘束され、己の罪から逃れるために平然と嘘を並び立てるとはな。」

「……ッ!!」


思わず目をそむけたくなるようなその光景を前にしても、拘束されてた俺は歯噛みする事しか出来ない。

もし仮にこの拘束を解くことが出来れば、まず初めに俺はあのクッソったれの貴族の顔面に一発拳を叩き込んでいただろう。


だが……。

それとは別に、この状況は非常に不味いと俺は気付く。

このままでは俺達は禄に事実確認もされぬまま犯罪者として捕らえられるだろう。

そうなれば、レイノルズの命は非常に危ういのではないか?

恐らく目の前のボンクラは()()()では無い。

となると、俺達の事をどの様に捉えるだろうか?

前回の事件の第一発見者、藤木田の部屋に居るという現実。

これでは、自らが真犯人である証拠を隠滅しているようにも見えなくない。

このままでは俺達が犯人として処理されてしまい、下手をすれば例の事件の罪まで擦り付けられるかもしれない。


「待って!アリシアは悪くないわ!!」

「失礼……、お嬢さん。貴女も学園の学生さんとお見受けしますな、この犯罪者に何か言いくるめられでもしたのですかな?」


焦ったように言う俺に対し、騎士団長は至極丁寧な言葉で対応する。

その慇懃無礼な対応に俺は思わず怒りがこみあげてくるのを感じるが、グッと堪えその顔を見据えた。


兎に角、一刻も早くこの現状を打破しなければ。

ならば、俺のこの()()()という奥の手を使ってやる!



「ライラ・ヴォン・セイレーン・アントワーヌ・ケネット!」



俺は凛とした泰然たる口調でそう、名乗る。

もちろんとっさに思いついた偽名だが。


「この名を聞いても貴方、まだわからない?」


先程とは明らかに異なる俺が身に纏う雰囲気。目の前の男、レナルドはその様子に気圧されたのか、小ばかにした様な態度を一変させる。


「失礼……ご高名な方とは知りませんでした。しかし、元騎士団員のアリシア・ウォルバートンが犯罪行為を犯したとの通報があり、傍に居た貴方も失礼を承知の上で身柄を拘束をさせていただいた次第ですが……。一体、貴方は?」

「お友達のアリシアと共に()を助けに来たのに……。本当の犯人を取り逃がした上、私達を拘束するとは…。そんな事だから貴方、アリシアに凡庸などと言われるのではなくて?」


毅然とした態度で応じる俺は、それとなくアリシアに目配せをする。


「シャントルイユ卿。私は構いませんが、彼女に無礼な態度を働くのはよしたほうがよろしいでしょうね。」


アリシアはやはり優秀だ。

俺の意図を咄嗟に理解するとは。


「ほぅ……。彼女は一体何者だというのかね……ケネット家など聞いたことがないが?それに、君と付き合い、あまつさえこの様な行為に手を貸すとは到底普通の人間とは思えん。それに、彼とは一体誰の事かね?この場には君たちしか居ないようだが」


腐っても騎士団長。人を見る目は確かな様だ。

だが、残念だが彼は思い違いをしている。俺らが助けに来たという()は確かに実在している、そしてソイツはそこんじょそこらの人間ではないのだ。


「私達が探しているのはソフィア・コルチャークによって誘拐された、ドゥラノワ侯爵家第三子、レイノルズ・ドゥラノワです」


奴の名前を出した瞬間、その場が少しどよめいた。

五大貴族中でも王家の信頼が最も篤いと言われる武闘派貴族家の子息であり、良くも悪くも貴族社会では有名な男。もし事実ならば、自らが行った行為は貴族社会において最悪手と言っても過言ではない。


「そして、そちらの女性はレイノルズ・ドゥラノワの婚約者よ」


おい、お前今なんて言った?

せめて仲の良い学友位にすればいいのに、なぜ態々後始末が面倒な事を言ってくれるんだ!?


だが、アリシアはそんな俺の焦燥には気が付かなかったようで、涼しい顔でにっこりとしていた。


「う、嘘を言うな!幾らあのソフィアとはいえ、警邏隊が囲う建物から逃げ切れるはずがないであろう!?」

「じゃあ、貴方達が入って来た時立ち込めていた煙はどう説明するのかしら?…それに、其処に落ちているモノをちゃんと確認してみたらどう?」


焦ったように声を張り上げる騎士団長に対し、アリシアは部屋の隅を指差す。

俺も全く気付かなかったが、その先には一つの懐中時計が転がっていた。

騎士団員の一人が恐る恐るそれを拾い上げ刻印を確認すると、徐々にその身体が震えだす。


「ドゥ、ドゥラノワ家の物で間違いありません……!」

「何だと……!?」


部下の報告に騎士団長は顔を青ざめさせる。

当然だろう。五大貴族の関係者を誤って捕縛し、あまつさえそれによりその子息の命を危険に晒したとなれば、自らのキャリアどころか下手をすれば命すら脅かされる事になるだろう。


その上、この話の一番のミソは、これ自体は強ち嘘でもないという事である。

とはいえ、俺のかましたハッタリがバレてしまえば大きなタイムロスになるのは事実。俺は早々と彼に妥協案を提案することにする。


「全く、もしレイノルズの身に何かあれば貴方、責任は取れるのかしら……?まあ、貴方は職務に従っただけですから、その腕章を貸していただければ不問にしましょうかしら……」

「っ……寛大なお心遣い、感謝いたします。貴方様の行動の制約が解かれるよう、騎士団の協力者としての腕章を進呈致しましょう」


騎士団長は慌てて俺達に腕章を寄越す。

これさえあれば事件終結まで騎士団員に準じた権限が与えられることになる。

つまり、身の安全が確保されることになるという事だ。


どうやら辛くも窮地からは逃れる事ができた。

俺が内心安堵していると、騎士団長は「ですが……。」と言葉をつづけた。


「しかし、ライラ嬢。大変恐縮ではありますが……、その腕章の効力は日付が変わるまで、とさせていただきます。」

「「っ――どうして?」」


俺もアリシアも声を揃えて大声を上げる。


「失礼は承知の上ではあります……しかし、我々も市民の通報を受けて動いている身。アリシア・ヴォルバートンの行為に対し何らかの罰を与えねばなりませんからな……。彼女の行為に正当性や緊急性が認められれば話は別とはいえ、今の状態では猶予は本日中が精一杯といった所でしてね」


実に腹立たしいが、彼のいう事にも一理ある。

貴族の横暴による犯罪行為がまかり通れば、当然それは大問題だろう。


かくなる上は、事件に何らかの形でケリを付け、騎士団長を納得させてしまうしかない。


「承知しましたわ。貴族は善良な市民の手本であれ、ですもの。本日の0時、時計塔の鐘が鳴るときには約束通り、彼女を引き渡しましょう。最も、それまでにキチンと彼を取り戻させていただきますわ。」

「警邏隊も貴女ご協力しましょう、無論、0時までにはなりますが。」


先程鼻を明かされた事が気に入らなかったのか、わずかばかりの嫌味を残しつつ、騎士団長は部屋から出ていく。

その後ろ姿を黙って見送った俺は、懐から懐中時計を取り出すとすぐさま時間を確認した。

今の時刻は17:00、最早一刻の猶予も無い!


「さあ、行くわよ!あと、そこの貴方!早くその腕章を寄越しなさい!!」


俺はアリシアに声をかけると、騎士団員が慌てて差し出した腕章をひったくるように奪い取る。



タイムリミットは後7時間、それまでにレイノルズを助け出さなければ!

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