少年たちのように-5
追い出されても行く所は思いつかなかった。どうしたものかと思案しながら、ふらふらと公園を散歩していた。広場に出ると小学生の低学年らしいグループが野球をしていた。
ふと、さっきの江川の顔が思い出され、近くのベンチに腰掛けて眺めていた。こんなの面白いんだろうかと思いながら見ていると、嬌声を上げながらゲームが進行していく。ルールはよく知らなかったが、甲高い声を上げながら駆け回る少年たちに目が離せなくなっていた。涼子はすっと立ち上がり、近づいていくと、大きく手を振りながら叫んだ。
「ねえ、アタシにも打たせてよ」
しんと静まった子供たちの視線にも委細構わず涼子はバットを掴むと打席に立っていた少年を押し退けて構えた。
―――しかたねえな。一回だけだよ
―――ありがと。
涼子が構えるとズバリとボールが投げ込まれた。予想外のスピードに圧倒されて見送った。次のボールは、このあたりだと見当をつけて思いっきり振ったが、かすりもせず空振りをしてふらふらとよろけた。笑い声の中、涼子はきっと顔を引き締めて、ピッチャーを睨んだ。ピッチャーの少年は、今度はゆっくりとしたフォームから、少し山なりのスローボールを投げてくれた。前につんのめりそうになりながら、ぐっと待って思いっきり振ったバットは鈍い金属音を発してボールをはじき返した。ボールはショート正面のゴロで、さっさとさばかれて一塁に送球された。涼子は走ることもなくその光景を見ていた。そして、にこにこと微笑みながら、
「ありがとね」と叫んで、グラウンドから立ち去った。
歩いていく後ろからまた少年たちの嬌声が聞こえてくる。涼子はまだ手に残っている衝撃の感触を確認しながら、機嫌良く家路に着いた。