1 誕生日プレゼント
・・・今年で40歳のサラリーマン・・・。
俺は仕事帰りに娘の誕生日プレゼントを買った。
・・・前から欲しがっていた小さなクマのぬいぐるみを・・・
・・・娘がどんな顔するんだろう・・・。
あははは・・・
などと浮かれていた。
すると、
ドンッ!
こんな音が聞こえて、意識が飛ぶ。
そして俺は平原にいた。
目が覚めると俺はそこにいた。
いい景色だったので、
空気も綺麗だろうと思い、
大きく深呼吸する。
コンクリートジャングルに身を置くものとしては、
心惹かれるものがあった大自然・・・。
そんなものを目の前にしていた。
ともすれば、こんな行動は当然のこと。
・・・けれど、周りに誰もいなかった・・・。
目線がかなり低いような気がしたが、
身体の方は調子がいい気がする。
ここまで体が動くのは10年以上前じゃないか?
などと試しに体を動かし、柔軟を始める。
おっ!やっぱりだ・・・。
・・・けれど、人っ子一人いない・・・。
深呼吸をして、身体も動かした。
よし!
「って、ここどこだよっ!」
こんな素晴らしい場所なんぞ来た覚えは一切ない。
一瞬夢かと思ったんだが、
昔、嗅いだことのあるような土と草の匂い・・・。
・・・それがあまりにも現実的過ぎた。
どこかわからないにしても、
連絡を取ろうと、
ポケットを漁る動きをするのだが、
・・・ポケットがねえ・・・
てかあれ?
ていうか服は?
・・・まさか全裸・・・っていくらなんでもそれじゃあ・・・。
・・・というか、なんかやけに触り心地がいい気が・・・。
ふわふわ・・・もふもふ・・・。
「・・・・・・。」
どこか見覚えの・・・いや、触り覚えのあるような感覚が・・・。
俺はもう一度自分に触れる。
ふわふわ・・・もふもふ・・・。
・・・まさか・・・。
俺はたまらず、
近くに合った水たまりに近づく。
「・・・・・・。」
・・・小さな子供くらいの大きさの体躯。
・・・茶色の毛皮。
・・・真っ黒の可愛らしいお目め。
・・・これ・・・すんげえ見覚えあるんだけど・・・
「・・・・ってなんだこれ~~~~っ!」
空に響き渡る。
・・・なんでそんな慌ててんだって?
そりゃあ・・・
・・・・ぬいぐるみになってんだからなっ!!
すると、天から紙らしきものがが舞い降りてくる。
手紙にはただこう書かれていた。
ごめん~♪
身体間違えちゃった、テヘ♪
でもかわいいからいいよね♪
あはははは。
娯楽の神より
ブチッ!
「・・・・・・。」
・・・意味が分からん・・・。
・・・身体間違えちゃった・・・?
・・・どういうこと・・・?
ただ1つわかることがある。
こいつは自分が悪いとか一切思っちゃいねえ・・・。
ってことが・・・。
そして、それに対して、俺は桁違いに腹が立っている。
・・・この手紙を書いたやつに一発お見舞いしたい・・・
・・・いや、しなければいけない気がする・・・。
すると、もう一枚の紙が舞い降りてくる。
すまん・・・。
儂が目を離した隙に娘が・・・。
・・・お主をその体に転生させてしまったようじゃ・・・。
・・・すまんが、その体でどうにか過ごしてくれ・・・。
・・・せめてものお詫びとして、魔法を使えるようにしといた。
特別な魔法もじゃ・・・楽しみにしといてな・・・。
異世界の全能神より
・・・やっぱり、あいつが何かしてんじゃねえか・・・最悪だ・・・。
と言いつつも気になることがいくつかある。
例えば・・・魔法・・・。
おしゃっ!
魔法だ魔法っ!
これでこれで・・・特に何も浮かばんな・・・。
・・・魔法と言ってもそれほどテンションが上がらん・・・。
・・・もう40だしな・・・そんな元気はもうない・・・。
・・・そんな元気があるのは娘と遊ぶ時くらいだ。
「・・・・・・。」
そんな些事よりも俺には大切なことがあった。
・・・というか、転生とか書いてなかったか・・・?
・・・しかも異世界の全能神とも・・・。
俺は急いで使えそうな手紙の方を開く。
上から再び目を通していく。
・・・書いてある・・・。
てことは・・・俺・・・死んだの・・・。
・・・娘に誕生日プレゼントも渡せずに・・・。
・・・しかも・・・これって・・・
・・・娘にももう・・・会えないんじゃあ・・・。
『ぱぱっ!』
『ぱぱもいっしょにするの~。』
『今日はぱぱといっしょにねる~。』
・・・俺の人生・・・終わった・・・。
・・・最愛の娘に会えないなんて・・・。
そんなショックで打ちひしがれていた俺にこの世界は・・・
タラ~リ・・・。
俺はなに事かと上を向く。
大きな口、鋭い牙、そして羽・・・。
・・・空飛ぶ肉食獣・・・
・・・甘くはなかった・・・。
俺の頭の中にはその言葉が浮かぶ。
「ってドラゴンじゃねえか!」
俺は駆け出す。
後ろを見ると・・・。
ドシンッ!ドシンッ!ドシンッ!
「ギャオウゥゥゥ~~~~。」
大きな音を鳴らして、追いかけてくる。
俺はこの小さな体で、
走って走って走りまくった。
すると、いつごろかわからないが、
追いかけるのを諦めたようだ。
「し、死ぬかと思った・・・。」
さっきのはアレがアホだったから助かったんだ・・・。
・・・もし空を飛ばれていたら・・・
ブルルルルッ!
・・・考えるだけでも恐ろしい。
・・・これで、俺は黄昏ている暇はないと悟る。
気を抜いたら死ぬと・・・。