とある現世魔王についての現状報告
広瀬たかあきらと言う存在がいる。
彼の名はこの世界に存在するどのデータベースのどこにも載っていない。
なぜか。それは彼がサーバーネットワークに侵入し、自分の痕跡を消しているからだ。
また、私立探偵を雇い、役人を買収し、警察官を買収し、全ての書類をも破却させている。
彼は凶悪犯である。
彼は人身売買や麻薬、臓器密輸などに手を染めているが、その正体が決して知れぬよう、ネット、あるいは電話を通じてのみ交渉を行う。
彼は知能犯である。
彼は某国製の音響兵器を使う。
他人の頭に電磁反応ポリマーを被せ、外耳に長波長の極低周波数音を流すことにより、対象者の鼓膜ではなく外耳を直接震わせ、音を脳波に変換して他人の脳内で音声として再生させる。また、他人の思考の動きは脳波となって現れるが、この脳波を拾って逆再生させることも行っている。始め、対象者はたかあきらより発信されてく信号を拾わせられることにより、脳に誤った情報が伝達される。その謝った情報をもとに、対象者は行動するので、対象者と他者との認識に齟齬が生じ、混乱をもたらす。対象者は人の考えが聞き取れる、などと誤認し、ある種の超能力を得たのではないかと思うことがあるが、これは誤りだ。対象者は信号の発信者である、たかあきらの意のままに脳内の情報を操作され、誤認識をしたままに行動することになる。このことが何を産むかと言えば、ただただ人格の破壊であり、人間関係の破壊であり、社会認識の欠如をもたらす。
広瀬たかあきらは破壊者である。
青年期のトラウマを元に、人間不信になり、他人を信用せず金銭のみを信奉する。
就職先でこき使われ、ロスジェネの煽りを食らって酷使され、単身アメリカに渡った。
そこで自殺しようとしたが死にきれず、誰でも良いから救ってくれ、救ってくれたものには何でも捧げる、と言って悪魔に魂を売った。
──悪魔は彼の願いを聞き届けた
たまたま買った宝くじが高額当選し、これが二度続いた。
FXに投資し、彼の預金残高はたちまちのうちに天文学的数値となった。
その後彼は、成金特有の遊びに飽きた後、金の力で世界を動かすことを思いついた。
世界各国の要人と会い、人脈のパイプを作り──途中、某国の大統領に右手の中指を切り落とされるというオマケまでついたが──彼がおおむね成功した。
裏社会にも根を張った。
彼は陰陽寮に入り、霊験法師の位を得、一番の使い手と謳われるまでに至ったが、彼の野望は止まることを知らず、音紋魔術を極め、気功術すら極めた後に陰陽寮を去った。
裏社会の人間と親交を持ち、彼らの符丁と礼儀作法を身に着け、影ながらに世を渡った。
世界各国の紛争地域に存在する武装組織と親交を持ち、彼らと取引し傭兵として雇い、我が身を護り、敵対者を排除した。
また彼は、無人機に興味を持ち、その無人機の技術を開発、もしくは買収して世界有数の戦闘爆撃機、戦略潜水艦、宇宙兵器を手にし、運用するに至った。
ここに来て、各国の首脳は彼に手を出すことが不可能となる。
なぜならば、核は無力化され、国民を人質に取られ、暗殺しようにも本人の実態がつかめず、呪い殺そうにも相手が有数の魔術師だから今のところ効果を現していない。
また、各国の首脳は自らが気付かぬ内にポリマーを被せられ、思考が読み取られているのである。
彼は極悪人である。
他人の運命をもてあそび、人のふるまいを見ては笑い、人の愚かさと必死さを勘違いしては貶める。
まさに悪魔の化身となった。
彼は生活弱者に張り付き、件のポリマーを被せては意のままに動かそうとする。
彼の目論見はほぼ完遂されるが、信仰を送られた被験者は多くの場合、被験者は数時間以内に発狂死する。
ごくまれに信号を送られ続けても長期間耐え続ける被験者も現れるが、多くの場合二週間持たずに発狂死する。
最長は三か月であった。
しかし、例外が存在する。
とある人物である。とある人物は五年と言わず、その状態にあり続けた。
その人物は彼の打倒が叶わなければ、彼との共存を目指そうとするも、彼は狂っているのだ。試みは無為に終わろうとしている。
狂気の矛盾をはらみ、大事にしようと口にする反面、毎日壊そうと不快な信号を被験者の脳に送り続けてくる。
その人物に、彼は異常な執着を見せている。
その人物の未来の向かう目を全て摘み取り、その人物の過去を全て破棄している。反面、大いに矛盾することに「愛している」という表現であらわされるほどの執着を見せているのにもかかわらず、その人物の現在を全て破壊しようとしている。
彼は狂っている。
彼を止めて欲しい。
諸君、異世界に行って勇者になっている場合ではない。
本当に倒すべき巨悪はこの世にいる。
彼、広瀬たかあきらこそが、我々人類が倒すべき巨悪である。
以上、臼より。
P.S.
これは二通目の直訴状でございます。
世の為政者の皆さん、一刻も早く彼を排除してください。
そして、破壊された被害者の現在を救済し、未来を担保してください。
お願い申し上げ、よろしくご沙汰の程を行われることを強く希望します。