第五話 人殺し 後編
悪魔の笑い声が響く。おそらく、私がまた考えに行き詰ったことを察知したのだろう。だが、悔しいことにそれは事実だ。理論上可能なことに不死も同時使用も無い。悪魔と契約するというのは人間以上の魔力を得るということであり、技術を得るということでは無い。だから、強力な魔力が必要なことができるようになっても高度な技術が必要なことができるようになるわけではない。それに、不死も同時使用も技術云々の話ではなく不可能なことだ。不死に関しては神の奇跡であり、人間に手が届くものではないし、同時使用は自分が二人いないと無理な話だ。
「自分が……二人?」
自分の言ったことを急いで考え直す。
非現実な理論の話であるが、自分が複数いればその分作業を分担し同時進行できる。だから、魔術師が二人いればこの不可解な現実にも納得できる。だが、この場にいるのは魔術師が一人、悪魔が一匹。だが、この方法でも考えが行き詰る。
行き詰ったがこの方法に近いと感じる。自分が二人は無理だが、自分と同じ存在がもう一人いれば。例えば、分身の術を使えば作業分担が可能だし、双子の魔術師も作業が分担できるかもしれない。だが、それを実現するにはもう一人は周辺、この部屋にいなければ不可能だ。だが、この部屋に隠れる場所など存在しない。
「……くっ」
魔術師が全ての黒炎球の軌道を変えて攻撃してくる。解析がまだ途中だが対向防護術を構築し魔術師の攻撃を防ぐ。緊急回避の防護術よりもダメージも消費神力も少ないのだが完全ではないのでいずれやられてしまう。
しかし、嬉しいことに耳障りな悪魔の笑い声が止んでいる。そのことから私が核心に近づいていると覚るのだが、近いだけでは意味が無い。核心に辿り着かなければ意味が無く、私は魔術師に殺される。
「……魔術師に?」
ちょっと待て、何でこの不可解な現実を魔術師が引き起こしていると私は思った。何で、悪魔が何もしていないと思った。悪魔はただ笑っていただけだった。だが、それが何もしていないということにはならない。魔術師は動作だけで魔術を使える。人間以上である悪魔も当然同じことができる。
魔術師ではなく、悪魔が全ての元凶だったら。そう考えると全てが解けた。
「へー、その顔。やっと気づいたか俺のやったことに」
魔術師。いや、魔術師だった者はそう言って攻撃を中断する。
「そうだ。だが、お前ではなくそこの悪魔がやったことに、な」
「ほう、俺が何かしたのか人間?」
悪魔が攻撃を止めたのは私が出した答えを知りたいのだろう。ここで、こいつらが望まない行動にでれば、先程の状況に逆戻りしてしまうので悪魔の娯楽に付き合う。
「していたじゃない。魔術師、いや、魔術師だった者に無詠唱魔術を使わせて攻撃を」
「魔術師だった者?」
魔術師だった者が間抜けな声で私に訊く、その声を聞き悪魔は盛大に笑う。
「だった、だろ。だって、お前はもう死んでいるし」
「えっ……」
また間抜けな声を出す。そして、悪魔は笑う。もしかしたら、悪魔はこれのために回りくどいことをしていたのかもしれない。
「嘘だ。そんなの嘘だ。お前もこの馬鹿に嘘だと言ってやれ」
「残念だがこいつ言うとおりだよ、召喚者さん。そして、もう用済みだ」
それは悪魔の死刑宣告だったのだろう。ギロチンで首を刎ねる様に悪魔は一瞬で召喚者だった者を消す。思えば、嘘をつけない悪魔が魔術師を契約者ではなく召喚者と言ったことに気づけばもっと早く解けたのかもしれない。
「さてと、邪魔な玩具を片付けたことだし回答を訊こうではないか、神の犬。その間は何もしないから」
「では、お言葉に甘えて。お前がやったことは、人形遊びだろ。お前はあの魔術師に召喚されたが契約をせずに召喚した魔術師を殺した。その死体を自分の力で人形とした」
人形使いという人形に自分の力を与え戦わせる魔術師が存在する。人形使いは人形に魔術を使わせることができるのだが、人間の魔力では人形は下級魔術を使うだけで精一杯だ。だが、強大な魔力を持つ悪魔の人形ならば、人間と同等の人形ができてしまう。
人間と同等の人形。それが、あの魔術師の正体。死体を使っているから死霊魔術の方が言い方としては合っているのかもしれないが、死体を玩具にしている悪魔の場合は人形遊びと言うのがいいと思う。
「で、人形使いと同様の方法で死体という人形と作業分担をした。あの黒い炎の球は黒炎球と言えばいいのか?人形が黒炎球を出し、お前がそれの制御をする」
「正解。だが、一つ間違えているな。俺の玩具は魔術師ではなくただの人間だ」
今、何て言った。……ただの人間。ただの人間と私を戦わせたのか、こいつは。
私の気持ちを無視して、悪魔は語り続ける。悪魔にとって今の私はさぞかし楽しいのだろう。
「俺はあの人間を召喚者と言ったが、召喚されたとは言ってない。理由は知らないがあの人間は世界に対して深い憎しみを持っていた。俺はそれに引かれ、召喚された。そして、俺は魂を食い、人形にした」
「さぞかし楽しんだみたいだな、悪魔。じゃあ、今人間を食っているのはお前の娯楽か?」
悪魔に対する怒りが膨らむのだが、それは邪魔でしかないと判断し抑える。しかし、冷静な振りをすることによる精神的な負荷はどうしようも無い。
「そうだ、俺の娯楽だ。だが、俺は願いを叶えてやった、俺の人形の願いを。あれは俺の人形だが人格は本物だ」
「それは何。人形に対する慈悲だとでも言いたいのか。だとしたら笑わせてくれる。お前は自分のために人形の願いを叶え、人形に人格を与えた。おいしかったか、裏切られた人形の絶望は」
「最高だった。何度食べてもあきないだろうけど、残念なことに材料はたっぷりあっても調理には時間がかかる。とりあえず、今はお前を食べることで我慢しよう。これは俺の勘だが、お前は珍味だな」
珍味か、面白い言い方をする。
「そうかもしれないな。私の性格は異常だからな」
「やはりそうか。ならば、珍味に調理など不要。というより無粋だな。珍味は……」
悪魔は言葉を区切り。
「調理をせず、生で踊り食いに限る」
悪魔は狂った様に笑う。これは悪魔の宣言なのだろう。ならば、私も返そう。
「上等。食えるものなら、食ってみやがれ」
右手の甲に左手で十字を切り、私は悪魔に宣言を返す。これを合図にして戦闘を開始され、私は神の手、道具となる。




