3.無茶しやがって
繁華なウィレイドの街に、邪悪が立ちこめる。この世にはびこる怪物、ザイノーア。それが、この街に現れてしまった。恭一は住民に逃げるよう指示しながら、怪物に突進する。雷をまとった爪を、敵に打ち込む。強力な連撃に耐えられず、怪物は浄化された。
だが、そこで安心はできなかった。新たに現れたザイノーアが、幼い男の子を狙っていたのだ。
「しまった!」
恭一は咄嗟に駆けだし、男の子をかばう。直撃を受けたうえ、無理な受け身を取ったことが災いして、恭一の体は思うように動かせなくなっていた。男の子を逃がしはしたものの、今の恭一に勝算はない。容赦なく、次の攻撃が繰り出される。くっ、万事休すか――
赤い剣閃が、ザイノーアの腕を切り落とす。恭一に繰り出されるはずだったその一撃は、無残にも地に落ちた。同時に、怪物の体が紅蓮の炎で覆い尽くされる。恭一に背を向けるように、男が立ちはだかった。剣を握り直し、再びザイノーアに切り込みを入れる。浄化された怪物は光のカケラとなり、男の手に収まった。
「ニコ! どうしてお前がここに…?」
恭一は驚きのあまり目を見開いた。対してニコは恭一の質問にも答えようとせず、彼に近づいた。そして、恭一の足を、軽く小突くようにして蹴った。
「うっ…」
完全にバランスを失った恭一は、前のめりに倒れて膝をついた。そんな彼を、ニコは見下ろす。
「ったく、お前足腰立ってないじゃねーか。たかだか男の子一人守るために無茶しやがって」
「…すまない」
ニコの発言に、恭一は苦笑してうなだれた。そう言いつつもニコは恭一が無事であったことに安堵していた。間に合って良かった、と。本当は、不安だった。あの不思議な少女の言うように、守れないかもしれないと。けれど、救えたんだ。男の子の命を救った、恭一の命を守れたんだ。
「…そういえばまだ礼を言ってなかったな。ありがとう、ニコ」
「別に、大したことじゃない」
まっすぐ恭一にほほえみかけられ、ニコは照れ隠しでそっぽを向いた。至極嬉しく、顔も紅潮させていたが、それを見せまいとしていた。身を翻し、歩き出す。が、ニコは恭一が付いてこないのを不審に思った。
「…なにやってんだ」
振り返ると、まだ恭一は地面に膝をついた状態だった。体を支える手が、わなわなと震えている。
「わ、悪い…俺、本当に立ち上がれないんだ。」
「そんなにボロボロだったのか!? よく立っていられたな…」
呆れ顔をしながら、ニコは恭一に近づいた。彼に背を向けてしゃがみ込み、腕を差し出す。
「…つかまれよ。」
「い、いいのか?」
ニコが頷くと、恭一は彼の肩を借りて立ち上がった。そのまま、病院に向かって歩き出す。
道中、にわかに恭一が顔を上げた。
「ところで、どうして俺がウィレイドにいるなんて知ってたんだ?」
「べっ、別に何でもいいだろ!」
唐突な質問に、ニコはあからさまに挙動不審な返答をする。どうしてそんなに慌てているのかと、恭一の頭には疑問符が浮くばかり。だがニコは、それ以上言おうとしなかった。
(まさか、夢で見たから、なんて言えないよな・・・)
一迅の風が、二人のそばを通りすぎていった。
夢は夢でも正夢だった!というオチです
でもまあ、恭一のピンチは免れたね
そしてこっそりツンデレー(気付いた人いるのか?)
次回はニコ以外の人視点です!
物語の動向はどうなる…?