第二話 活力の補充
少し元気がでたが、もう少し活力が欲しいと思った所で携帯が鳴る。携帯には大司教ファエル様と表示されている。
また、人を殺すのかとうんざりしながらも電話にでる。でなければゴールを目指すことをやめたことになってしまう。
「任務ですか?大司教様」
「そうです、エヴァリス。後、様はいりません」
様付けしてしまうのはそれだけの恩がこの人にあるからだ。だから、やめることができないが、今だけはやめることにする。
携帯を通した声なのに、何故かこの人の声は肉声と同じ様に威厳とかを感じてしまう。それだけの力がこの人にはあるのだろう。
「申し訳ありません。それで、相手は何者ですか?魔術師ですか、それとも悪魔崇拝者ですか?」
「魔術師です。ですが、その魔術師は悪魔を召喚し契約しています」
悪魔という言葉を聞いて、私の原動力に火が点る。
「本当ですか?その任務受けさせてください」
「わかりました。では、詳しいことは教会で話します」
「……あなたの願いが叶いますように」
ファエル様の用件は終わったと思い、携帯を閉じようとしたらいつものお言葉をかけてくださる。
「もったいないお言葉です」
感謝の言葉を言い、携帯を閉じる。
実在するのかわからない神は私に道を示さなかった。だが、ファエル様は私に道を示し、私を救ってくれるのは確かなことだ。少なくとも、今私は救われている。
「それでは、任務の説明をします」
蝋燭の明かりに照らされる光の届かぬ教会の地下の一室にて、黒一色の聖衣に金色の十字架を首に掛ける温厚そうで、絵に描いたような神父な中年の男性、大司教ファエル様は言葉と共に新聞記事の切り抜きを私に差し出す。当然のことだが、新聞に魔術や神術等の異変が載るわけが無い。切り抜きを渡すのはその事件に異変が絡んでいるということだ。
差し出された記事の内容は連続行方不明。年齢も職業も性別もバラバラ、関係性の無い複数の人間が行方不明になっているという事件。
「この事件に魔術師が絡んでいるということですか?それも、悪魔と契約した魔術師が」
「そうです。そして、エヴァリスに魔術師と悪魔の討伐を任せます。必要があれば何人か同行させますが」
「いえ、私一人で十分です。この犯人の魔術の腕は中の下でしょうし」
行方不明者は悪魔の餌になってしまいもう生きてないだろう。高位悪魔は人間を喰うことなく世界に存在できることからこの餌を必要とする悪魔は低位悪魔と考えられるし、ここまで大事にしてしまう魔術師の隠蔽技術の無さからこの魔術師の技術力のそこが知れる。
「そうですか。では、よろしくお願いします」
「はい、必ず神の敵である悪魔を討ち取ってきます」
一礼をしてから部屋を出ようとする。
「悪魔だけではなく魔術師も、ですよ。エヴァリス」
ドアのノブに手を掛けた瞬間、ファエル様が私に声を掛ける。だが、その声には先程までの温かさも威厳も無い。ただ、冷たいだけの声。
「……わかっています。大司教様」
冷たさで凍りついた口を強引に開け、相手が聞こえないかもしれない声を絞り出すだけで精一杯だ。
初めてこの声を聞いたときには驚き、何も言えなかった。ファエル様は例え敵であろうと慈悲の心を持つ聖人君子だと思っていたイメージが全壊してしまった。だが、それは敵だからと納得していたが、時が経つにつれ少しずつ逆だとわかった。この声がファエル様の本当の声。誰であろうと逆らうことを許さない。聖人君子でも神の従者でもない、俗世の人間、それがファエル様の本当の姿。
しかし、そんな俗世の人間でも私は従う。私は願いを叶えるために寄り道をせずに一直線に進むと誓ったのだから。
ある部屋の前で足を止める。ファエル様から連絡が無ければここに来るつもりだった。けど、今はファエル様の話を訊き十分に活力を補充できたのでここに入るのは止める。今は悪魔を殺すことだけを考えなければならない。




