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ヤチ――1

  運転しながらも後ろの気配に意識を集中する。何故かって? 怖いからさ。

 俺はヤチアキコンビでお馴染みの片割れ、ヤチ大尉だ。現在、シャイン部隊隊長のミナモ大尉を輸送中だ。


「暑いな、冷房を付けるか?」

「――落ち着け」

 助手席に座るアキに言われ気が付く。声は擦れ、手汗が滲みだす。暑いわけでは無い、ただただ緊張が限界に近いのだろう。 

 ミナモ大尉は俺たちの隊長の妹だ。だが緊張の理由はそれでは無い。――シャイン部隊、最恐の死神部隊。ナグモのエース部隊が対トランキル部隊ならシャインは対スイーパー部隊。裏切り者を抹殺するために存在する兵士専門の兵士。


「もうすぐ着く、分かってるな?」

 分かってるさ、――分かりたくもないがな。


 俺たちに与えられた役目、それは出来ればやりたくは無い。

 今回見つかった適性者は規格外、故の審査だ。得てして規格外の人間ってのはイかれている。どんなに強力な力の持ち主も、協調性や人間性の低い奴は軍として使い物にならない。そして時には逆にこちらに牙を向ける第三の勢力になりかねない。そうなる要素があればその時は俺が、俺たちが。




「それでは行ってくるぜ」

 居住区から少し離れたところにライトを停め、外に出る。しかし考え事をしているのかミナモ大尉は気が付いていないようだった。仕方ないので窓を叩き一応声をかけておく。


「しかしW10ってどんなもんなんだ? そもそも俺たちは兵士では無いしダイブは使えないからどんだけ凄いのか謎だよな」

「――聞くところによると適性が低いと起動するのも時間がかかり、何するにもラグがあるらしい。しかも苦痛すら伴うとか、それがW10ともなると」

 ラグも無く、反動もなしか。それは凄いな。

「ダイブってのは色々と機能が多すぎてよくわからんからな」


 ダイブってのは小さい端末を体のどこかに植え付ける物らしい。頭の中で起動と念じれば起動し、体中から目に見えない電磁オーラを発生させる。そのオーラがいろんな効果をもたらすらしい。


「ここだ」

 調査書通りならこの豚小屋にいるらしい。


「イソベ、イソベはいるか!」

 木でできたボロい扉を叩き呼びかける。正直早くここから去りたかった。ここに限らず居住区に押しやられた者たちは俺たち軍人に良い感情を抱いていない、当たり前だが。


「えー、はいはい。いま開けますよっと」

 出てきたのは予想よりも細く弱そうな男だった。こんな男が規格外の男なのか。


「――お前がイソベか? お前は選ばれた。感謝するがいい」

 返事次第では俺はこいつを……、だがこいつは俺たちの想像を遥かに超えてきた。


「遅いよ! 何時まで待たせんだよ!!」


 遅いだと? 待たせるな? どういうことだ。――っは! そう言うことなのか。

「……なるほど、お前は分かっていたわけか。そして待っていた、私たちが来るのを。そのやる気は買うが、これからの事は怖くないのか?」


 こいつは分かっていやがった、いや最初からこうなるように行動していた。自身の適性を分かっていてあえてあの面接に臨んだんか。兵士として戦う覚悟を最初から持っていたのだ、故にこれだけ待たせたことを怒っているのか。

 自然と出る笑みを止められはしなかった。試す様に挑発してみた、どんな答えをするか試してみたくなった。やはりここでも俺の予想を超えてきやがった。


「笑わせるな、俺はフリーでいくつもの戦場を駆け巡った男だぞ。ある時は口のデカい奴を黙らせ、時にはいくつもの異物を排除し、必要とあらば上に位置する筋肉馬鹿を拳一つで…… そんな修羅場を潜り抜けた俺に怖いか? お前の間抜けさの方が怖いわ!!」


 その声は顔は絶対の自信を纏っていた。

 何が一番驚くって、こいつはダイブを使わずその肉体でトランキルを相手取っていたと言う。ムツキを黙らせ、気持ち悪い突起物をもつキサラギを排除し、更に最上位種にして住処を護るウヅキを倒したと。それ即ち、住処に近づいたということ。


 ちょっと待てよ、確か数か月前に奴らの住処の一つが突然崩落したことがあったな。捕らえられていた人間たちが逃げ出し保護できたことで、奴らが実験と繁殖の為に俺たち人類を捕らえていたことが発覚した。逃げ出した者たち曰く、突如奴らが暴れだし同士討ちを始めたとかなんとか。


「そうか、やはりそんなのか。お前があの――」

 どうやらアキも同じ発想に至ったらしい。


「待たせたのなら申し訳ない。それとお前を試したのは謝ろう、たしかにお前の適性を考えれば恐れる必要はないか」

「やはりあの時に適性を図っていたのか。途中から違和感があったからそうではないかと思っていたんだ。気が付いていたのは俺だけだろうがな」

 

 マジかこいつ。あの面接中に面接官がダイブを起動していたのが分かっていたのか。いくらあの面接が適性調査の意図があったと理解していたとはいえ、あの電磁オーラは肉眼では確認できず感覚も掴めない。それを…… 適合率が高ければこんなことも可能なのか。


「……まいった、まいった降参だ。まさかあれすら見抜かれていたとは。普通の奴には気付きようがないんだがなあれは、まさに適合率が成せる技か」

「ふっ、まあ俺クラスのフリープロにかかれば当然だ」


 こいつ、まさかフリーの兵士として今まで戦っていたのか。もしかしてもうダイブも持っている? まさかな。


「早速で悪いが、今すぐ来てもらうぞ」

 こんなやつを放っておくわけにはいかない。俺は目にしているのかもしれない、人類の救世主を。





 この時の俺は知らなかった。適合率の高い奴は、他人のダイブを使えることに。

 その力をもってすれば適性を持たない奴にもダイブを使わさせることができることに。


 俺もこいつと長くともに戦うことになるとはね。


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